新横浜にきょうだい喧嘩しに来る話髪色が同じ三兄妹の中で、ひょんなことから自分だけ血の繋がりがないと知った吸血鬼ロナルド。
人間以上に血族を大切にする生き物である吸血鬼の彼は、そのことに耐えきれず、大好きな兄妹と離れて暮らす決心をした。
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ある夜、棺桶ごと兄がいなくなったことに気付き、動揺するヒマリ。いつかこの日が来るとずっと覚悟していたヒヨシはヒマリに真実を話す。人間と吸血鬼の争いに巻き込まれ、瀕死だった人間の赤ん坊を何とか救おうと転化させたヒマリは正真正銘自分の血族だが、ヒデオは違うことを。
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荒廃した街に朝日が昇る中、ヒヨシは赤子の泣き声を聞いた。日の光を避けながら声がする方に近づいて見ると、その赤子は吸血鬼だった。朝日に己の身を焼かれる危険性はわかっていたが、ヒヨシはその子を放っておけなかった。偶然にも自分と同じ髪色だった。
朝日の下で元気に大声で泣いていたこの子に畏怖心を込めて、「日の出の男」と書いて「ヒデオ」と名付けた。ヒヨシは、その子を自分の「弟」として育てることとした。生まれて間もない吸血鬼にも関わらず、朝日を浴びても元気に泣いていた赤ん坊……出会った時から、ただならぬ存在であることはわかっていた。
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弟が自分たちの元を去って何年か経った頃、懐かしい仲間──ゴウセツから連絡があった。弟や妹が幼い頃は、彼によく相談にのってもらっていた。
「お久しぶりです、ヒヨシさん」
「久しぶりじゃのう。相変わらず元気そうで何よりじゃ」
しばし昔話に花を咲かせる。
「最近、私とコユキで、新横浜に飲食店をオープンさせたんですよ」
「えっ……コユキちゃんの料理……?」
思ったことが顔に出ていたのか、「……コユキには給仕のみさせていますよ」と言われてしまった。
「しかしなんでまた新横浜に……?」
「ロナルドさんに連れられて、多くの仲間たちとともに新横浜に向かうことになったんです。定住するつもりはなかったんですけど、これが妙に居心地がいい場所で…」
「『ロナルド』?外国から来た吸血鬼か?」
国によっては、吸血鬼と人間の対立が激しいため、安住の地を求めて日本にやってくる吸血鬼は多いと聞く。
「ロナルドさんは、我々吸血鬼のリーダー、と言ったところでしょうか。……私たちでは彼を制御できませんし」
「ゴウセツでもか?」
ゴウセツはかなり強い吸血鬼だ。そんな彼でも制御できないとは……。
「そのロナルドさんについて、一つ気になることがありまして。」
「?」
「左耳に、私もよく知るピアスを付けているんですよ。ゴールドの、三角形の……」
「!!!」
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大切な存在だと思っているからこそ、その関係を壊したくなくて、ヒヨシは彼に何も言えずにいた。そして、彼は何も言わずにいなくなってしまった。
「おみゃあに本当のことを伝えていなかった俺も、黙って出て行ったおみゃあも、どっちもどっちじゃ……」
こうなる前に、腹を割って話すべきだった。
吸血鬼にとって、「血の繋がり」は何より大切なものだ。
だが、血の繋がりなんてなくても、それでも……
「おみゃあは大切な『弟』だって、殴ってでも伝えんとなぁ…?そうじゃろ?ヒマリ」
「うん……兄妹喧嘩、しなきゃ」
「ハハッ!そうじゃな」
新横浜にやってきた吸血鬼のヒヨシとヒマリ。
彼らは今夜、この地で「きょうだい喧嘩」を繰り広げる。