夜道を進む放浪者と蛍ちゃんのお話 ──それは突然のこと。一人分の呼吸音が消えた。
「……え?」
蛍は右横に顔を動かすも、つい数秒前までそこをふよふよと浮いていた相棒の姿が見当たらなくなっていた。
「パイモン!?」
慌てて周囲一帯を見渡してみる。雑木林に所々雑草が生えた砂利道。その砂利道には通行人の道標のように灯篭が並び立っているが、その中には風など吹いていないというのに赤白い炎が揺らめいている。蛍がずっと見てきた景色だ。そう、蛍たちを覆っていた景色に変化はない。ただ周囲の雰囲気に怖がってばかりいたパイモンのみがその姿を消してしまっていた。ドクドクと高鳴る心臓、頬を伝う汗。普通ではないことが起きていると嫌でも理性が理解してしまう。
「……ここにはいない、か」
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