キスの日隣でコーラ片手に傑が言った。
「今日キスの日らしいよ」
「……へぇ」
暗い部屋の中、ラブシーンが流れ始めた画面の光に照らされながら、蝉丸は相槌を打つ。言い出した傑が手を重ねてきたので、ちょっとだけ肩を寄せた。テレビの中の役者たちは、結構なラブシーンに突入していく。
「………」
蝉丸はちょっと目線を部屋の隅に逸らした。こういう場面は、少し見ているのが恥ずかしい。もじ、と伸ばした足を擦り合わせる。
「ねぇ」
耳元で、彼の声がする。こういう艶のある声を出す時の彼は要注意だ、と蝉丸は思ったが避ける術はない。こちらを覗き込む彼の左手が、頬に添えられる。
「……しよ?」
黒の瞳が、画面を反射して光る。優しい光だった。蝉丸は背筋を伸ばして彼の顔に頭を寄せて接触の瞬間、目を瞑った。
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