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    もりやま

    まほやく二次創作物

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    もりやま

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    ▼2023/8/20発行 ネロの短編集
    1話目全文をサンプルとして公開します。

    ▼賢者の超マナスポット2023 8/20 新刊
     インテックス大阪 5号館 い73a
     『朝食にて』
     ネロ中心 A6文庫 100ページ 500円

    朝食にて8/20新刊サンプル
    ネロが魔法舎に来てからの、なんとなく時系列順のイメージの短編集を発行予定です。全5話。
    1話目が魔法舎に来たばかりのメインスト1部→後半は2周年とか2部とかくらいの感じです。





    -----------


    1 朝食にて
    場所 魔法舎のキッチン
    時刻 早朝




     先日の厄災襲来の日までのしばらくの間、魔法舎のキッチンはたいした調理には使われていなかった。けれど、突然やってきた料理人によって、キッチンはいまやその全機能を稼働させていた。かまどには火がくべられ、大鍋や鉄製のフライパンは磨き上げられ、オーブンは丁寧に手入れされ、たくさんのパンを焼き上げる。
     ネロ・ターナーは、魔法舎にやってきた次の日から賢者と賢者の魔法使いたちの食事の世話をはじめた。最初は西の国のシャイロックに頼まれたから(あとから振り返って、あんな大騒動があった日によく次の日の朝食のことまで考えられたもんだとネロは思った。シャイロック・ベネット、彼自身、その日は心臓が燃えていたのだ)。それでもそのうち東の国に帰られると、ネロは思っていた。しかし、温かいごはんを食べたことがないなんていう中央の国の子どもの魔法使い、リケがネロのオムレツを食べて目を輝かせているのを見て気持ちが揺らいだ。賢者も何だか放っておけない若者であったし、ひとまず今のところスノウとホワイトの双子以外の北の魔法使いは魔法舎にはいなかったし―――、結局ネロはその翌日も、またその翌日も、皆の食事を請け負った。
     窓から差し込む朝日が長い影を作っている。まだ誰も起きだしていない時間帯の魔法舎は静かだった。早朝のキッチンで、ネロは一人手を動かす。そうしていると、この特殊な状況、賢者の魔法使いとして中央の国に引き留められていること、すでに起こっている厄災に関するネロには手に負えないと思われるできごと、これから起こるかもしれないできことから思考も感情も離れていることができた。自分の領域で手を動かすことは、ネロをひとまず穏やかな気分にさせる。

