いい夫婦の日 「父上と母上は、いい夫婦ですか?」
11月22日、テレビから知識を得た千寿郎の質問に父槇寿郎は一瞬固まった。
「俺がどうかはわからんが、瑠火さんは良妻賢母…あー、良き妻で賢い母上だ」
まだ幼い千寿郎にわかるように四字熟語を砕いて説明する。
気恥ずかしいのかそっぽを向いてぶっきらぼうに応える槇寿郎に、瑠火が微笑む。
「槇寿郎さんは頼れる良き旦那様ですよ」
「つまり、父上と母上はとてもいい夫婦という事だ!」
「うわぁ、すごいです」
妻と長男の称賛と、それを聞いて顔を輝かせる次男に槇寿郎はむず痒い思いになった。
「千も!千も父上と母上のようないい夫婦になります!頑張ります!」
「千寿郎、いい夫婦とは1人で頑張ってもダメなんだ」
「頑張ってもダメなんですか」
言葉尻だけを捉えて、自分が否定されたように感じた千寿郎の瞳が潤み始める。
「いや、違っ、その…」
泣いてほしくないのだが、どう言えばいいのかわからなくて慌てる父親を余所に、杏寿郎が千寿郎の手を取った。
「千、父上は一人ぼっちで頑張ることはないと仰っている」
(そう、それが言いたかった。杏寿郎、よく言ってくれた)
千寿郎の涙が引っ込んだのを見て、槇寿郎は安堵した。
「だから、兄と一緒にいい夫婦を目指して頑張ろう」
「はい」
微笑み合う兄弟を見て、槇寿郎は引っ掛りを感じた。一緒に頑張るのは、将来の伴侶とではないのか?
しかし、また下手な事を言って今度こそ泣かれても困る。
きっと、想像しにくい未来のお嫁さんより近くにいる兄のほうが、千寿郎も一緒に頑張ろうという気になるのだろうと結論付けた。
「では、千寿郎は母とお料理の勉強でもしますか?」
「はい。お手伝いします」
「俺は父上のような頼れる人を目指します。父上、ご指導のほどよろしくお願いします」
「よく言った。二人共、頑張るんだぞ」
「「はい」」
父親の胸に一抹の不安を残しつつも、一家の夜は更けていくのであった。
『また一つ、父上から言質を取ったぞ。千寿郎。われら兄弟なれど、病めるときも健やかなるときも、いい夫婦目指して共に頑張ろう』
終わり