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    tooi94

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    tooi94

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    qs5のアクションゲーム/元は7年前にqs3で出たアクションゲーム「ゴーストYヤーシンヨコ」/有識者曰くシナリオに大きな変更なし/主人公はヒヨ兄/そしてY

    ゴーストYヤーシンヨコ オリジン >capture 00

    この街で起きる不可解なことは大体吸血鬼絡みだ。

    退治人レッドバレットことヒヨシは、いつものようにギルド経由の仕事をこなしていつものように女の子達に声援をもらって、けれど彼女達をどこぞへ連れ込むこともなく帰路に着いた。
    ただでさえ、ここのところ依頼が立て続いて、弟妹と時間が合わない。
    明日の朝はきちんと起きて、久々に弟妹と一緒に朝食を摂るのだ。出掛けに冷蔵庫の中身を確認したし、妹には明日は自分が作るからと言って出てきている。足りないものを深夜営業のスーパーで買い足して、ついでに牛乳も安ければ購入しておくつもりだった。
    だった、というのは、駅前でフラフラと歩道を歩く女性と彼女に向かって突っ込んでいく暴走車を見かけて、うっかり庇ってその車に撥ねられてしまったからだ。

    次に目覚めたとき、そこは病院やVRCだったとかはまったくなかった。
    ヒヨシは事故ったときそのままで地面に寝そべっていた。あまり時間が経っていないのか。それにしたって人が撥ねられたのだから通行人とか、せめて運転手は介抱しているべきだろう。
    そういえば自分が庇った女性は、と起き上がって辺りを見渡す。奇妙なことに、身体に痛みは全くない。
    少し離れたところで、横倒しになった自動車がある。なかなかの事故だ。それなのに、人がいない。
    時刻は確かに深夜で人通りは少なかった。しかし誰もいないのはおかしい。よくよく見渡せば、地面には衣服や鞄、靴が落ちている。それは散乱しているというより、人が身につける1セットずつがまとまって残されていた。まるで、
    「人体だけが消えたのだよ」
    突然聞こえた声に驚いて振り返るが誰もいない。
    「…なんじゃ、吸血鬼か?」
    「正解だ、退治人くん」
    「貴様の仕業か」
    「残念ながら不正解。これに関しては私もまた被害者と言える。とりあえず君、歩くのに支障はないね。ちょっと隠れてくれないか」
    「何、」何からだ、と聞く前に、どこからともなくしゃらんと鈴が鳴るような音が響いた。青白い霧が辺りに立ち籠める。
    とりあえずあの車の影に、と言う見えない吸血鬼に従って、ヒヨシは身を屈めて移動した。
    通ったのは首のない人の形をした何か、顔のない人型の何か、何か。
    「…吸血鬼の眷属?」
    「そこまで上等なものではないかな、私たちは傀儡と呼んでいたがね」と吸血鬼が言う。「ついでに上を見てごらん」
    「うわ」
    上と示された先には、白い人の形の浮遊物があった。なかなかのホラーだ。弟が見たらきっと泣くだろうーー否、今はもうそんな年齢ではないのか。
    「幸いだ」と吸血鬼が言った。「この事態を引き起こした加害者は、まだあのいのちたちを確保できるほどの力が戻ってない」
    「やっぱあれヒトダマとかそういうオカルト的なもんなんか」
    「さぁてどうだろうねぇ。私の認識では、加害者が食べやすい状態に下拵えされたものかな。君たちが果物の皮を剥くように」
    「やっぱお前、敵性か」
    「加害者がと言ったよ?」
    くつくつと笑う気配がある。確かに敵意はないのだろうが、ヒヨシはこの吸血鬼が気に触る。
    「むしろ感謝してほしいなあ、私がいなければ君もあの寄る辺なきヒトダマに成り果てていたよ」
    「ほおん。それで、お前は今どこにいてなんの目的で俺に話しかけとるんじゃ」
    「いいねえ話が早い!」
    吸血鬼が言うには、加害者とやらは過去に何がしかをやらかして常夜神社に抑え込まれているらしい。それが今夜反撃に出た。
    加害者の本分は催眠だ。相手を意のままに操り使い潰す類。先ほどの傀儡たちはその成れの果てだ。もはやあれらには、ヒトが言うところの魂はない。ただのモンスターと考えて構わない。
    傀儡たちはおそらく一度常夜神社に集められ、主人の指示を受けてから人魂たちを回収する。そうなればおしまいだ。
    通信の妨害と出入りの制限程度の結界が張られている。外からの助けは、外の誰かが気付くまで期待できない。
    「あれはまだ目がよく見えず鼻も効かない。結界の使い方も見様見真似で付け焼き刃もいいところだ。だから生命の区分が曖昧で、把握もできない。この深い時間に眠りについている良い子たちは、動いていないから気付かれていない。見逃されている。同様に、結界が発動した瞬間、息が止まっていた君は死んでいるものと誤認され、また今は私という夜が被さっているせいで、やつは君が生きていると認識できない」
    その情報に、ヒヨシは安堵した。弟も妹も平日はもう眠っている時間帯だ。見逃されている。
    「朝に目ぇ覚ます前にヒト助けしてあん傀儡ども潰しゃええんか」
    「君、結構脳筋だね?」
    それは素直に感心したように聞こえる。逆に腹立たしい。
    「さて君の目的はそれで決まった。そこで私が今どこにいてどのような目的で君に話しかけているかについてだが。
    私の本体は加害者の傍にある。というか盗られた。目的はそれを取り戻すこと。そのために、あのときちょうどよく死んだ君の身体をいただこうとしたんだ、友人にグール使いがいてそれを参考にさ、でもなーんかぜんぜん、ふつうに君生きててさぁ」
    「よし、本体戻したらVRCじゃ吸血鬼」


