Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    banuuco

    @banuuco

    某Vtuverに沼った人間の絵と文章置き場.
    乱交大好きNot固定cp
    ミ🦊本BOOTHにて通販中

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 7

    banuuco

    ☆quiet follow

    ▲前編▲
    👹🦊+👟 

    ヴォが💙💙言いすぎてミがちょっと精神的におかしくなる話の続き。病みミに希望を抱いてる。(⚠️流血表現あり)
    #FoxAkuma

    #FoxAkuma

    Tシャツが肌にべとりと吸い付く、茹だるような夏の日。ミスタの配信が止まった。
    なんの前触れもなく、荷物すら残してアイツは消えた。

    ミスタは人一倍仕事に対して真面目だったし、3月に家を探すための休暇だって悩みに悩んでいた。それくらい仕事熱心なアイツが連絡一つ寄越さず消えている。これは何かのジョークだろうか。

    この新しい家は、前の家に比べて静かだし配信するにも防音でちょうどいい。ついでにイギリスの中でも回線は抜群にいい方だ。その分家賃が高いのがネックではあるが。
    カラカラとゲーミングチェアを転がす。特に意味もなく空になったマグカップに手を伸ばした。ミスタからの引っ越し祝いだった。燃えるような赤色のそれは、いつの間にかお気に入りになっている。配信中の水分補給と称してパソコンの横に置く。
    ぼんやりと指の腹で側面を撫でた。この家にまだ一度も招いていないというのに。4日たっても既読のつかないアプリにふっと息を漏らす。
    今日も今日とてミスタに連絡をするのだ。『運営さんも困ってるぞ。何があった、俺に相談できないことか。なあ、ミスタ。お前が恋しいよ』
    そう打ち込むと、送信ボタンをタップする。日に日に溜まっていく未読のメッセージが、ぞわりと背中を撫でる。このまま見つからなかったら、ミスタは、配信は、Luxiemはどうなるのか。そんなことを考えるようになっていった。

    うっすらと雲がかかる空は、これから雨が降りそうな嫌な天気だった。何気なく窓越しに外を眺めると、人々が慌てて街中を歩いていく様子が伺えた。もしかしてこの中にミスタが紛れていたりしないだろうか。
    そんなことを考えながら、今日の配信を開始した。






