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    夢魅屋の終雪

    @hiduki_kasuga

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    夢魅屋の終雪です。推しのRがつくものを投稿してます

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    夢魅屋の終雪

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    温度差曦澄四話
    遊郭の話、書きたい所だけ書きました。

    #曦澄

    【温度差曦澄4】「曦臣兄はさぁ…なんで江兄の事が好きなの?」

    ど直球に告げる聶懐桑に、ぶふっと呑んでいた酒を吹き出すのは雲夢を守護する蓮花塢の主である江晩吟。
    聶懐桑は、居候している藍曦臣に声をかける。きょとんとしながら、茶杯を降ろす。
    今夜は、雲夢近くの世家が遊郭で宗主を招いて宴会を開いていた。

    「何度も何度も失恋しましたよ」
    「そうなの?」
    「ええ、それでも会ってしまえば、新しく恋をしてしまうんです。私の今までの恋は全て、晩吟に捧げてますね」

    とてもうれしそうに笑いながら言う藍曦臣に、うわぁまっぶしい…と言う様に目を反らす。
    目を反らした先にいる江晩吟は、噴出したお茶で口元を濡らしながら青ざめている。

    「なんでこの人、俺をこんなに好きなんだよ。
    俺は、この人が一番大切にしてる弟と嫌い合ってるんだぞ」

    本当になんで?というような顔をしている江晩吟に、長年この反応とばかりに見ていた。
    しかし、藍曦臣は既に慣れたのか解らないが平然とした顔で、寄り添うように彼にくっついた。

    「だって、晩吟が素敵な殿方なんですもの」
    「やめろ、聶兄の前で寄り添ってくるな」

    引きはがそうとするが、言葉に引っかかりを覚える。

    「私の前じゃなきゃ寄り添わせてるの?」
    「あ?まあ、やりたい事やらせないとこの人暴走するんだぞ」
    「ねぇ、江兄。いい人すぎるのも、どうかと思うよ?」
    「?」

    聶懐桑の言葉に、江晩吟は首をかしげる。
    藍曦臣は、苦笑してから姿勢を正すと自分の指を絡めた。

    「晩吟が、諦めなくていいって言ってくれたんだよ。さっきも言ったけど、晩吟たら私が身を引こうとしても惚れさせるんだよね」
    「へぇ、というと?」
    「あれは、落日の後で蓮花塢の再建が終わったすぐくらいだったかな。晩吟が、一度目のお見合いをしたころ」


    ▽▲▽▲▽


    「江晩吟が、見合いをしたそうだ」
    「……」

    金光善の言葉に、笑顔で藍曦臣は手が止まった。
    側にいた金光瑶と金子軒が言ったらだめという様に顔と身体をこわばらせて、事の発端の父を見た。
    「さようですか」とだけ、動揺を隠しながら返事をする。その後の会話が見事に流されてしまい、何を話していたのかすらさっぱり解らない。
    まぁ、江晩吟は江氏直系の唯一の生き残りで血筋を絶やす事はできないのだろう。
    彼が見合い、すなわち結婚を意味している。子供の頃から抱えてきた恋心を、壊すにはいい機会だろう。

    「―――という訳で、藍宗主。私に付き合いなさい」
    「はい?え???」

    何処に?と頭に疑問符を浮かべながら、生返事で頷いてしまった。
    金子軒と金光瑶は、頭を抱えて二人とも天井と床を見つめていた。

    他にも金光善の供を悦んでする宗主たちも居て、あれよあれよと雲夢近くの街に連れてこられてしまった。

    「阿瑶……。こ、ここは……」
    「色街です」
    「……ど、どうしてこうなったの?」
    「父の悪癖ですよ」

    はぁ…とあきれ返ったように金光瑶が溜め息を吐いて、手慣れた様に店に入って店主に話をつけに行く。
    金光善の馴染みの店だったのか、すぐに宴の準備が整えられた。
    色とりどりの妓女たちが、舞を披露して男たちに色を含ませて寄り添う。