     >capture XX:環状2号
      >>tutorial:対雑魚

    「先ほども言った通り、傀儡たちは加害者の催眠によって意志を奪われ擦り減り使い潰された成れの果てだ。よって、胎児人君が普段愛用している銀製の武器は効果が薄い。
    そこで私が君に力を貸そう。君が発する言葉を聖句とし、その重みに寄り君の力を増幅させるものだーー刮目したまえ。
     Y談の光あれ!」
    「ホァーー!? ちょっとやわやわになってきた尻肉ーー!?」

    Y談波によりヒヨシが傀儡を殴り飛ばせるようになりました。性癖を叫びながら敵を攻撃してください。
    人魂を取られないように頑張りましょう。
    自身の残ゲージにも十分に注意してください。


      >>interval:ブリンスホテル ちょっといい部屋

    吸血鬼はここに2週間ほど滞在しているという。
    ちょっとどころじゃなくいい部屋だ。ふざけんなY談やろう。
    吸血鬼の指示に従い、クロゼットに仕舞われていたスーツケースを見つけて開けると、大量のヒトガタが入っていた。
    「きもっちわり!」
    「おやそうかい? これはね、かの人命たちを格納しておける優れものさ。一枚につき千人は入ると聞いている。これに人々を保護して外で破けば、彼らは戻るだろう」
    「なんでお前がそんなもん持っとるんじゃ」
    「はぐらかすか謎当てでもしたいところだけれど、まあ君は協力者だからねえ、答えよう。我が友に竜の次の主が在り、その細君がこの国の出だ。彼の息子もこの国にいる。埼玉だったかな。まあ息子くんのことは別の話だ。
    細君の血筋は、古に祀られたこともある。これは友人経由で念のためにと彼女に持たされた」
    「…持たされた時点で予兆があったんじゃねえか。そういうのは警察に…ああいや、入れたから吸対の仕事がこっちに回ってきとんのか」
    「…私がいうのもなんだけど、連携した方がいいよ人間たち」
    不本意ながら、ヒヨシはそれに同意した。現場の吸対の職員たちとは顔馴染みになってきてはいるものの、彼らも上の方針とやらに振り回されている。
    ヒトガタは結界の外、加害者の認識外へ出してから破れば、中に保護した人々は戻るらしい。
    「ただし服がそこここに落ちていただろう、なので全裸で」
    「ヒエ」
    それの報告書書きたくねえなとヒヨシは思った。
    「あとそうだ君、念のため左足治療しておきたまえ。催眠で誤魔化してきたけど、結構ひどいよそれ」
    「は!? うわ何っじゃめっちゃ腫れとるおま、初めに言えや!!」
    幸い折れてはいなかった。


