お疲れ七海夢 部屋の鍵を数日ぶりに取り出し、七海建人は深くため息をついた。繁忙期とはいえ、こうも出張が続くと疲れが出てくる。最後にゆっくりと過ごしたのはいつだったか……記憶を数日ほど遡ってやめた。今は思い出しても疲れるだけだ。
革靴から鉛のような足を引き抜けば、むくんだ皮が張って一歩進むごとに弾けそうになる。振られていた任務を上手く前倒しできたおかげで、明日の朝は少しだけ時間があることがせめてもの救いだ。洗面に立ち寄るついでに湯張りのボタンを押し、冷蔵庫の中身を浮かべながらネクタイのノットを緩める。確か、冷凍のパスタが眠っていたはずだ。
レンジの音を聞きながら、気力を振り絞って仕事着のスーツをクローゼットに仕舞い込む。幸い、軽くなでる程度で整いクリーニングはまだ必要なさそうだった。疲労の溜まった身体には時計を外すことですら億劫だが、お気に入りのそれを乱暴に扱うことはせず丁寧にケースにしまう。
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