おもいいし 青紫💙💜
続きものです。
前作見た方がわかるかもしれません。
!特殊設定あり
ラメンバーがルームシェアしてる世界観
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一気に階段を上がったせいか、はたまたさっきのルカのせいなのか。胸に手を当てると心臓がドキドキと強い音をたてていた。
ー 手先、冷たい。
ぐっぱぐっぱと手先を動かしていたが、依然として冷水を浴びたように冷たい。
無意識に息が浅くなっていたようで、その場で壁伝いにスルスルとしゃがみこむ。ほかのメンバーに見られたくなくて、袖で顔を隠してしまう。体全体が熱いのと寒いのでおかしくなりそうだった。
ー…気づいてない、訳じゃなかった。
思い返せばルカは妙に自分に対して過保護?というかよく構ってくるイメージがあった。でもそれは、その、彼自身の性格によるものだと思ってたし、僕自身もルカといると楽しくて流れるままについつい構ってしまうから。
ちょっと重い友愛、だと思ってたのに。
ーシュウ見て、見て!
ーシュウ、助けて〜!!!
今まで遊んだ時のルカを思い出しても、彼が僕のことをそういう目で見ていたなんて信じられない。
でもさっきの顔を見て、友愛のまま彼のことみるなんてできなかった。演技だとしたら主演男優賞取れるくらいの演技力だ。
もしかして自意識過剰なのかな、僕…とぐるぐると思考を巡らせる中、ポコン!とスマホの通知音がなる。
まさかと思い、そろそろとスマホのチャットを立ち上げる。
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chat : sent you by Luca
さっきは急にごめん。
シュウの宝石、大切にするね。
俺の赤い宝石はシュウにしか渡したくない
ううん、シュウだけに渡したいものだよ
良ければ大切にしてほしい
それと、
慌ててたシュウも可愛いかった
片付け終わったら、また。
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なんだこの甘い言葉の数々は。
…前言撤回。可愛いライオンが野生のライオンに戻っちゃった。ヴヴヴ…と喉から苦しげな声が出てしまう。なんなんだ、ほんと。
せっかく落ち着きはじめていた心臓が、またバクバクと爆音で動き出してしまった。
ああ、もう!どうしてくれるんだ!
▲
「シュウ?大丈夫!?」
僕がお饅頭のように丸まった場所は、アイクの部屋の目と鼻の先だったせいで、作業中のアイクに異音(僕のうめき声)を聞かれてしまったらしい。僕が座り込んでいるのを確認するとすぐに駆け寄って抱きしめてくれる。彼にしばらく背中をさすってもらうと、徐々に落ち着きを取り戻した。
「ごめん、もう大丈夫。取り乱しちゃってごめんね。」
よろよろと手伝ってもらいながら立ちあがる。なんとか立った後にぎこちなくアイクに微笑んだが、彼には逆効果だったらしい。彼は眉を顰めていた。
納得していない顔色を無視して、そのまま彼の体から離れようとしたが、ギュっと手と腰を掴まれたまま離れることができなかった。
「…何かあったんだね。」
「………何もなかったよ。いつも通りさ」
「今日のシュウは嘘が下手だね。」
苦笑いしながらアイクは僕の掌をゆるく握りしめる。
彼の手も冷たかったけど、ぺんダコのあるザラ付いた感触が自分のものじゃない感じがして面白い。現実逃避のつもりで、しばらく手遊びをしているとアイクがポケットから何かを取り出していた。
「…僕の宝石、シュウに見せてなかったよね。」
はい、と彼の手を見ると透明のような宝石が一つ。
「この宝石、光に当たると青がよく見えるんだ。ほら真ん中らへんのところ。綺麗だよね。
ブルームーンストーンっていうんだって。」
彼の言った通り、自然光に当てられた時、石の真ん中辺りに深い青色がうかがえる。アイクらしい綺麗な宝石だった。
「シュウの宝石はどんなの?」
「あー、僕のは、アイクの宝石より地味だよ。黒だし…」
まとめていた巾着から石を取り出す。
うん、やっぱり地味だな。僕は割と好きだけど。
「ふふ、サルミアッキみたいに真っ黒だね!」
「さる…え?何それ。」
「あー、僕の国とかで売ってるお菓子。…独特な味で好きな人は好きだけど苦手な人が多めかな。」
「あんまり美味しくないってことね?」
こう、好きな人は好きな味なんだよ?と必死に弁明するアイクが面白くてしかたなかった。
さっきまでルカのことで頭がいっぱいだったけど、だいぶ落ち着いてきた。
「あー、話それちゃったけど。石、交換しようよ。」
「いいよ、サルミアッキ?あげる」
「ンハハハハハ!!」
冗談混じりでネタを入れ込むと、案の定笑ってくれた。というかツボに入ってない?
何個か摘んで渡そうとするも、笑いすぎでブレがちなアイクの掌にエイムを合わせる()のは難しかった。彼にとってはその石すらも笑いのスパイスになってしまったようで、立っているのもやっとな感じになってしまった。少し心配になって僕に触れてる彼の体に手を回す。…体勢が、恋人のそれだけどアイクだし大丈夫だよね?