     >capture XX:アリーナ通り

    加害者の結界はここまで。
    もう少し先に行ければ、退治人ギルドがあるのだが。
    人体が消える現象自体は、これより前から少しずつあったはずだと吸血鬼は言った。
    「退治人たちに情報が降りていなくとも、警察は動いているのだろう。なら、警邏か何かで気付くのでは」
    「気付いたとしてもなあ、おかしな結界使うポンチ野郎どもがたまにいてみんな慣れとるんじゃ新横浜は。様子見されてしまうかもしれん」
    「…私がいうのもなんだけど、君、君たち、ちゃんと警戒したほうがいいよ」

    敵を倒しつつ、ヒトガタに人魂を集める。
    結界の範囲が狭いこともあり、だいぶ余りそうだ。


      >>tutorial:エリアボス

    傀儡たちを叩く力は、君にもともとある善き力を利用したものだと吸血鬼は言った。
    それがどうして性癖を叫べなんてことになるのか。
    「次のやつは少し手古摺りそうだ。一つ手ほどきをしようか」
    「おうY談のかVRCに非人道実験推奨しとくわ」
    「物騒なこと言うね? 違うよ? 君の心臓から糸を引っ張り出してあれの核に引っ掛けるんだ」

    左手からオレンジ色に光る糸(ワイヤー)を射出して相手の心臓部を狙えるようになる。引っ張り出して壊せば相手は崩れる。
    この攻撃方法を使うと精神力の他に生命力のゲージが減る。


     >capture XX:稲荷社 雨

    雑魚を片付けて辺りをきれいにしてから、ヒヨシは社に手を合わせ、徐に扉を開けた。奥に備えるように、未使用のヒトガタとメモを置く。
    「おや、置いていくのかね」
    「使い切れそうにないじゃろ。お前の言う加害者とやらがずっと常夜神社にいるモンなら、俺の他にも使えた方がええし」

    他に塞の神とか庚申塔などにも置いていく。
    生命力ゲージが減る。


     >capture XX:公園 雨

    四阿に落ち着く。少し休んだ方がいい、と吸血鬼が言う。
    「目を閉じている間の警戒くらいならしてあげよう」
    癪だが、確かに少しだけでも休みたかった。

    少し前から、ヒヨシは弟とまともに話ができていない。
    反抗期というわけではなく、単純に避けられてしまっている。原因は明確だ。雑魚吸血鬼が湧いて弟を助けた際に下手をしてヒヨシが怪我をしてしまったのを、弟はとにかく気に病んでいるようだった。
    その当時の怪我はすっかり治ってどこが傷だったのかもわからないくらいだから、きちんと顔を合わせて誤解を解かないと絶対暴走する。おかしなところに引っかかって予想だにしない方向へ着地する。アホの子なのだ。ヒヨシの弟はそういう子だ。
    あと妹。反抗期とか思春期とかそういうのは妹の方が厳しい。
    ヒヨシたち兄妹には両親がいないので、年頃の女の子の事情となると先達がいない。仕事中に知り合った女の子たちに相談に乗ってもらったこともあるが、なんでか妹には女を侍らせていることだけバレてしまっているようで、なんか目が冷たい気がする。別にお兄ちゃん嫌いとか言われて流わけでもないし洗濯物分けられたりとかするわけでもないのにとにかくなんか厳しい。
    帰って話がしたい。
    本当にあいつらが反抗期で、たとえば話をしてくれなかったとしても、一緒に飯を食いたい。顔が見たい。ヒヨシは弟妹がかわいい。
    だからヒヨシは朝までに、弟妹たちが目を覚ますまでに、この金にもならない吸血鬼退治ミッションをこなさなくてはならない。

    目を開ける。
    相変わらずの雨が寒々しく降る音が聞こえる。
    兄弟がいるのかね、と吸血鬼が言った。
    「寝言で言っていたよ」
    「マジか」
    固い木のベンチから身体を起こす。疲労は若干取れていた。
    「弟くん? 妹さん? 年はいくつかな?」
    「…なんじゃVRC入れる前に退治して殺すぞ」
    「なんだね、真面目な話だよ。その子たちさあ、常夜神社で七五三とかしてないかな? あそこには確かに君たちが言うところの神様はいるだろうけれど、同時に、加害者たるあれにも目通りさせているんだよ、この子はいかがですかとね」
    「は」
    ぞっと、血の気が引いた。

