タイトル未定「――、≪アドノディス・オムニス≫」
「≪アドノポテンスム≫!」
「ずいぶんとまぁおもしれえことになってんじゃねえか。俺も混ぜろよ、ネロ」
魔法でつくった障壁でネロのカトラリーを押しとどめながら不敵に笑うのは北の魔法使い・ブラッドリーだ。
先ほどまで良好だった視界が霧でどんどん白く煙っていき、五メートル先すらまともに見通せなくなってしまった。下手に動き回るのは危険だと判断し一度立ち止まる。
死角からこめかみを狙って放たれた蹴りをブラッドリーは咄嗟に長銃で受け止める。
「っ…!」
バレル越しに伝わる衝撃が腕の骨をも震わせ、ブラッドリーは小さく呻き声を上げた。長銃が軋む音に舌打ちしながら衝撃を流すために飛び退る。一撃は何とか持たせたが次受けたら使い物にならなくなる。魔道具が使えなくなるのは魔法使いにとって致命的だ。
ブラッドリーがおもむろに空へ向けて魔力を放つ。上から解けていく結界とともに掲げた長銃を下ろし、銃口を目の前で項垂れるネロの頭へ向けた。ぴくりと震えて顔を上げるネロの目の前に魔法陣が浮かび、低い声で呪文が唱えられる。
「≪アドノポテンスム≫」
――
突然解除された結界の中に、ファウストは二人の魔法使いの姿を認めた。だんだんと露になる光景、脱力したネロとその頭に銃口を突き付けるブラッドリー。双方の表情は窺えない。何が起こってるんだ。あの北の魔法使いは何をしようとしている?
「ネロ!…っ、≪サティルクナート・ムルク…」
ブラッドリーを妨害する間もなく銃声が轟いた。撃ち抜かれる直前、ネロは呆けたように何かをつぶやき、何故か少し笑ったように見えた。