「フフフフフ、!」
「アイク、ふふ、ツボ浅すぎでしょ」
アイクの笑いに釣られて自分も面白くなってきてしまう。ちょっと、アイク涙出てない?そこまで面白かったのか。彼が笑うたびに振動が僕に伝わって、次第に疲れてしまったようで僕に枝垂れかかる。
「あー、僕やっぱり好きだなぁ…」
ポツリとつぶやかれた言葉にギクリと体を固まらせる。いや、まさかね。
「ふふ、…?」
ふわふわとした彼の柔らかい髪が僕の胸元辺りをくすぐる。アッシュグリーンとも、アイスブルーとも言える不思議な色合いは、もらった宝石と同じく光の角度で変わる美しい色だ。
「シュウ、」
「な、に?」
顔を上げた彼の金の瞳は、さっきまで自分を振り回した太陽の彼を思い出してしまう。
真剣な表情で僕を見るその姿から逃れることができない。蛇に睨まれたネズミのような、そんな気持ち。
「…あまり困らせたくないんだけど。」
温和な声色とは裏腹に耳元まで近づいた彼は、僕に残酷な事実を告げる。
さっきのルカとのやりとり、見てたんだ。
その言葉に息が止まった。
▲
VOXが説明してくれた宝石騒動の後片付けを始めたすぐの頃。ちょうど一階に用があって、階段を降り始めたその時。
「待って!」
ルカの必死な声が一階から聞こえてきて、僕に向けた言った言葉じゃないのに降りようとした足を止めてしまった。
「俺の赤い宝石、シュウが持ってて欲しい」
友達に向けていう言葉にしてはあまりにも熱を持ち過ぎた声と言葉。2人がどんな表情をして、ここまでどんなやりとりをしたのかはわからないけれど。
「…意味はシュウが調べて。もし、その意味を分かったら俺のところに来て一緒に答え合わせさせて。」
何かが変わろうとしている瞬間に自分が立ち会ってしまってしまった。
ルカが、シュウのこと、
ールカ、ごめん。
友に対して事故とはいえ、聞かれたくないことを聞いてしまったことへの謝罪を心の中で告げる。
だが次に思い浮かんだ感情に思わず吐き気が出てしまい、口元を手で覆う。
ー…シュウがルカのものになったら?
想像した瞬間に拒否反応を起こしてしまう。
無理だった。
彼が1人のものになる事実を受け入れられなかった。
自分がここまで彼に惹かれている事実も受け入れたくなかった。
◾️
その後、すぐに自室に戻る。
頭の中にはシュウとルカが仲睦まじくいる風景。
もし現実になったら、きっと祝福すべきもの。
でも、彼を渡したくないという嫉妬のような感情が、首をもたげてうかがっているのも事実だった。
ー最悪だ。
こんな形で自覚するなんて。
ポケットから宝石を取り出して、じっと見つめる。
ーVOXは、石は感情に合わせて出るみたいなこと言ってたよね
ふと今朝の説明を思い出して、自分から生まれた石の意味をネットで調べることにした。
ー画像検索…でいけるかな。
これじゃない、あれじゃないと探っていくうちにすぐに目的の宝石へとたどり着いた。
ーブルームーンストーン…
透明な石をベースに、真ん中あたりにラピスラズリのような彩度の高い青が特徴的なその石。
しばらくネットの記事を読み込んでいると、石言葉という項目へと行き着く。
ーブルームーンストーンの石言葉は…「愛の始まり」
コトリと硬いものがテーブルに落ちた音がして、目線をそちらに向けると、ブルームーンストーンとは違う別の深い青色の石があった。
「…嘘でしょ」
震える手でその石を持ち上げて、再度検索を行う。だが、青い宝石なんてたくさんあるし、ブルームーンストーンと違って特徴もなくどれがどれだかわからない。
「…また後でいいか。」
今はともかく作業をしたかった。考える時間がないくらい膨大な作業を。そうでないとどんどん、さっきの想像でおかしくなりそうだった。
苦しくて息もしづらい。
──ヴヴヴ…
ドアの向こうから彼の声が聞こえる。
きっと、さっきのやりとりの後すぐに二階にきたんだろう。
正直、今あったら自分が狂いそうになる予感がしたけれど友として、また好きな人を放っておきたくなくて、気づいたらドアを開けてしまったんだ。
ドア先のアメジストパープルの瞳に涙が見えた瞬間、抱きしめてしまった。
ーほんと、最悪
石の呪いも、自分の醜い感情も。
けれど。
自分の腕の中の存在が愛おしくて愛おしくて、
彼の香の香りをめいいっぱい吸い込んだ瞬間、
ああ、幸せな香りだ。
感情とは裏腹に顔は微笑んでしまう。
もしこの場に処刑人がいるなら、僕を殺してほしい。
だって彼の目の前で死ねたら幸せだろうから。
シュウの心に自分を刻んで呪ってやりたいんだ。
▲
アイクに抱きしめられながら、頭が真っ白になる。