    休んだので生命力ゲージがちょっと回復。


     >chapter XX 常夜神社 神楽舞台 Art blind

    舞台から一鬼の吸血鬼が緩慢に降りてくる。黄味の強い金髪にマスタードのチェック柄のスーツの壮年の男だ。
    「百貨店の包装紙」
    「あれ、私のガワなんだけど」
    「ほう。銀弾撃っとこ」
    「ヤダなあ痛そう。光あれ」
    「むちむちの太ももに挟まれてえなあ!!」

    ラスボス戦

    ・足が速い
    ・Y談が効く(ある意味魔法戦)
    ・さほど強くない


     >ending

    「いやはやまさか本当に銀弾を撃ち込んでくるとは!」
    穴の開いた腹部を庇いながら、吸血鬼は実に楽しそうに笑った。傷はそれなりに痛むのだろう、時折笑い声が引き攣る。
    「しかも君! 私が戻ったところを狙って撃ってくれたねえ!! 君とは楽しい夜を過ごしていたと思ったのに!」
    「やかましい。貴様はVRCじゃ言うただろ」
    左手で銃を構えてヒヨシは言った。右手からはぼたぼたと血が落ちている。左足の痛みに倒れそうになるのをどうにか気力で踏みとどまる。内臓にも衝撃があったのだろう、喉に迫り上がってきた血混じりの胃液をヒヨシは先ほど吐き出したばかりだ。まだ気持ちが悪い。
    催眠で誤魔化している、と初めに言われた。それが吸血鬼が離れた今、無効になったのだろう。ヒヨシ自身、ただでは済んでいないだろうと思っていたが、思っていたよりダメージが激しい。特に右腕の出血だ。ヒヨシはまだ自分の腕がどうなっているのか確認していない。
    「ああ、ひどいなあ。しかし素晴らしい! 君の判断は正しい、この身体を取り戻したあの瞬間! 私は確かに加害者を通し加害者を封じていた力に手が届いたのに!」
    吸血鬼は脂汗を薄く浮かべながら親しげに笑う。
    ハッキングみたいなものかとヒヨシは思った。
    銃の照準は吸血鬼の心臓に向けられ定められている。しかし吸血鬼は、友人に向けるように大きく手を広げ、ヒヨシとの距離を詰めた。
    ぱん、とヒヨシは撃った。薬莢が飛ぶ。当たったの狙った箇所よりやや左上の肩部分だった。吸血鬼は大きく仰反る。
    「あー、ダメじゃ、どうもズレる」
    目が霞む。貧血だ。早く退治して倒れたいとヒヨシは思った。いや、ダメだ。今日は家に帰るのだ。
    「きみ、だいぶ躊躇いないなあ」
    一つ瞬きをした間だった。ヒヨシの眼前にまで吸血鬼は迫っていた。目が合う。
    しまった、と思った。
    膝をついて崩れ落ちるヒヨシに構わず、吸血鬼は続けた。
    「右腕の血止めをしなかったのは、うん、私なりに君への感謝の気持ちだったんだよ。なにしろグールになあれと思って噛んだからねえ。その毒も流し切れば問題ないだろう? 神経が一つ二つ切れてしまったのはご愛嬌だ! 命には換えられないよね。
     さて、一夜の友人たる退治人君には種明かしをしようね」
    命には換えられない。ああそうだ、その程度は覚悟して吸血鬼と行動を共にした。ヒヨシは家に帰りたい。帰ってチビたちを抱っこして寝たい。もう弟は自分より背は高いし避けられてるし妹には鬱陶しがられるかも知れない。
    それでも、にいちゃん、おかえり。そう言われたい。
    「ヒトガタは確かに友人夫婦に持たされたものだ。しかしそれはあくまで念のため。
    加害者が起きたのは私が訪ねたからだ。なぜかって? もちろん面白そうだったからさ! 加害者のネットワークに私のY談波を載せられたら、ちょっと愉快だと思わないかい? まあ失敗してしまったし、私はこの失態を友人たちにバレるわけにいかないんだよねえ。近寄るなと言われていたんだよ。めちゃくちゃ折檻されてしまう」
    ちくしょう、と浅くなる息の合間に毒づく。
    笑う加害者だか吸血鬼だかの顔はもうヒヨシには見えない。
    「然様成らば退治人レッドバレット、おやすみ優しいお兄ちゃんのヒヨシくん。できればあの神社に兄弟揃ってお出かけするようなことはやめたまえ。君はすっかり認識されてしまったからねえ」