     一番早くキッチンにやってきたのはシノだった。
    「あんた、早いな」
    今から走りに行くというシノは、水が欲しいと言ってキッチンの水瓶から冷たい水を汲んだ。
    「朝飯係に任命されちまったからな」
    ネロが手を動かしながら答えると、ふうん、とシノは頷く。
    「いい匂いだ」
    オーブンの中にはもうすぐ焼きあがるたくさんのパンが入っていて、キッチンは香ばしい、少し甘
    い匂いで満ちていた。火にかけられた鍋には野菜と豆を煮込んだトマトスープがほとんど完成していて、食欲をそそる香りがそれに混ざる。
    「もうすぐパンが焼きあがる。焼きたてが食べたかったら、早めに切り上げて帰ってきな」
    シノは眉をあげて、丸くて赤い目をさらに見開いた。水をごくんと飲みほして、一瞬ネロをじっと見つめる。ここじゃ朝からできたてのパンが食えるのか、とシノは少しばかり驚いたのだが、ネロはシノが今までどんな暮らしをしてきたのかを知らないから、彼の沈黙の意味は分からない。
    「……何?」
    尋ねられて、シノは、首を横に振ってふふんと笑った。
    「いや。焼きたてのパンが食えるのはうれしい」
    ネロはその素直な言葉に笑う。
    「……はは。だろ?」
    言いながら鍋をかき混ぜて、小さな皿にスープを一口すくって味見をする。上出来だった。火を止めて、まだグラスをすすいでいたシノに声をかける。
    「卵もあるけど、食う?」
    「食う。何個まで?」
    「何個まで、ってことないけど」
    「じゃあ五個」
    今度はネロが目を丸くした。
    「朝からそんなに腹に入るか?」
    「食える」
    楽しみだ、と言い残してシノはキッチンを出て行った。作り甲斐あるな、とネロが思っているとキッチンの外からシノともう一人別の声が聞こえてきて、それからばちん、と手を打ち鳴らす音が聞こえてきた。シノの足音は遠ざかって、剣を持った中央の魔法使いがキッチンにやってくる。
    「いい匂いだ」
    「おはよう、騎士さん」
    そう言ってネロは入り口のほうを振り向く。と、いまいち目が合わない若い騎士を見て彼の不思議な症状のことを思い出す。カインは先日の厄災戦のあとから、相手に触れなければ(オーエン以外の)他者の姿が見えなくなったというのだ。
    「おはよう、ネロ」
    快活に笑いながらカインがてらいなく手を差し伸べてくるので、ネロはその手のひらにぱちんとタッチする。
    「やっと見えた」
    その笑顔は明るく清々しい。出会ったばかりの人間にこの笑顔で挨拶するというのは誰にでもできることではない。少なくともネロはしない。
    「朝飯だってのに豪華だ。すごいな」
    「どうも。あんたもどっか行くのか?」
    「ああ。朝飯の前にちょっと走ってくるよ」
    「へえ。流行ってんの?」
    「流行ってるのか? 俺は毎日走ってるんだ」
    ひと汗かいたら美味そうな朝飯がもっと美味くなる、と嬉しそうに笑うカインを見て、しぜんネロの表情もゆるんだ。
    「ああ、楽しみにしててよ。卵はいる? 何個?」
    「選べるのか?」
    レストランやホテルみたいだ、とカインは言って、んー、と人差し指を立てて考え、「二個!」と答える。
    「ちょっと半熟くらいの目玉焼きが好きなんだ」
    そう遠慮なく言ってくる彼の表情は底なしに人好きのする笑顔で、ネロもつられて笑ってしまう。
    「はいよ」
    カインもシノと同じように水を一口飲むと、元気に外へ出て行った。