ーさっきのルカとのやりとり、見てたんだ。
なんで?声が萎んで囁くようになってしまった僕の言葉に、彼はなんてことないように答える。
「…偶然なんだ。本当に。それに最初から最後まで聞いてたわけじゃないよ。」
「最後のやりとりだけ聞いてた。」
よりによって一番聞かれたくないところを聞かれてしまったようだ。
依然としてアイクによって、手も体も自由が効かない体勢のまま。恥ずかしくて、苦しくて、でもどうにもできない状態のまま彼の言葉に耳を傾ける。
「…ルカの石、見せてほしい。」
NOとは言わせない強い口調とギラつく目。
「…はい。」
ルカに申し訳なくて、最初に交換した黄色い石を見せる。だが、アイクは違うよと悪い子を嗜めるように頭を撫でる。友達なのに、少し怖い。怒っているようなそんな顔。
「赤い宝石のほう。」
「……アイク、それは、」
「壊したり、奪ったりしない。…だからお願い。ルカの想いを見たい」
泣きそうな顔で僕を見る。
ーずるい。
ーそんな顔で見られたら僕が意地悪してるようじゃないか
諦めて石を取り出そうと石をしまった懐を探る。
自然と彼の体も力が入り、覆われている僕はほんの少しの窮屈さと居心地の悪さを感じる。
無言でルカから預かった赤い宝石を彼に見せる。
「……ああ…」
「こんなに綺麗な、赤…」
彼は手を伸ばしたが、最終的には触れなかった。
「ありがとう、シュウ」
ーもしかして、アイク、ルカのこと。
当初思ってた状況ではないのでは?と考え始めた自分だったが、世の中そんなに甘くなかった。
「…シュウ、僕の石ね。さっきの青い石だけじゃないんだよ。」
ほらと彼の手にあったのは、深いグリーンブルーのような美しい宝石。
「まだ名前はわからないんだけど。君のこと思い浮かんだ時に出てきた。」
「だからあげる。君への僕の思い。」
ズイッと押し付けるように渡してくる。
理解が追いつかないから、待って欲しかった。
「…僕はルカほど素直じゃないし、君とどうなりたいとかわからないことの方が多い。
でも、君が僕以外の誰かといるのが嫌なのは確かなんだ。」
キスできるんじゃないかと思ってしまうほど、彼と顔が近い。アイクの唇は小さいけれど、厚みがあるなとぼんやり思う。
ーそれは世間一般ではプロポーズなんじゃないの
喉まで迫り上がった言葉をなんとか飲み込み、彼の頬を手で挟む。顔は相変わらず熱くて仕方がない。
ーあ、唇がむにゅってしてかわいいかも。
ほら、どうでもいいことを考えなきゃどうしようもないくらいパニックになってる。人間追い込まれると冷静になっちゃうって聞いたことがある。…まさに今その現象が起きてる。
「…アイク、僕は君が思うほど器用じゃないし、鈍感でもない。…でも確認させて。さっきの言葉はその、告白…なの?君は僕のこと恋人にしたいって意味で好きなの?」
僕と言葉にアイクはキョトンとしていた。
パチリパチリと長いまつ毛を開けたり閉じたりした後に、破顔した。
「ふふ、ほんと、シュウは素直だよね」
クツクツと笑いながら僕を抱きしめるアイク。
「ふざけないでよ…僕だって真剣に考えてるんだ」
真剣に考えていたのに、笑われたようでちょっとだけ腹が立つ。さすがにムッとしてしまう。
「…人の思いってそう簡単に形にできないものなんだ。…シュウ、この石と僕のことをたくさん思い出しながら答えを出して欲しい。」
最後に僕への思いだという石を僕の手に握らせて、ゆっくりと惜しむように離れる。
「僕で悩んでほしい」
そう言い残し、悪戯が成功したような晴れ晴れとした顔で部屋に戻っていった。
▲
渡された掌の石が太陽光に当たる。
すると
「…色が、変わった。」
深いグリーンブルーから、深いマゼンタのような美しい色へと変化する。今はもう青色の面影はない。
魔法のように変わったそれをしばらく眺める。
キラキラと太陽に反射したくらい紫の光が眩しい。
ーつかれた
この数時間でたくさんのことが起きすぎてしまった。
精神的に疲労困憊で、自室に戻ってひとまず眠りたい。
石を眺めるのをやめて、のろのろと部屋に戻るべく立ち上がる。
ーシュウはさ、俺と話してる時と、ルカ、アイク、VOXと話してる時、違うよね。ー
ふと兄弟の言葉が頭をよぎる。
今はともかく眠りたかったけれど、安心する誰かがそばにいて欲しかった。
自室へ向かうのをやめて、ゆっくり兄弟の部屋へ向かう。
どうか、起きていますように。
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アレキサンドライト
石言葉 秘めた思い 情熱 安らぎ