    「まあ、君は忘れちゃうんだけど。なんせほら、私と『加害者』の本分は催眠だから、権能をいただいた朝までならそれくらいはね」


     >good end

    次にヒヨシが目を覚ましたのは病院だった。退治人と言う稼業柄、何度か世話になったこともある見慣れた風景だ。
    口の中がベタ付いている。喉が渇いた。
    首だけを動かして、サイドボードに水差しがあるのを見つけ体を起こそうとしたが失敗した。固定されている右腕にうっかり力を入れたせいでめちゃくちゃ痛い。ついでに身動いて捻った左脚も痛い。こっちは固定されず包帯で巻かれているだけのようなので、多分捻挫だ。
    起き上がる気力を無くしたヒヨシは、枕元のナースコールを押して目が覚めたことを伝えた。
    すぐに少し疲れた様子の看護士がやってきて、ヒヨシの左手にスポーツドリンクの入ったストロー付きタンブラーを添えベッドを起こしてくれた。
    ヒヨシはそれを一口飲んでから、何があってここに担ぎ込まれたのかの記憶が曖昧だと気付く。
    昨夜の仕事は終えたはずだ。ふと、窓を見ると空は明るい。昼間のようだ。
    看護士は忙しいようで、すぐに先生が来ますからと言い置いて出ていった。状況を確認したかったが、何処かから響くコール音を気にする看護士を呼び止める気にはなれず、ヒヨシは大人しくその背を見送った。
    家に連絡を入れなくてはと思ったが、昼間なら弟も妹も学校だ。それぞれにメールを入れてやった方が早いだろう。携帯はコートのポケットに入れていたはずだが、そのコートは多分、病室の入り口にあるロッカーの中だろう。
    先ほどの足の痛みを思い出して、ヒヨシはストローからドリンクをもう一口、口に含んだ。
    やがて覚悟を決めてベッドを降りようとしたところで、ドアがノックされる。応えを待たずに開かれた。
    「起きたな。具合はどうだ」
    「お前が来るまでは頑張れたんじゃが今やる気が失せた」
    入ってきたのは新横浜吸血鬼対策課の一隊を預かるカズサだった。退治人とはシェアを取り合う関係の吸対において、市民を守るために協力できるところはすべきだと主張してそのように動いている。
    「悪態つける余裕があるなら大丈夫だろ。事情聴取に来たんだが」
    「逆に俺が知りてえんじゃが」
    「ああお前、結構血を流していたからな」
    カズサは部屋の隅に置かれていた丸椅子をベッドサイドに持ってきて腰をかけた。長いのか。
    「そうだな。まず先に、お前の家にはすでにマスターが連絡を入れている。病院にいるが命には別状はないと」
    それでヒヨシは安堵に息をついた。余計な心配をかけずに済む。