     少し日が昇ってきて、外からは羊の鳴き声が聞こえてきた。シャーウッドの森番に中央の騎士、それからどうやら南の羊飼いの彼も早起きらしい。メェ、という牧歌的な鳴き声が中庭のほうから聞こえてくる。南の国にいるときのように放牧とまではいかずとも、散歩くらいさせてやっているのかもしれなかった。この朝の風景だけ切り取れば、なんとも長閑なものである。
     羊が散歩を終える頃には、ネロが作るつもりでいた一通りのメニューは出来上がっていた。あとは皆が食堂にやってくるころに卵を焼いて、サラダと一緒に皿に盛り付けてやればいい。ふう、と腰に手を当ててキッチンを見渡してから、そういえば、とネロは頭をかいた。シノにも卵をどうやって食べるのが好きか聞いてやればよかった。騎士さんは半熟の目玉焼き。リケは最初にオムレツを出したらいたく感動していて、すっかり好物になったらしい。毎朝オムレツを食べたがっている。南の兄弟はエッグベネディクトが好きって言ってたっけ、西の連中は? まあ彼らはまだ起きてこないだろうから後からでも―――。考えながら、ネロはフライパンに油を引いて熱し、卵を二つ割り入れた。
     昔もこんなふうに、たくさんの魔法使いと暮らしていた頃、盗賊団に居た頃は、仲間たちの料理の好みを、誰が早起きで、寝坊して起きてくるのは誰か、そういうのが当たり前に頭に入っていた。北の国では中央や東よりも鶏の卵は貴重で、でも栄養がたっぷりあるし日持ちもするから手に入るときはできるだけ買い込むようにしていた。
    ―――ブラッドはいつも卵を二つ。
    少しだけ蓋をして黄身をかためて、白身がカリカリになるまで焼く。
    焼き加減を見るネロの横顔は真剣だった。ジュウ、と音を立てるフライパンの前で、焦げ目がいい具合になるのを待つ。
    そう、こんなふうに。
    ブラッドリー・ベイン好みの完璧な、いつも通りの、いやかつて「いつも通り」だった焼き加減に出来上がった目玉焼きを見て、ネロはキッチンで一人、はあー、と長いため息をついた。
    ―――いや、作ってどうすんだ……。
     ひとり肩を落として、こんがり焼きあがった卵はとりあえず皿にあげる。さっきまでの長閑な気分は翳って、ネロは再び長いため息とともに料理台の前にしゃがみこんだ。嫌でも、そのうち顔を合わせることになるのは避けられないだろうし、自分にやれることはやると言ってここ魔法舎に残ったものの、いや、嫌だとかどうとかもはやそういうレベルの話でもない。もう何度繰り返したかわからない答えのない煩悶に再び対面し、ネロがどうにもたまらなくなってしゃがみこんでいると、しかしネロの思考が底の底まで落ちる前に、誰かの足音が近づいてきた。ネロは人の気配にパッと立ち上がって、何食わぬ顔で作業をしているふりをする。早起きの連中はそろそろ腹を空かして食堂へやってくるはずだ。心の中でそう自分に言いきかせて、作業に戻る。
     再びフライパンを火にかけたネロに、後ろから遠慮がちな声でおはよう、と声をかけたのはネロと同じ東の魔法使いのヒースクリフだった。彼はネロに、というか、幼馴染であるというシノ以外の魔法使い全員にずいぶん遠慮がちに接していた。名門貴族の子息らしい気品と優雅さを持ちながら、やや引っ込み思案な気質らしい、ということが感じられた。どう見積もっても出自も年齢も育った環境も何もかも違っていたけれど、たぶん他人にすごく気を使う性質なんだな、ということは分かる。不思議なことに、その一点においては、ネロはヒースクリフに自分と少し似たものを感じていた。
    「えっと……、キッチンを少し借りてもいい?」
    おそるおそる、といった感じでネロにたずねるヒースクリフの意外な問いかけに、ネロは眉をあげた。
    「何か欲しいものあるなら、用意するけど」
    ネロがそう言うと、ヒースクリフは一瞬ひるんだようだったが、あの、と言葉を探して、首を横に振った。
    「俺じゃなくて、あの……、ファウスト先生に何か食べやすいものをと思って……」
     その言葉に、ああ、なるほどとネロは合点がいった。以前から賢者の魔法使いだったファウストは、ヒースクリフに魔法を教えていたらしいし、そのファウストは先日の厄災戦ではヒースクリフを庇って、石になりかけたと聞いた。ファウストは賢者とオズに助けられたが、今も自室で療養中である。つまり、ヒースクリフにとっては師であり命の恩人でもあるということらしい。ファウストがどういう魔法使いで、この若い魔法使いにどういう接し方をしていたのかネロは詳しいところは知らないけれど、ヒースクリフの様子を見ていれば、彼がファウストのことを大層慕っていることは明らかだった。
    「ああ、そういうこと。もちろん。いいよ」
     ネロは十分に熱されたフライパンの中にシノとカインの分の卵をまとめて割り入れて、うまく半熟になるように火加減を調整する。そして、ヒースクリフのほうに向きなおって首をひねった。
    「何がいい? まだ寝込んでるんだよな。朝飯の準備はもうできてるし、言ってくれれば作るけど」
    「えっと……あっさりしたチキンスープとかだったら、食べられるかなと思ったんだけど」
    どうかな、とやや不安そうにネロに尋ねるので、ヒースクリフを安心させるようにネロは頷いた。
    「いいと思うぜ」
    一人分なら大した手間でもないし、とネロが手元のフライパンの中の様子を見つつ言うと、あ、あの!、とヒースクリフがネロのいる火のそばまでやってきて、「俺も何かしたくて」とネロの目を見て言うので、ネロは目をぱちぱちとさせて、それから、ああ、この若い魔法使いは、せめて少しでも自分から何かを返したいのだ、と理解した。
    「じゃあ、あんたも手伝ってくれるか? 野菜、残ってるやつそこにあるからさ。食べやすいように小さめに切って、柔らかく煮ちまおう」
     ネロの提案に、ヒースクリフは今度は安心したように頷いた。ちょうど、今朝のトマトスープのために作ったチキンのブイヨンが残っているから、それを使えばいいな、とネロは小鍋を準備する。横目で見ていると、ヒースクリフはどうやら料理が得意というわけではないようで、慣れない手つきで野菜を洗い、危なっかしい手つきで野菜を刻んでいる。
    「野菜の用意できたら、ちょっと炒めてからこの小鍋のスープの中に入れて、しばらく弱火で煮ればいい」
    ネロに言われて、ヒースクリフは、ありがとう、と言ってぺこりと頭を下げた。
    「どうってことないよ」
    とネロは肩をすくめて見せて、それから、あんたの飯は? と尋ねた。
    「シノだっけ。おまえさんの幼馴染くんは朝飯に卵五個食うって言ってたけど、あんたはどうする?」
    「えっ五個」
    「ああ。今走りに行ってるけど、もうすぐ戻ってくるんじゃないかね」
    「あ、俺は何でも大丈夫、ていうかこれ、ここにあるトマトスープも、パンもサラダも、ネロが作ってくれたんだよね」
    「まあ、そうだけど」
    「これだけあれば十分すぎるくらいじゃない?」
    「まあ……。でも卵、いっぱいあるし」
    それから、ネロは冗談っぽく付け加える。
    「それに、これ、あれだろ? 中央の国の金で買ってるんだし。なんかこれから色々やらなきゃいけないみたいだしさ。飯くらい、いくらでも食えばいいんじゃないの?」
    ヒースクリフは、ネロのあっけらかんとした言い方に思わず噴き出した。色んなことがあって、緊張していた糸が他愛ない話で少しほぐれる。彼の笑った横顔は朝日を受けて、きらきら輝いて見えた。ヒースクリフは、うん、そうだね、と頷いて、「俺も目玉焼き食べようかな」と微笑んだ。ネロも頷きかえして、卵の入ったボウルを引き寄せる。
    「そうしな。かたさはどうする?」
    「えっと、黄身がとろとろのほうが好きかも」
    「了解。ちょっと待ってな。すぐ焼くから、そのスープを煮てる間に食っちまえよ。パンとスープは自分でよそえるか?」
    「……うん!」
    ヒースクリフは大きく頷いて、ありがとう、と礼を言う。
     そうこうしているうちに、シノとカインも戻ってきて、腹が減ったと言って、卵とスープ、たっぷりの焼きたてパンを皿に盛って食堂へ持っていった。リケやミチルも起きだしてきて、後からフィガロや双子もやってきたのでネロは内心やや慄きながらも賑わう朝食の席に料理と新鮮なミルク、紅茶を配ったりして世話を焼く。食器の量もばかにならないから、下げた食器から洗っていった。ミチルやルチル、何人かの魔法使いが手伝いを申し出てくれたが、一人のほうが気が楽だし、と断った。
    「ネロは、朝食を食べないのですか」
    そうリケに少し心配そうに言われて、ネロはそういえば自分が朝起きてから何も口にしていないことに気が付いた。
    「忘れてた。これ終わったら食うよ」
    ネロは、リケを安心させるように笑って見せる。