    「きゃー、藍宗主!珍しいお客様がいらしてるわ!」
    「本当!私が、お注ぎします!」
    「いいえ、ここは私が!!」

    女性の黄色い声を間近で聞く事に慣れていない上に耳の良い藍曦臣は、微笑みを浮かべながらも眉を寄せていた。
    雲夢特産の香なのか、彼女達から嗅いだ事のある匂いが漂った。

    「この香は?」

    すん…と鼻を鳴らして尋ねてみると、一人の妓女が嬉しそうに笑った。

    「これですか?蓮花塢の仙師の方がくれたんですよ」
    「蓮花塢の……」

    雲夢江氏は、担当範囲が広い。一つの世家の手では余るほどの広さだ。
    雲夢の領域ならば、蓮花塢の仙師がやってきてもおかしくはない。

    「そうなんですよぉ」
    「江宗主は、藍宗主よりも少しばかり陰りはありますけれど、見目は麗しい類の殿方でしたわ」
    「あの逞しい腕に抱かれて『大丈夫か』って言われた時には、失神するかと思った~」
    「あら、それを言うなら主管の方や部下の方も」

    妓女たちは、接客するよりも雲夢江氏の仙師達の話で互いに盛り上がってしまっていた。
    しかし藍曦臣と金光瑶は、顔を見合わせた。
    あの江晩吟が、主管とその部下をこの遊郭に遊びに来るなどと考えられない。
    華やかで光にあふれたこの店の中で、何かが起きて居るのではないか?と、勘ぐってしまう。
    金光瑶が、すぐさま立ち上がると「失礼します」と部屋を出ていく。
    それを金子軒が父親の隣で、横目で見つめていた。
    藍曦臣は、香りはよいのだが少々きつめの匂いを放つ女性たちに囲まれて金丹で酒精を消しつつ酒を呑む。
    しばらくしてから、金光瑶が戻ってくると藍曦臣に義兄弟でしか解らない合図を送った。

    その時だ。

    するりと、白い手が藍曦臣の袖に侵入しその肌を撫でた。
    その指の感覚は、男ならば据え膳だと喜ぶような色が含まれている。

    「ねぇ、藍宗主。私と別室に行きませんか?」

    美しい女性が耳元で囁くと、ぶわっと全身の産毛が逆立つ。
    さらには悪寒が体中を走って、すくっと静かに立ち上がる。その仕草は、妓女の誘いを受けたとみなされたのだろう。
    誘った妓女が、嬉々としてついて行く。
    しかし、部屋を出た瞬間に藍曦臣は口元を押さえて外の気配がする中庭が見える場所まで早足で移動した。
    外気に触れられる匂いが薄くなった場所にたどり着くと、柱を支えにずるずると座り込んでしまう。

    「うっ」
    「ら、藍宗主??」
    「さ、触らないで……」

    はっきりとした拒絶を見せて、距離を取らせる。

    「すまないけれど、水を持ってきてほしい」
    「え、ええ」

    まさか貴方に触れられて気持ちが悪くなったとも言えずに、水を所望する。
    水の中に何かを入れられても、金丹で効力を消す事はできる。
    触られた感覚を拭う様に、腕を外衣の上から何度も何度もこするが微かに漂ってくる匂いや藍曦臣にとってはうるさい程の人の声や物音に吐き気は増すばかりだ。

    「……こんな所で、何をしている。酔ったのか?」

    心配したような声が、その場に響いた。
    顔を上げると、声の主はそこにうずくまっていたのが藍曦臣だとは思っていなかったのか目を丸くしていた。
    しかし、すぐに温度が急激に落ちていくように、彼から顔の感情がなくなっていく。

    「江晩吟……」

    今は、会いたくなかった。と、目を伏せて口元を抑える。
    その仕草は、この店のいやこの色町全ての妓女を集めてもこの男には勝てないほどの優美さと儚さを放っていた。
    しかも頬が若干赤くて、いつもより襟元がはだけているようにも見えた。