    カズサが言うには、ヒヨシは結構な満身創痍の状態で見つけられたのだそうだ。場所は常夜神社の境内。
    被害者と名乗る人物、つまり匿名で通報があったのだという。曰く、彼に助けられたので、早く助けてやってほしいと。
    一週間ほど前から常夜神社の付近で人体だけが消えるという現象が起きていた。
    吸血鬼の仕業であるという確証を得られるまではと、ただの失踪事件として警察内で処理されていたのだという。
    「共有せえや」
    「上申しておく」
    警察・吸対の方でも見回りを増やすなど対策はしていたのだが、昨夜、と言うよりは今朝の2時ごろの深夜に、新横浜駅付近へ向かった班が定刻になっても戻らなかった。調べてみると、駅付近には何やら結界が張られているようで中の様子が伺えない。
    同時刻、家人の帰宅が遅いため、何か事件があったのではないかという相談が警察に僅かだが入り始めた。
    当初は別件かと思われていたが、彼らは皆おそらく同時刻に駅周辺にいたと推測され、そこで漸く、吸血鬼がらみの事件であると認定が降り退治人ギルドへの連絡がされた。
    ギルドでは、すでに異変を察知していた複数の退治人たちが控えていた。しかしそこにはレッドバレットがいない。結界が発生したと推測される時刻、仕事を終えて帰途に着いていた彼が巻き込まれた可能性があると、ギルドマスターから聞かされた。
    駅周辺の結界は明け方を待たずに消えた。
    その中に複数の、まるで人体だけが抜けて消えたような衣服。
    この人数を同時にとなると、危険度Aの可能性もあるのでは、と誰もが血の気を惹かせたところで、件の通報があった。
    そもそもこの人体消失現象は常夜神社周辺から始まっている。
    警察・吸対・退治人混合の精鋭で班を組み現場へ向かおうとしたところで、消えていた人々が戻ってきたという報告が入ったーー全裸で。
    戻ってきた場所は大抵はご自宅なのだが、たまに酔っ払ってたり深刻な悩みをお抱えの人なんかはとんでもないところに戻ってきてなんやかんやあって病院のお世話になっていたりする。自宅に戻った人でも、数日前からの不明者も元気にしているそうだが、流石に検査しないわけには行かない。それが朝方にはVRC職員を、今に至っては看護士さんたちを忙しくさせている原因だ。
    戻ってきた人々は一様に、赤い退治人に助けられた、ような気がすると言うのだそうだ。彼らも記憶が曖昧なようで、一瞬の後には自分がそう証言したことも忘れる有様だったそうだ。催眠をかけられたのだろうと言うのがVRCの判断だ。
    「それで赤い退治人、お前のことだろう。何か覚えていないのか」
    「いやなんも……そういやカズサ、駅前で事故があったと思うんじゃが」
    「事故? どんな?」
    「女の子が車に轢かれたみたいな…いや俺が助けたから大丈夫なのか。車がひっくり返ったやつとか」
    「そんな報告はなかったし、俺も駅前は一通り見たが事故の痕跡は」
    「んん?」
    動く左手でヒヨシは頭をこめかみを抑えた。
    ふらふらと歩いていた彼女。どんな女だったか。突っ込んできた車。どんな色だったか。
    思い出せない。
    「いや…確かに俺は、女の子を助けて…その後、あのクソ吸血鬼に…?」
    「なんだその美人局にあったみたいなあらすじ」
    つつもたせ、と復唱して、あっ俺ひっかかりそう、とヒヨシは思ってしまった。女癖の悪さには心当たりがあったからだ。
    その顔色を見たカズサの顔色も青くなる。
    「嘘だろお前…」
    吸対では、新横浜警察署では。この事件に巻き込まれた退治人が一人奮闘して人々を救ったのではないかと、そう囁き湧く推測もあった。パトロールに出て巻き込まれた職員もまた赤い退治人に助けられたと証言し、家族からは一言礼を言いたいという申し出も当然あるし、カズサ自身、部下や同僚を助けられた礼を言おうとここへきたのだ。
    「あっ、いや、確かに女の子いたけども最後はなんかオッサンだった気がするけども」
    「もっとダメじゃん」
    「ウワーイヤじゃ俺だってイヤじゃかわいい女の子とくんずほぐれつ一晩一緒にいてこの怪我だってうっかりハッスルしたときに、あっでもなんかオッサンぶち殺した覚えがイヤない嘘だ」
    「諦めろ一緒に報告書書いてやるから」
    「諦めんぞなんか尻肉がぷにっとしてムチムチの太ももの女の子の痕跡を探してくれおそらく乳もでかい!!」
    すん、とノックもなく病室のドアがスライドされた。
    そこにはヒヨシのかわいい妹がいた。彼女は紙袋にヒヨシの着替えと簡単なお泊まりセットをまとめて抱えていた。学校が終わってすぐきてくれたのだろう。兄にはその優しさが嬉しい。
    そして厳しい。
    彼女は病室に入ることなく、ドアの前に紙袋だけ置いて、「じゃ(お大事に)」と言い残してドアをそっと閉めた。
    「ヒマーーーーー!!」
    絶叫するヒヨシを、その後すぐに診察にやってきた医師と看護士長の「吸血鬼病院内ではお静かに(勤務先の病院内で注射を嫌がり暴れるゴリラもモンスタークレーマーも黙らせるパーフェクトな天職を得たおそるべき吸血鬼)」の判断で昏倒させた。
    昏倒している間に今度は弟の方が見舞いに来て、ひどくしょんぼりしていたと、ヒヨシは翌日看護士に聞かされる。
    そこでやっと、ヒヨシはこの弟と話をしなければと考えていたことを思い出した。
    何もかもタイミングが悪かった。


     >bad end

    生命力ゲージが残ってないと見れるらしい。
    見る勇気ない。だって生命力ゲージがないてそれ。
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