月に行く君へ目の前の装置に乗れば、その先は月。未開の領域とされている。どんな危険があるかわからない。しかし、協力者もいると聞いたので、月に行くこと自体は大丈夫だろう。と、コドウは楽観的に考えていた。
彼女にとって、気にすることは別にある。
過去に何度も、遠出することを連絡しなかったことで、リテイナーのふたりに心配されていた。
特にウルシから心配され、帰った際に苦しいくらい抱き締められた。少し話をする時間はある。今回くらいはきちんと連絡しよう。そう思い、リンクパールに触れた。
「もしもしウルシくん?」
「コドウ?どうした、仕事以外の用事か?」
「あのね、これから月に行ってくる!」
「あぁ、受けた依……は?月?」
「うん。月!」
声の感じから、驚いている表情が目に浮かんだ。そんなにびっくりしなくていいじゃないかと、コドウは笑ってしまった。リンクパールからは、彼のふるえた声が聞こえてくる。
「お前、急に、今からか?」
「今からだよ。行ってくるね。」
「ちょ、待て!いや、とりあえず行く前に、聞け!」
「聞くけど、私何か忘れていたっけ?」
ウルシがここまで動揺したのは、アパルトメントで全裸遭遇をした時か、寝ぼけて彼の前で着替えをした時くらいだった。服を着てくれと叫びながら、こちらに背を向けられたのは、記憶に新しい。洗濯したパンツを床に落としたままにした時も、同じくらい動揺していた気はする。
他に何かあったかコドウが記憶を探っていると、大きく息を吸い込む音が聞こえた。
「俺、俺さ、コドウのことが好きだ!」
「へ?す、き?」
「俺にとってコドウは、ちっちゃくて、可愛い、女の子で、俺はコドウのことが好きなんだ!答えは帰ってきてから聞かせてくれ、俺もちゃんと、会って好きって言いたいから、必ず帰ってきてくれ!」
「ウルシくん?!それは、」
「無事に帰ってきてくれ!じゃ!!」
一方的に話され、一方的に通信を切られた。
そして、月へ転送された。
常に一緒にいる、マメット001と共に。
「……絶対帰らないと、いけないじゃん。私、好きな人に好きって、言ってないんだけど。」
ウルシ以上に大きく息を吸い、深い深い闇に向かってコドウは叫ぶ。
「ウルシくんの、馬鹿ーーー!!!!意地悪!!!!私だって、大好きなのに、答えすぐ言えたのに、馬鹿ーーー!!!!」
コドウにとって、ウルシは特別な存在ではあった。他の人とは違う、名前がわからない感情は確かにあった。それを恋愛感情だと理解したのが、先程のこと。
絶対に生きて帰るんだと声に出す様子を、マメット001だけが見守っていた。