愛しい棘に口づけをIke Evelandは、Vox Akumaの家に仕える使用人であった。
由緒あるその家系の勢力は最盛期ほどではなくなりながらも時代と共に緩やかな経過を辿り、未だ誇りある名家としての尊厳を確かに保っていた。
町外れの森の中には、立派なお屋敷があるという。
近くの街に住む庶民の子どもたちの間で専らそれは、嘘か真かといった噂話であった。
不思議な噂を纏って、開拓が進められたことによりすっかり街の中心部ではなくなってしまったそこに存在するその家には現在、5人の住人がいた。
正確には、住人が3人に使用人が2人だ。
Voxは、半年ほど海外にて新しく事業を執り行う両親に変わり、現在この家の主を務めていた。
一時的ではあるが、そもそもが長男である彼にとってそれは決して夢のような未来ではなく、実にこのまま放っておいてもやってくるのではないかと思うほどに確約された未来であった。
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