    「……貴方は」
    「え」
    「貴方は、俺を好きだなんだという割には、このような所に来るのだな?」

    江晩吟から、奏でられた声はそれはそれは冷たいモノだった。
    例えていうなら、雲深不知処の真冬の冷泉。
    端から見れば、浮気現場を見つけてしまった正妻。

    「お楽しみの所、邪魔をして悪かったな。すまないすまない、さっさと相手の待つ部屋に帰ってやればよろしかろう」

    誤解だ!そもそも誘ってきた妓女から逃げてきたのだ!と、抗議する前になによりも……江晩吟にときめいてしまった。
    どこにときめきする場所があったのだと不可思議になるだろうが、
    こんなに怒気を含ませて真冬の冷泉張りに冷たい視線を藍曦臣は受けた事がない。
    いや、受けた事があっても何も感じなかった。
    しかし、好いている彼が自分をどんな目でもいいから見ている事に歓喜してしまったのだ。
    だがここで、それを暴露するわけにもいかずに言い訳めいた事を口走る。

    「あ、貴方だって……」
    「あ?」
    「貴方だって、妓女に香を渡すほどに通っているじゃありませんか」

    口を開けばもう止まらなくて、立ち上がると江晩吟の肩を掴む。

    「そ、それに、見合いをしたのに今夜もなぜ通うのです?
    私の気持ちを知っておきながら、貴方こそなぜこのような場所に通っておられるのですか?」
    「は?なんで、見合いの事を貴方が……」
    「金宗主に、聞きました。
    結納を成される貴方が遊郭に遊びに来ていて、独り身の私がここにいてはならない理由なんてありませんよね?」

    言い訳をするつもりが、責めてしまうような口ぶりになる。

    「だ、誰が、結納なんてするかよ」
    「だって見合いですよ?四家の一つである江氏でなら両家で話が決まっているのは、当たり前の事じゃありませんか」
    「あ?」

    江晩吟の眉間に、深い皺が寄る。
    彼に付き添っていた誰かが「ぶふ」っと吹き出すように笑う声が聞こえた。

    「梓観世(ズーグァンシ)」
    「す、すみません。でも、先ほどからおかしくて……」

    口元を押さえて穏やかに笑っていた男が、ううん!と咳払いをしてから藍曦臣に向かって拱手をする。

    「沢蕪君、失礼をいたしました」
    「いえ」

    彼の事は、江晩吟が座学の時から見たことがある。
    江晩吟の世話役の一人で、雲深不知処の一角にいた。それに、他にも家宴では付き人として主に寄り添っている。
    しかし彼が表立って対応する事はなく、主管の秘書の一人として裏方に動いている。

    「しかしながら、沢蕪君」
    「なんでしょう」
    「我が宗主は、見合いに失敗しております」

    穏やかな声が多少弾んでいるというか、笑いを耐えようとするように声が震えているのが解る。

    「おい!!!」
    「見合いの席で、師姉をほめちぎって比べてしまえばそりゃ失敗もしますって」
    「あれは!!!相手が!」
    「いえいえ、歯に衣を着せぬ若様…いえ、宗主だからと言ってもあの毒舌はいただけません」

    事情は解らないが、どうやら江晩吟の見合いは失敗しているようだ。
    ほっと安堵すると、涙がはらりとこぼれた。
    それを見た江主従は、ぎょっとしたように驚いた。

    「お、おめでとうございます!!!」

    がば!!と、江晩吟を力強く抱きしめる。
    その力は強くて江晩吟は、もがくが逃れる事ができない。

    「何が、めでたいんだ!!!人の不幸を悦ぶんじゃない!!!」
    「だ、だって…貴方が見合いをしたと聞いてから、なにも手が付かずに……気づけば、ここに連れてこられて……。
    貴方と似たような匂いはするし……貴方が通ってると聞かされるし……」

