愛しいはあなただけ/ヴィリティファ目の前にはテディベアと遊ぶ少年になったヴィリオ。見ている限り、記憶はないらしい。
出会った頃にはあんなにも頼もしくなっていたから、こんな姿が彼にもあったのだと微笑ましくもあるけれど――
(寂しい)
いつも笑顔を向けてくれる彼も、もうわたしのことは目に入れてくれないかもしれないと思ってしまう。
歳が近くなかったらわたしたちはもしかしたら番になれていなかったのかもしれない。
「なあなあ」
「え」
「アンタにもくまやる!」
ぐいっと押しつけるようにヴィリオが渡してきたのは白いテディベア。虹色のリボンをつけている。
「わたしにくれるの?」
「アンタに似てるだろ?」
「うん、ありがとう」
わたしだというテディベアを腕で抱えながら、彼の背丈に合わせて屈み、普段はヴィリオがしてくれるように頭を撫でた。
慣れない指の感触に少し新鮮さを抱く。
「って! アンタ撫ですぎ!」
いつもはしないことをしたせいか、加減がわかっていなかったようで、顔が真っ赤なヴィリオがそこにいて、子どものヴィリオとはいえ、大人のヴィリオを知っているわたしは急いで手を引っ込める。
(でもちょっと不思議。ヴィリオ、こういうことされたって照れなさそうなのに)
「……何見てんの?」
今のヴィリオは子どもだから。それに夢なんだと思い込み、思った通りの言葉を伝える。
「あなたが照れてたのが意外だったの」
心の中で決めたから形にした言葉なのに、どうしてもヴィリオと番である自分の感情に引っ張られてしまい、せっかくプレゼントしてくれた白のテディベアを少しだけ力強く抱えてしまった。
(別人だと思いたくない。ヴィリオの番でありたいよ……)
「なあ……」
逃げるように腰を伸ばそうとしていたとき、ヴィリオに服の裾を捕まえられる。
「……可愛いと思ったから」
「え」
「アンタのこと可愛いと思ったからオレ」
そこにいるのはいつもきらきらと瞳を輝かせるヴィリオで、いつもと違うところがあるとすれば、その瞳がいつもより揺らめいているところだろうか。
「え、えっと……」
「オレさ、少し特殊な事情で自由に人を好きになれないんだけど、アンタみたいな人だったらいいなって思ったんだ」
彼の伸びやかで気持ちのいい迷いのない声。この頃からすでにヴィリオはヴィリオだったんだと今度は少し……すごく嬉しくなる。
「ねえ、また出会ったら番にしてくれる?」
「へ? なんでそれ知ってるんだ!?」
「ふふ、お姉さんとの秘密」
◇◇◇
目覚めたのは覚えのあるベッドで、やっぱり夢だったんだと落ち着く自分がいた。
(でも、子どもの頃のヴィリオも可愛かったな……)
妄想のヴィリオだったかもしれないけど、可愛かった。
「なんで、くまを抱えてにやけてるんだ」
わたしはどうやら赤いテディベアを抱きしめて眠っていたらしい。
そういえば、昨晩マーケットでお互いに似たテディベアを選んだのだ。ヴィリオがいたはずの空いたベッドには白いテディベアもいる。
夢になぜテディベアが出てきたのか理由がわかった気がする。
意外と熱中してそんなことを考えていたせいか、ヴィリオがベッドに膝をかけていて、鼻をかすめるくらいに距離が近づいてることに気づいていなかった。
「ヴィリ……」
下唇をやわく食まれたと思えば、その隙を狙っていたかのように、ヴィリオに似た赤く意志の強そうなテディベアは回収されてしまった。
行き場のなくなった手は首に回すよう促されて、逃げる舌を追い回すようにヴィリオが追いかけてきて、口を挟もうとしたけれど、わたしは気持ちよさに身を任せることにして舌を絡めた。
離れる瞬間、ちゅうっと唇を吸われて恥ずかしくなる。いつもはしないそれに、ヴィリオが怒っていることがわかる。
「オレがいるんだから、オレ以外に夢中になる必要はないだろ?」
その揺らめく瞳は、夢のヴィリオと似ていて――
「ほら、オレたち匂いも同じで……っ……」
ヴィリオはわたしがテディベアにご執心だと勘違いしているようで、このままでは夜の続きが始まってしまいそうだ。服をめくられて匂いを嗅がれてしまっているけど、今は羞恥より愛おしさが上回ってしまっている。
実はヴィリオも子どもっぽいところがあるのかな? なんて思って――
「……ふふっ、ヴィリオ好き」
「……へ!? ああ、オレも」
首から背中に回す腕をずらして、ヴィリオの高鳴る心臓に耳を澄ました。
(触れたいのはヴィリオだけだよ)
落ち着いてから夢の話をして、「オレも小さいティファリアに会いたかった」なんて言うヴィリオにわたしが嫉妬してしまうのはまた別の話。