「そんなにめくじら立てることないのに」
逃げるように席を立った男の背を射殺すような眼差しで睨みつけるヴィクトルに勇利は少しだけ呆れて零す。
見知らぬ男。
多分容姿に自信があるんだろうけど、ヴィクトルを見慣れた勇利からすれば気に留める価値もない。
カクテルを贈られても、そんなこと本当にあるんだとしか思わなかった。
小さな変わった形のグラスが珍しくて首を傾げれば、そんな勇利誘われたように近づいてきた男が「ブロージョブって言うんだ。手を使わないで飲むんだよ」と欲を滲ませた声で囁いた。
なるほど、勇利がヴィクトルと肉体関係にあると知っての狼藉か。
どんなふうに抱かれるか、その様を嘲りたいのか視姦したいのか⋯。
おそらく後者だろうなと思えば、愉悦で口角が深く上がり、唇が笑みの形を作った。
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