    「ミスタ、ヴォックスからメール来てるよ。ミスタ」
    「うるさい、その名前は言うなって言っただろ」
    「そうだった、ごめんね。体調はどう?」
    ぼんやりとした思考で、反射的に答える。ソファに横になりミノムシのように毛布にくるまっていた。小さく小さく体を抱えるようにして、ただ時間を潰していた。シュウの家にアポなしで上がり込んでからはや四日。大の大人が毎日介護されている。居心地が良すぎて一生ここで暮らしたいな、なんて思ったことは内緒だ。
    スンスンと鼻を鳴らす。ふわりと甘い香りがする。これはなんだろうか。ハチミツかな。
    無音が嫌だから適当につけたテレビには、なかなか際どいシーンが流れている。女優が喘ぎだしてしまう前に違うチャンネルに変えるべきか。いや、めんどくさいな。
    「ハニーミルク?」
    「そうだよ。これ好き?僕大好きなんだ」
    「俺も好き」
    見なくてもわかる。多分シュウは笑っている。困ったように眉毛を下げて、もう仕方ないなと言うふうに笑うのだ。シュウの家に上がり込んで初めて知った彼の癖。
    突然泣きながら家に押しかけてきた同僚に対して、彼はとても優しかった。びっくりするくらいに。
    シュウの家は1LDKで俺はリビングに住まわせてもらっている。一応お礼として料理でもと思ったんだけど、必死の形相で止められてしまった。どうして。俺だってスクランブルエッグくらいなら作れるのに。
    温かみのある色で統一された部屋は、とても心が落ち着いた。ミルク色のクッションを抱きしめ、柔らかなフレグランスの香りに思わずホッとする。
    俺の仕事はリビングの隅にあるパキラに水をやることだけ。ただのニートだ。
    ふとパキラに目をやると、レモンカラーのカーテンに隠れてしまっている。仕方ねえなと思いながら、重い腰をあげた。ソファのスプリングで尻を浮かせ、よたよたと歩く。
    「ミスタ、どうしたの」
    「パキラが」
    「ああ、隠れちゃってるね。避けてあげてくれるかな」
    「うん」
    10歩ほど歩いたところでしゃがみ込み、パキラに覆いかぶさっていたカーテンを払い除ける。そのまま全体を観察した。心なしか葉先の色味が鮮やかになった気がする。いや、気のせいか。気のせいだな。葉を特に意味もなくつつき、跳ね返ってくるのを見つめた。
    「ミスタ、腕はどう?」
    「あー、どうだろう」
    「ちょっと見せてもらえるかな」
    ようやくここで今日初めてシュウの顔を見た。スウェットにズボンのラフな格好の出立ち。シャワーを浴びたのかトレンドマークのバナナがペちょりと萎れていた。シュウの手にはハニーミルクと救急箱が握られている。
    こんなにも優しい男がいていいのだろうか。ただの同僚である男にここまでしてくれるなんて、俺は恵まれている。
    シュウは楕円形のガラステーブルにハニーミルクを置き、こちらへ歩いてくる。細くしなやかな指でゆっくりとピンクのパーカーの袖を捲り、そっと腕を包み込まれた。
    「…うん、良くなってるね。もう痛くない?」
    「痛くない」
    「そっか。ミスタが家に来た時血だらけで僕びっくりしたよ!」
    「ごめんね。迷惑かけて」
    「あっ違うのミスタ。謝ってほしい訳じゃなかったんだ。ただ…うん」
    言葉に詰まったのか、シュウは無言で傷の手当てをする。テキパキと慣れた手つきで消毒と包帯を巻き、古いものと取り替えてくれた。
    シュウの家に来る前、俺は風呂場で腕を切った。
    どうしてそんなことをしたのかと言われると、自分でもよくわからなかった。気づいたら風呂場が血まみれで、両腕がぱっくりと切れていた。どうしようどうしようと考えるうちにますます血は流れ出て、パニックになり咄嗟に思い浮かんだシュウの家まで行ったのだ。正直よく警察に通報されなかったなと思う。
    持っていたのはスマホだけで、あとは全部家に置いてきてしまった。シュウが家にあげてくれなければ、病院送りになっていた気がする。本当に感謝しかない。
    「ねえ、アイツからなんて連絡きてる?」
    「え?」
    なんとなく気になって聞いてみたけど、見るからにシュウは狼狽えていた。その証拠に瞳が揺れ動いていた。
    「何、愛してるみたいなことでも書いてあった?」
    「僕、そこまではっきりとはみてないや」
    彼は処置が終わると、さっと片付けてキッチンの方へ向かった。嘘が下手だな、シュウは。それじゃ丸わかりだよ。
    「別にアイツとは恋人でもセフレでもなんでもないよ。本当にただの他人」
    「でも」
    「俺が勝手に辛くなってるだけ。それだけ」
    まだ何か言いたそうなシュウに背を向けて、ソファに転がり込む。頭まですっぽりと毛布を被り、ぎゅっと体を抱きしめた。いつからは俺は、こうだっただろうか。


