夏休みの最終日は「シマボシさーん、朝ですよ」
ウォロがシマボシに声をかけると、彼女は眉間にシワを寄せて掛け布団を頭から被った。
「……眠い……」
シマボシは朝にとても弱い。仕事がある日は責任感で起床するが、休みだと昼近くまで寝ている事もあるくらいだ。
「明日から仕事だから、いつもの時間に起こしてくれって言ったのシマボシさんでしょ?」
「……んん…」
へにゃりと情けない顔をする彼女も可愛いなと思いつつ、ウォロは掛け布団を剥ぎ取る。
「起きないと、食べちゃいますよ?」
「……好きにしろ…」
そう呟くと、シマボシは布団の上で大の字になって着ていたTシャツをめくると目を閉じた。
「そういう意味じゃなくてですね…。といいますか、投げやりに身体を差し出されてもそそられないんですけど」
ウォロはめくられたTシャツを戻しながら、ふぅとため息をつく。
シマボシの事は愛しているし、誘われたら喜んで押し倒すけれども、面倒くさいから黙らせようという意図で雰囲気もへったくれもなく身体を差し出されては、さすがに萎えるものがあった。
「そうなのか?」
「ジブンを何だと思ってるんですか」
シマボシがなかなか起きない事は想定済だったので、ウォロはもちろん対策している。
「せっかく、たくさんパンケーキ作ったのになぁ」
「!」
その一言でシマボシの目はカッと開き、ガバリと跳ね起きた。
「んふふ、効果テキメンですね。さ、顔を洗ってきて下さい」
顔を洗って目が覚めてきたシマボシはリビングに入ると、テーブルの上いっぱいに並べられた皿に瞳を輝かせる。
「具が、たくさん」
山盛りのパンケーキの他、各種チーズにハム、レタスやトマト等の野菜、チョコソースや蜂蜜等の甘味も用意されていた。
「最終日だから少し豪華にしました。ご希望があればカリカリベーコンと目玉焼きも用意しますよ」
「頼む」
「ええ、少し待ってて下さいね」
「じゃあ、その間に飲み物を用意する」
「あ、お願いします」
シマボシがアイスコーヒーをいれたグラスを二つ用意し、ウォロが目玉焼きとベーコンが入ったフライパンをテーブル中央に置いてから、二人は席に着いた。
「いただきます」
「ん…卵にチーズ…ベーコン…美味しいな」
「たくさん焼きすぎたかなと思ったけど、全く心配いりませんね」
あっという間にパンケーキを平らげていくシマボシに、ウォロは微笑む。
「実家では洋食なんて出なかったから、朝からパンケーキを食べられるというのはすごく贅沢に感じる」
シマボシの実家は、ホウエン地方の有力な武家の末裔だ。
そのためか食事は常に和食だったらしく、幼い頃にパンケーキやハンバーグ等の洋食をねだっても却下されていたらしい。
和食が嫌いという事は無いのだが、洋食メニューにするとシマボシのテンションが普段より上がるので、ウォロはここぞという時の切り札として利用している。
「そんなに嬉しそうな顔をされると、頑張って用意した甲斐がありますね。夕飯は一緒にハンバーグでも作ります?」
「うむ!」
頬に生クリームをつけながら、笑顔で返事をするシマボシは子供のようだった。
「いいお返事ですねぇ」
自分にしか見せないその表情に優越感を抱きつつ、ウォロは彼女の頬の生クリームを指で拭ってやるのだった。