無題 監房内の堅い椅子に座って読書をしていたデーモンの耳に、自分を呼び出す局内放送が聞こえた。裁判以前であれば事前に警備の局員が房の前に姿を見せたものだが、最近は局内であれば彼の移動を妨げるものはいなかった。
そのせいで他のコンビクトと諍いが起きることもあったが、このところはめっきり減ってきている。どうやっても負けると分かった喧嘩を吹っ掛けるほど暇なコンビクトは、いかにMBCC内でも少ないのだろう。
デーモンは指定された談話室の扉をノックし、局長の声が応じるのを待ってからドアを開けた。中には見慣れた男ともう一人、背の高い女性が彼を待っていた。背筋を正した立ち姿は隙がなく、彼女が相当な訓練を受けていることをデーモンに教える。同業者かと思ったが、生憎と記憶の中に該当する人物はいない。しかし真っ直ぐな視線を受け止めれば、初対面ではないような気がするのも確かだった。
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