    配信で彼と恋人まがいの茶番をしだしてからだろうか。そんな気がする。元々下ネタが好きだし口をひらけば出てきてしまう。ヴォックスとの掛け合いは好きだったし、ファンの反応も良かった。味を占めた訳じゃないけれど、嫌いじゃなかった。単純に楽しかったんだと思う。他の人と一緒に配信して、一緒に笑い合って、時に罵って、そんな関係が大好きだった。
    そんな中、いつしかアイクにも甘い言葉を吐くようになった。最初はそんな気一切感じられなかったのに、俺に向けた言葉よりも熱烈に、愛おしそうに囁くアイツの姿に茫然とした。俺に向けた言葉なんて所詮セフレに向ける言葉のように軽かった。羽のように軽くて掴もうとしたらするりと逃げていく。んで意地になっていくうちに、気づいたらこんな場所まで来てしまっている。
    ある配信で離婚の話になった時だって、笑っちゃいたけどアイクの良さを聞かされるたびに胸が痛んだ。嫌でも俺はアイクがつれない時の代わりだと実感してしまう。同僚になって数ヶ月の男に心を掻き乱された。
    初めてのことだった。
    アイクは…アイクはヴォックスのこと、どう思ってんのかな。やっぱりまんざらでもなさそう?そうでもない?自分でうだうだと考えても何もわかりはしないのに、ざぶんと波に攫われる。耳の中まで水が入って、たまに塩水が顔を覆う。その度に咽せてはもがいて、その繰り返しだ。
    「ミスタ、僕もう寝るから。飲んだらシンクに置いててくれる?」
    「…ん、わかった」
    シュウは自室に戻るらしい。本当に優しい人間だと思う。4日も居候しているけど、どうしてこういう人を好きにならなかったのか、自分でも分からなかった。
    スリッパの軽い音が遠ざかっていく。シュウはドアをそっと閉めるんだ。シュウの内面が出ている気がする。俺は多分、扉を静かに閉めはしない。布団の隙間から手を伸ばし、プルプルと震える腕でハニーミルクを取ろうとするも、ソファから転げ落ちる。
    「いって!」
    背中を強打し、思わず呻く。しばらく床と仲良しごっこをしていた。ひんやりとしたフローリングのタイルが気持ちい。この国では珍しく、この家は室内で靴を履くのが厳禁である。ジャパニーズスタイルとか言っていたか。最初は違和感しかなかったけど、慣れると楽である。埃一つない部屋を見て、自分の部屋がいかに汚かったかを理解した。

    むくりと起き上がり、シュウが作ってくれたハニーミルクに口つける。ほんのり蜂蜜の甘さが舌に染み渡った。冷たくなったそれを飲み干し、気怠さを振り払いシンクまで持っていく。ここにきた初日にシュウは洗わなくてもいいと言ってくれたけど、流石に申し訳ないと思いスポンジを左手に持ち洗剤を垂らす。マグカップ一個も洗えない人間だって思われたくない。ずっとおんぶに抱っこ状態だ。
    すぐに手の中のマグカップはツルツルになり、少し気分がいい。もしかしたら明日シュウが褒めてくれるかもしれない。
    濡れた手を拭くためのタオルが見当たらず、適当にパーカーで拭う。こんな姿をヴィックスが見たらきっと「悪い子だミスタ」なんて言うんだろう。
    そもそも恋人でもなんでもない男の言動を、いちいち気にして傷ついている俺は一体なんだ。これが恋人同士とかならわかるけど、ただの同僚だ。ただの遊びだ。そのちょっとした遊びを本気にしてる自分は、所詮痛いヤツなんじゃないだろうか。自分はヴォックスの恋人でもないし、ヴォックスは誰にでも愛を囁いていいし、アイクに言い寄るのだって問題ないはずだ。
    「きもちわるい」
    なんて気持ち悪い感情なんだろうか。心底自分を気持ち悪いと感じた。勝手にリスカ痕なんて作って、ヴォックスからしたらいい迷惑だ。

    異物が胃から迫り上がる。ぐっと喉が上下するのをなんとか押さえ込み、急いでトイレに駆け込んだ。便器の縁に両手をついて、勢いよく嘔吐した。出てくるものは液体ばかりだけれど、ツンと饐えた匂いが鼻を刺激する。あ、シュウが作ってくれたハニーミルクが。
    ぼたりと涙が頬をつたう。空っぽの胃を震わせ泣きながら吐いた。