    泣きながら、江晩吟の肩ぐちに額を押し当てる。
    江晩吟の香りは、藍曦臣の気分の悪さを軽減してくれた。

    「諦めるほかない、と思って……」
    「……そのまま、諦めてくれたら俺の心は安泰だった」
    「でも、そうですよね。江晩吟が、一回のお見合いで成功するはずありませんよね」

    一度大きく息を吸い込んでから、すっきりした笑顔で告げた。

    「おい、梓観世……こいつ殴ってもいいか?」
    「相手は、沢蕪君ですのでおやめになっていただければ、後々の江氏が安泰かと思われます」

    抱きしめられながら、従者に振り向いて尋ねる。
    拱手しながら言われた言葉に、手を力強く握って感情を抑え込んだ。

    「それに、江晩吟がこちらに来ているのは邪崇の件でしょうか?」
    「……察しがいいな。それついでに、離れてくれたらもっと尊敬できる」
    「貴方の傍にいると、落ち着くんですよ」
    「は?」
    「……私、女性が苦手なのだと初めて気づきました」

    つまりこの抱きしめているのは、怖いモノから小さな子供が親に隠れているという事になる。
    大きな図体をして修為も高い男が、年下の江晩吟を盾にしているという事だ。

    「まぁ……貴方みたいな人がこういう所に来るのは、慣れてないんだろう。
    用意された部屋があるから、そこで詳しく話そう。だから、離れてくれ」
    「ありがとうございます。だけど、もう少しだけ」
    「甘えるな!」

    ぴとっとくっついて付いてくる藍曦臣を、これ以上怯えさせてはならないと江晩吟は早足で自分の部屋に向かう。
    供をしていた従者は、そんな二人を見送り後ろで立ち尽くしている妓女に振り返った。

    「あ、沢蕪君のお相手でしたか?残念でしたね」
    「……あ、え?」
    「何が起きたのか解りませんよね。
    宴があったのでしょう?主催の方に、沢蕪君は江氏が預かったのでご安心くださいとお伝えください」
    「え……あ、はい」
    「それでは、失礼します」

    従者は、にっこり笑ってから静かに二人を追いかけた。
    水を持ったまま立ち尽くした妓女は、自分が袖にされたのだと男に負けたのだと気づくのにしばし時間がかかったのだった。


    ▽▲▽▲▽


    「へぇ、それで?怪異はどうなったんですか?」

    話を聞いていた懐桑に、江晩吟は腕を組みながら大いにため息を吐いた。

    「そりゃぁ倒した」
    「そりゃそうだ」

    倒してなければ、こうして江晩吟と藍曦臣は話をしていない。

    「どんな邪崇だったんです?」
    「色ごとには嫉妬が付きものだろう。そう言った類の……」

    そう言ってから、江晩吟は言葉を止めた。
    聶懐桑が、視線を追えば女性にしなだれかかられている藍曦臣。
    微笑みは変わらないが、体は硬直しているようでぎこちない動きをする。やれやれ…とため息交じりに立ち上がり藍曦臣の前に陣取ると、彼の頬に手を添えた。

    「こいつは、俺を口説いている最中でな。いくら迫っても、お前らには靡かないから諦めろ」
    「江晩吟……」

    感動したように涙をためて背後から、江晩吟を抱きしめる。

    「はい、はい!私は、貴方に何度も惚れます。惚れなおしてしまいます」
    「く、苦しい!!離れろ!!!」

    ぺしんと何の躊躇なく、誰もが羨み見惚れる美丈夫の顔を叩く。
    それでも息を飲むのに、先ほどの行動だ。
    そこにあった色は、確かなモノで藍曦臣に抱きしめられているからなのか膝の上に座るのを抵抗もなくしている。

    「江兄と曦臣兄は……付き合ってるの?」
    「んなわけないだろう。こうでもしないと、この人は吐く」
    「晩吟の匂いは落ち着きます。そろそろ限界だったので、本当にありがたいです」

    すんすんと鼻を首筋に押し付けている藍曦臣となれたと言わんばかりに好きにさせている江晩吟。
    二人の関係を邪推するなというのが無理な事であった。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
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     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
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     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
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