②杏千リレー小説<京都編・一日目・2>「千寿郎?」
伺う声と共に、ラバトリーの鏡に杏寿郎が映り込んだ。
「あ、兄上、お待たせしてすみません。時間がありませんよね」
千寿郎は慌ててTシャツを整え、しおりのタイムスケジュールを思い出した。この後は、嵐山まで電車での移動が控えている。いつまでも、ここに居る訳にはいかない。
「焦らなくて良い」
扉を開けてここから出ようとした千寿郎を、杏寿郎の手がそっと制する。
「今日は暑いから、また汗をかくだろう。これを着てはどうだろうか?」
杏寿郎が差し出したのは、ファストファッションの店で売られている速乾性のインナーだった。未開封のパッケージに、千寿郎は目を丸くする。
「もしかして今、買って来てくれたんですか?」
「ああ。丁度、駅ビルの中に店があったんだ。色は白にしたが、好みでなかったらすまない」
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