     一人で片付けをあらかた終わらせてやっと、ネロはようやく自分の食事を取る気になった。切り分けておいたパンを二切ればかり取って温めなおす。小さな鍋に湯を沸かし、コーヒーを淹れる。大きめの丸皿にパンとサラダを一緒に盛り付けて、置きっぱなしにしていたカリカリの目玉焼きもそこにのせる。
    はあ、とまたため息が出る前に、ネロは熱いコーヒーを口に含んだ。冷めた卵はフォークで切って口に運び、パンと一緒に頬張った。
     魔法舎のどこからか、鈴が鳴るように若い魔法使いたちの声が聞こえてくる。ばたばたとした食事の時間のあとに一人になって食事をしているのも、なんだか昔を思い出させた。良いことも悪いこともあった、でもそれはもう手元には無いものばかりだった。
     自分でそうしたのだ。意味や役割を持たない、もはや何者でもないネロ・ターナーとして生きていた。
    しかし結局のところ、今度は自分の預かり知らないところで役目を持つことになっている。しかも、ブラッドリー・ベインと同じ賢者の魔法使いの役目。何百年も北の国で魔法使いとして生きていたら、色々なことがあったし、想像できないようなことが時には起きるということも身を持って知っていた。けれどやっぱり、紋章が自分に刻まれたその時、嘘だろ、とネロは思った。本人はここには居ないというのに、ブラッドリー・ベインは本当に、ひたすらに強い引力を持っている男なのだと思い知らされた気がした。
    「ネロ、食器返しに来たよ」
    と、また物思いに沈みそうになったネロはヒースクリフの声で顔を上げた。右手でもてあそんでいたカップは置いて、ガタ、と椅子を引いて立ち上がる。ヒースクリフの表情は明るい。ファウストへの差し入れが快く受け取ってもらえたらしいことが伺えた。ネロは一気に今の魔法舎に意識を引っ張り上げられた。
     ヒースクリフはネロにとっては出会って間もない魔法使いだったが、嬉しそうな顔の子どもを見ると、ネロのほうも自然とよかったな、という気持ちになる。
    「わ、ネロまだご飯食べてなかったの?」
    ネロの前にある食べ始めたばかりの皿を見て、ヒースクリフが申し訳なさそうな顔をする。ネロは、あんま腹減ってなかったから、と、どちらかというと自分に言い訳するために答えた。
    「ネロは卵、しっかり焼いたのが好きなんだね」
    ヒースクリフが穏やかな顔で言うのに、ネロはほんの少し苦い気持ちで首を小さく振った。
    「いや、焼きすぎちまっただけ」
    ちょっと失敗したんだ、とネロは笑って見せて、それから、話題を変える。
    「ファウスト、スープ食ってくれた?」
    「あ、うん! これ、借りてた食器なんだけど……」
    そう言ってヒースクリフは、かわいらしいうさぎのかたちをしたものをネロに差し出した。
    「……うさぎ?」
    ネロがヒースクリフとうさぎを見比べて目を瞬かせる。
    「えっと、ファウスト先生がスープのお礼だ、って」
    「ファウストが……?」
    ネロが思わず聞き返すと、ヒースクリフの手のひらの上で、小さなうさぎが、ぺこり、とお辞儀をして見せた。そのしぐさは律儀で愛らしい。ネロとヒースクリフは目を見合わせて、それから一緒に笑い出す。あはは、と明るい声がキッチンに満ちる。
    「あの先生、かわいいとこあんだな」
     そう言って、ネロはヒースクリフの手のひらの上のうさぎを指先で優しくつついた。ヒースクリフの表情がまた一段明るくなって、うん、とそっと頷く。ネロが自分とほとんど変わらない背丈の魔法使いの頭をつい撫でると、ヒースクリフは一瞬びっくりした顔をして、それから照れたように笑った。ネロは目を細める。今度は自然に、ネロが微笑む。




