305【凪玲】よしよしして?「酒入ってるから本題入るけどさぁ、お前、何で抱かれる側に回ったの?」
「お、その感じだとついに凪とエッチしたけど上手く行かなかったのか、ドンマイ!」
「ちっげーよ! まだ寝てねぇの! 役割の話し合いの段階なの!!」
「ハハッ、話し合い! うちは押し倒されてオシマイだったよなー、國神」
「そ、その節は……その……」
「で、何だっけ。何で抱かれたかだっけ? ……直接的に言やそれなんだけどさ。実際突っ込まれる方も悪くないぜ? ケツで抱くって感じで、俺ん中で気持ち良くなってるコイツ見るの、結構優越感あるんだよな」
「へぇ……」
「イくの我慢してる時の色気とかヤッバイの。食うの我慢してます、みたいな理性ブチギレかけの顔がさぁ、」
「千切お嬢様、流石にちょっと黙ってくれませんかねぇ!?」
「おーおー、悪かったな。後でよしよししてやるからなー?」
「おい、人がまだいんのに彼氏のチンコ触んな」
「別に良いじゃん、ズボンの上からだし。なー?」
「だからチンコに話しかけんなって……おい、國神。千切酔ってねぇ?」
「すまん。久々に玲王が遊びに来るってんで、はしゃいじまったみたいだ。……多分明日死ぬほど反省するやつだから、許してやってくれ」
アパートに帰り着いて、スマホを見下ろす――終電帰りだから0時をとっくに回ってるのに、まだ部屋の明かりはついていた。
「ただいま」
念のために声を潜めながら言う。寝落ちしてるんじゃねぇかと思っての配慮だったものの、杞憂だったらしく、部屋の方から、おかえり、なんて声が聞こえた。
靴を脱いで部屋まで戻ると、ソファーでゲームをしてたらしい凪が顔を上げる。
「遅かったね」
「おー……別に待ってなくて良かったんだぜ? 今日遅くなるったろ」
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しながら答える。駅からの道すがら、大分酔いは醒めてきてるが、千切に合わせたせいでそもそも今日は飲んだ量が多い。明日は明日で予定があるし、きっちり抜いとかねぇ――と――
「!」
「あ、ごめん。びっくりさせた?」
横からひょいっと手が伸びてきたのに頭より先に体がビクッと反応する。
(いや、びっくりって言うか……)
お前、昨日ここでめちゃくちゃ激しいキスしてきたろ――セックスまで持ち込むつもり、くらいの。
凪と同棲を始めたのはつい1ヶ月くらい前で、理由は"オツキアイを始めたから"だった。つまりはまぁ夜の生活的な話も出てくるわけなんだが、それはずっと保留になっている――上下が決まらないからだ。
(……抱くのは辛うじて想像できなくもねぇけど、抱かれるのは全然想像できねぇ)
付き合い始めるくらいには好きではあるし、キスとかハグに抵抗はない。けど、何せコイツとはママと赤ちゃん……とまではいかねぇものの、世話係と世話され係みたいな役割がはっきりとあったわけで、抱く抱かれるみたいな関係を持ち込もうとしてもなかなか上手く想像できない。まぁ男なんだしこっちが抱くか? でもコイツも男だしな、みたいな。けどまぁそこんとこは凪も同じなわけだから、決着なんかつきようがない。
だからこのままじゃ埒が開かねぇってんで今日は、千切と國神に話を聞きに行ってたわけで。
「2人とも元気だった?」
「おー、相変わらずラブラブしてたわ」
言ってから、藪蛇だったかと思ったものの、他所様の事情はどうでもいいのか、凪は、へぇ、と返してくるだけだった。
俺は傍らで水を飲んでる凪を見ながら思う。
(……体格は、こいつの方が良いんだよな)
プロになってからますます体が厚くなった凪と、やっぱり筋肉がつきにくい俺で、見た目は身長差以上の体格差がついちまっている。こういう場合は、俺の方が女役になるんだろうか? でも顔は凪の方が可愛い寄りだよな? こいつはベビーフェイスで、俺はイケメンなわけだし。
「玲王」
「ん?」
「考え事?」
聞かれて、俺は首を横に振った。考え事っちゃ考え事だが、何となく凪に話すのは気恥ずかしかった――セックスのアドバイスだって言うのに。
(ケツで、抱く……)
言われたことを思い出してると、何となく凪の股間に目が行ってしまう。
(コイツのチンコを……俺のケツで、)
「玲王」
「っ、」
「触ってみる?」
流石にジロジロ見てたのがバレてしまったんだろう。凪がそんな風に聞いてくる。口にしてるのはセックス――ってか初夜の相談でもあるのに、いつもとほぼ様子は変わらない。
(……コイツ、)
セックスでも表情崩したりしないんだろうか。だとしたら、何か――ムカつくような。
『ケツで抱くって感じで、俺ん中で気持ち良くなってるコイツ見るの、結構優越感あるんだよな』
千切がそんな風に言ってたのを思い出す。考えてみりゃ、男なんてチンコ握られたら無力だ――射精すること以外考えられなくなっちまうんだし。
(……それなら、)
抱かれる側に回る方が、主導権を握れたりするのかもしれない。
よし、と俺は意を決して凪に向き直って――凪のズボンに手をかける。
「あれ、玲王……ほんと、」
少し驚いたように目を見開いた凪に、何だか少し気分が良くなってきて、俺は凪の言葉を遮るようにして言った。
「黙って俺に任せてろ。今日は……ケツでお前のチンコ、よしよししてや、」
る――まで言ったところで、ボロンと勢いよく凪のチンコがまろび出てきた。ケツでよしよしする――自分がついさっき言った言葉をソッコー撤回したくなるような、ご立派なヤツが。何せ、ぽろんじゃなくてボロンだ――えっ、いや、何だこれ。
「…………」
「玲王ー、よしよしは?」
「…………」
咄嗟に返事ができない。いや、待てって、萎えててこれなわけ?
「玲ー王ー、最初からお尻が無理なら手でもいいよ?」
凪が無造作に俺の手を掴んで、股間に導いていく。その行動にためらいは一切ない。まるでこっちが抱かれる方に回るのを今か今かと待ってたみたいな――
「な、凪……」
「玲王、よしよしして?」
ぶっちゃけ引いてる俺を物ともせずに、ペースを崩さないベビーフェイスとねだるような声――けど、それで誤魔化しきれないほどに、手に触れたモノは生々しくて、俺は途方に暮れてしまった。