    なんとか落ち着いた頃、少しだけ散ってしまった嘔吐物のついたマットを手に取る。こんなのシュウにやらせたくない。
    「洗わなきゃ」
    トイレットペーパーをぐるぐる巻き取り、入念に便器の周りを拭き水を流した。
    「洗剤どこ…石鹸でいいかな」
    洗面所に行き朦朧とする頭で洗剤を探すも、見つからない。そりゃそうだ。ここにきてから何もかもシュウに任せっきりだった。とりあえず洗面台で目についた石鹸で洗う。ゴシゴシと洗い何度も何度も繰り返した。
    ようやく綺麗になったマットを手に持ち、立ち尽くす。どこに干せばいいのだろう。ベランダは多分シュウの寝室だし、干す場所がない。
    「これどうしよう」
    地面に置くのも違う気がして、とりあえず洗濯機の上においておく。明日シュウに謝ろう。きっと分かってくれる。
    何度も洗ったせいで冷え切った手のひらを見る。なんとなく汚い気がして石鹸で擦った。何度擦っても汚れが取れた感覚がない。そしていつの間にかシュウが手当てしてくれた手首の包帯も解き、洗いすぎて血が出るのも厭わずに洗い続けた。どれくらいそうしていたのだろう。せっかく治りかけていた傷が開き、洗面台が水と血で混ざり合うくらいには洗っていた。
    刺すような痛みでようやく意識がはっきりとする。下ばかり向いていたせいで首の後ろも痛い。ゆるゆると首をもたげ鏡を見れば、隈の酷い男がぼんやりと立っていた。唇は荒れ数日前に見た自分と比べても一回り細くなった気がした。
    口元を見れば胃液がこびりついている。拭わなければと手の甲でふき、口の中も濯いだ。心なしかスッキリした気がする。そうしてまた汚れた手を洗った。






    いつの間にか眠っていたらしい。はっきりとしない視界でシュウを見る。シュウがなぜか体を揺さぶっている。なんでだろう。というか体の節々が痛い。なるほど、俺は昨日洗面所で力尽きたらしかった。布団も何も被っていなかったからか、何度かくしゃみが出た。
    「ミスタ、ミスタ!どうしたのその腕!」
    焦る様子のシュウが俺の手をとり腕を見せてくる。なんのことかピンと来ず、言われるがまま腕をみた。かさぶたが剥がれ落ち、血が乾いて変色していた。手のひらは真っ赤になり、ところどころ擦り切れている。
    「昨日まで塞がってたじゃない」
    そうなんだ、そうなんだけど汚い気がしてずっと洗ってたんだ。そしたらいつの間にかこうなってて。ごめんね、シュウ。そうだ、洗濯機の上にあるマットさ、俺洗ったんだ。もしかしたらまだ生乾きかもしれないけど。
    「どうしたの、何があったの。僕に教えて…ミスタ」
    ねえ、シュウ今日ちょっと喉の調子が悪いみたいだ。なんでか声が出ない。伝えたいことがいっぱいあるのに、昨日布団で寝なかったからかな。
    「ミスタ?」

    あの時のシュウの顔を、俺は一生忘れないだろう。
    顔がこわばり口元が戦慄いていた。目に涙を浮かべ体が軋むほどキツく抱きしめられる。彼は譫言のように「大丈夫」「大丈夫だよ」「僕がついてる」なんていうもんだから、笑ってしまった。首元で鼻を啜る音が聞こえる。
    「今日は一緒に病院に行こうか」
    震える声でそう告げられた時、ようやく自分の声が出ないことに気づいた。シュウのことを呼んでみても、音が声に乗らない。空気の漏れる音だけが響いた。

    黙々と身支度をして、シュウのあとをついていく。腕の包帯はシュウがもう一度巻き直してくれた。玄関先に座り俺がスニーカーの紐を結ぼうとすると、そっと紐を手に取り彼が跪いて結んでくれる。部屋から出るのはいつぶりだろうか。5日ぶりか。太陽が眩しい。
    「今日は眩しいね」
    シュウも同じことを考えていたことに、思わず笑みを浮かべる。彼の細くきめの細かい手をそっと握った。僅かに驚いた顔を浮かべたあと、手を握り返してくれたことに体がぽかぽかと暖かくなる。
    「ミスタ、そういえばトイレのマット洗ってくれたの?ありがとうね」
    本当にどうしてこの男を好きにならなかったのだろうか。俺の人生の間違いと言えるものはたくさんあるけども、きっとシュウを好きにならなかったことが一番の間違いだとぼんやりと思った。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭😭😭😭😭🙏🙏🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭💜😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works