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    1 朝食にて
    場所 魔法舎のキッチン
    時刻 早朝




     先日の厄災襲来の日までのしばらくの間、魔法舎のキッチンはたいした調理には使われていなかった。けれど、突然やってきた料理人によって、キッチンはいまやその全機能を稼働させていた。かまどには火がくべられ、大鍋や鉄製のフライパンは磨き上げられ、オーブンは丁寧に手入れされ、たくさんのパンを焼き上げる。
     ネロ・ターナーは、魔法舎にやってきた次の日から賢者と賢者の魔法使いたちの食事の世話をはじめた。最初は西の国のシャイロックに頼まれたから(あとから振り返って、あんな大騒動があった日によく次の日の朝食のことまで考えられたもんだとネロは思った。シャイロック・ベネット、彼自身、その日は心臓が燃えていたのだ)。それでもそのうち東の国に帰られると、ネロは思っていた。しかし、温かいごはんを食べたことがないなんていう中央の国の子どもの魔法使い、リケがネロのオムレツを食べて目を輝かせているのを見て気持ちが揺らいだ。賢者も何だか放っておけない若者であったし、ひとまず今のところスノウとホワイトの双子以外の北の魔法使いは魔法舎にはいなかったし―――、結局ネロはその翌日も、またその翌日も、皆の食事を請け負った。
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