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    すずこ

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    すずこ

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    9割エスティニアンですがオル光です。
    ハピエン時空。何やかんやで付き合いたてぐらい。

    #オル光
    olLight
    #オルシュファン
    orgophane
    #頭割り番外編

    頭割り番外編書き下ろしオル光♀ 粉雪のちらつく蒼天街。白い湯気に霞むスノーソーク浴場を背に歩き出せば、小さな家の灯りが連なって、ここも随分落ち着いたもんだなと思う。肝心の功労者はと言えば、今まさに俺の左肩に担がれて警戒心など欠片も無く寝こけている。

    「……おい、起きろ相棒」

     背中を叩いてみるが、小さく唸ったかと思うとまた寝息を立て始めた。見事なまでの酔っ払いだ。全く不用心な奴だと思うが、普段の気の張りようを知っているだけに、無下に出来ないところはある。まあ、こいつの数少ない気を許せる相手、自分が守らなくても大丈夫だと気を抜くことができる相手の一人になってるのなら、そう悪い気分でもない……などと思ってしまうから狡い英雄サマだ。

    「まったく……涎は垂らすなよ?聞いているか?」

     小言をくれてやるも寝息しか返してこない相棒に苦笑混じりの溜息を吐くと、軽く担ぎ直した。この寒空に放り出すほど俺は非情では無い。


    *    *    *


     聞き覚えのある声に名前を呼ばれたのは宵の口だった。久々に立ち寄ったスノーソーク浴場にこいつがいて。嬉しそうに駆け寄って来たかと思うと奢るから少し呑もうよなどと言うので、奢りなら偶には良いかとバーカウンターで乾杯することになった。

     新しく出来た酒場なだけあって品揃えがなかなかに良い。交易も盛んになったからか、酒もつまみも国外の珍しい物まで仕入れてある。相棒はラノシア産の果実を使ったカクテルが気に入ったようだ。

     
    「ところで相棒、愛しの騎士様を放っておいて良いのか」

     酒で回るようになった口でそう揶揄ったのが間違いだった。コロコロ笑ってすっかり出来上がっていたらしい相棒は、急に勢いよく突っ伏すとしょぼくれた声で何やら言い始めたのだが、これがなかなか止まらなかった。

     多分付き合ってると思うけど特に進展がないだの、忙しいだろうからあんまり会いに行くと邪魔になるかもだの、私だけが勘違いしてたらどうしようだの、ここからどうしたら良いかわからないだの、そんなことを聞かされても困る。明確に人選を間違ってるだろ。

    『ひんやりしてきもちい……』

     そう呟いたきり冷えたテーブルに頬を付けて寝始めてから今に至るわけだ。



     *    *    *



     雪を踏みしめる音だけがやけに響く夜のクルザス。静寂こそが平和の証だ。
     それを掴み取ったのがこいつなのだから、肩ぐらいはいつでも貸してやるつもりでいる。……と言ってもこんなに全身で借りられるとは思わなかったがな。心の内で悪態をついてはみるが、拍子抜けするほどの軽さに、この身体に背負ってきたものの重さを思って口を噤む。なあ相棒、好きな男にぐらい我儘のひとつでも言ってやれ。

     穏やかな闇の中、道の向こうに明るいエーテライトが見えてきた。
     

     *   *   *


     門に近付くと、担がれた相棒の姿に気が付いた門兵の一人が慌てて指揮棟へと駆けて行った。もう一人も不安げにしているので、酔って眠っているだけだと説明してから後をゆっくり歩いて追って行く。案の定、門兵の駆け込んだ扉が直ぐにまた勢い良く開いて、血相を変えた銀剣が飛び出してきた。

    「エスティニアン殿!!一体何が……」

    右肩をすくめて見せると、俺の様子に無事を悟ったのか心底安堵した表情を見せる。

    「ちゃんと受け取れよ」

     えっ?と目を見開いたオルシュファンに向かって相棒を放り投げると、慌てて両腕で抱きとめた。流石に衝撃を感じたらしく相棒の目が開いたが、ぼんやりと見上げると、夢だと思ったのか緩んだ顔で笑うとまた腕の中でうとうとし始めたようだった。

    「偶々蒼天街で会って軽く呑んだんだが、お前の話ばかり聞かされてな。よくわからんがお前に会いたかったんだろ。そのまま酔い潰れたから望み通り届けてやったまでだ」

    「そ、それはご迷惑を……。いや、手間を取らせて申し訳ない」

    「手間賃は酒代だ。ツケにしたから、後で払っておけとそいつに伝えておいてくれ」

    「感謝いたします、エスティニアン殿」

     深々としたお辞儀にひらりと軽く手を振ると、俺は砦の外へと歩き出す。

     門の辺りで振り向くと、相棒を抱きかかえたオルシュファンが外付けの階段へと向かって行くところだった。階上が指揮官用の私室になっているのだったか。



     相棒、気付いているか?
    この世界で、あんなにお前を壊れやすい宝物のように抱きしめる奴は他にいない。しかもそれが、お前の強さを存分に知るはずの奴と来た。恋だ何だの機微なんぞ俺にはさっぱりわからんが、これだけはわかる。

    「こんな役回りは柄じゃないんだがな」

     誰にともなくそう呟くと、左肩に妙に寒さが響いて苦笑する。

     いいか、相棒。
    お前は安心して幸せになれ。
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