Memories「あ」
間延びした声とともに、つい、とラーハルトのマントが引かれた。
「なんだ」
前を歩くラーハルトは振り返り、気まぐれな相棒を睨む。ヒュンケルは目を丸くしたまま、斜め上を指さした。
「見ろ、ラーハルト」
なんだ、敵か。
視線を追うが、雲ひとつない空が広がるのみ。
雪のかけらのような月がひとつ、浮いていた。
「……だから、なんだ」
「あれ、見えるか?」
ラーハルトはもう一度空に目をやる。やはり、白い月くらいしか見えない。
「まさか、昼間の月を見たことが無いのか」と問い返す。
「ある。だが、久しぶりだ。しばらく、見えなくなっていたから」
と、ヒュンケルが興奮気味に言う。
「意味が分からん。誰が見たって月だろう」
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