まこあん「片想い?以上恋人未満」最初は大切な仲間だからだと思っていた。他のユニットの誰かと一緒に彼女がいるとそわそわして、つい気になって後をつけて。ストーカーみたいなことをしてごめんねと自分から謝って。他の三人にはしていないのも出会う前からの関係性があるからだ~なんて言い訳をしていたのに。
「あんずは俺たちだけのプロデューサーではないからな。他のユニットのアイドルと仕事をすることもあるだろう」
「そうそう、真は気にしすぎなんだよ」
「そ、そうだよね! あんずちゃんは誰かのものじゃないもんね!」
「いや、いつかはそうなるんじゃないか?」
そのあとの会話がどうなったか、自分がどう答えたのか。思い出そうとしても掴めない。
初めてちゃんと向き合った女の子だと思う。今まで異性に接することは何度かあったけど、あまり印象にない。アイドルとプロデューサーという関係性から僕たちのユニットのプロデュースをお願いするようになって、クラスメイト以上になるのはあっという間だった。
——じゃあそれ以上は?
大切な仲間の、その先。彼女をひとりの女の子として意識して、男女の仲に、なる?
「ない、ないないない」
明星くんなら。氷鷹くんなら。衣更くんなら。きっと彼女の隣にふさわしい。でも僕なんかじゃだめだと思う。自分に自信のない、何のとりえもない自分のままじゃ。自分自身に問いかけて、すぐに否定するこのやり取りを何度も何度も繰り返しては変わらない現状にため息が出てしまう。そんな場面を衣更くんに見つかった時もあって「悩んでるなら相談してくれよ〜?」と言われたけれど、衣更くんだってあんずちゃんのことが好きなんだと思う。意識してないとできないであろう行動を見てしまったらそうとしか思えなくて、言葉にするのをやめていた。それから衣更くんを補佐する彼女をよく見かけるようになって、きっと両想いなのだと言い聞かせるように呟いた。友人として、仲間として、二人を応援しよう。
それに逆らうように表れた感情も自分ならなかったことにできる。一度壊れたのだから、再び壊すことだって可能なはずだ。そう思うのに。以前自分のチャームポイントを聞いたときの真っ直ぐに僕の目を見て伝えてくれた表情も、声も、全部覚えている。ねぇ、あんずちゃんも覚えてくれているかな?
進級して、クラスメイトじゃなくなった。学科が違うだけ、あとはいつも通り。そう思っていたのは僕だけじゃないはず。本当に、あの毎日は貴重だったんだ。たまにゲームセンターによって、遊んで、お土産のぬいぐるみを二人で抱きしめて帰る。今日付き合ってくれたお礼とか何とか言って渡した子たちはどうしてるんだろう。
現場が一緒で久しぶりに二人でゲームセンターで遊んでいると凪砂さんと漣くんに会った。
「今度こそデートですかねぇ♪」
そう漣くんは言ってたけど、それを本当に言いたいのは僕の方。壊そうとした感情はあれからどんどん膨らんでいつか表に出てきそうで怖い。
「凪砂さんもクレーンゲーム、上手なんだね」
こんなにたくさん取っているし。彼女の手元が気になって、そのまま言葉を続ける。その子はどうするの? と聞けたらどんなに良いか。優しく握りしめる指先が少し白くなっていた。
「気付かなくてごめんね、少し寒くなってきたから温かい飲み物でも買ってから帰ろう」
袖をくいっと引かれる。彼女の方を見ても表情が見えない。
「えっと……何かしちゃったかな?」
「真くんからもらった子たちは全員大切に飾ってあるよ」
「え、」
「たまに持ち歩いて元気をもらってる」
「ど、どうしてそれを?」
「ずっと見てるから」
それはどういう意味で、誰を? それを聞く勇気はまだ出ないけど、いつか答え合わせするくらいならいいよね。