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    もづみ

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    もづみ

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    段々距離を詰める二人と五人の旅路と四季を絡めて捏造をぎゅぎゅっと詰め込んだラウエドを かたちあるものにしたくて……がんばっています……

    淡雪の下に埋まるもの あたたかに地を照らす初春の陽光、微風に揺れる草木。アムル天将領、緑都イザミルの穏やかな朝。
     エドワールが支度を終えても、未だ隣の寝台はこんもりと膨らんだまま、動き出す気配もない。
     先日、突然ふらりと姿を消したかと思えば、立ちはだかる様にして再び目の前に現れ、そのまま殴り合いの大喧嘩に発展したものだから(実際のところそんな可愛いらしい形容で収まるものでも無かったのだが、五人の中ではそういうことで話がついた)、エドワールはまた何かあるのかと、にじり寄って来た負の感情を誤魔化すように、静かに布団の中を覗き込む。しかしそこには、見慣れた顔の、見慣れない寝顔があった。
     珍しい。
     変に強張った身体を脱力させたエドワールは、まぁその内起きてくるだろうと、特に何をするでもなく部屋を出た。
     ──のだが。
    「……遅いわね」
     ロビーの片隅を陣取り、集合までの暇を持て余す中。椅子に座り、宙に浮く足をぷらぷらと揺らしていたリディがぽつりと呟く。それは、この場にいる全員の総意だった。アナマリアがへにょりと柳眉を下げる。
    「……また、何処かへ行ってしまったのでしょうか?」
    「普通に寝てたぞ」
    「な、なら体調不良とか……!?」
    「それも多分ないと思うわ」
    「放っておけば良いじゃないですか」
     やいのやいのと推測を立てて話し出す三人に、シャルルが冷めた声音で割り入った。けれど、特徴的な瞳はちらちらと、昨日男二人が泊まっていた部屋を気にしている。
     なんだかんだ三人とも気が気でないようだし、まぁ自分も多少なり気になるところではあるので、これは一旦覗きに行くかと、エドワールは部屋まで戻った。一応、ノックをしてみるが、中から返事はない。またしても背筋ににじり寄って来る感情を振り払うように、緩く首を振った。
    「入るぞ」
     深呼吸の後、一声かけて扉を開ける。密かに決めた覚悟とは裏腹に、エドワールが目覚めた時、部屋から出た時と変わらず、大きな白い大福が寝台に鎮座していた。中身が空なんて事はないだろうなと、もう一度覗き込んでみるが、きっちり詰まっている。正直な話、拍子抜けだった。
     いつか、エドが最後なのは珍しい、なんて彼に言われたことがあったけれど。ラウルが本当に寝坊をしているところなんて、それ以上に珍しいことだ。というより、見たことがない。エドワールの方が起床が早いことは珍しくもないが、前日たらふく酒を飲んで二日酔いに片足を突っ込みかけていようが、エドワールが朝の支度を始めれば、その気配で重たい頭を抱えて起きるような男だった。眠りの浅い性質かと捉えていたが、姿を消したあの時を思えば、そもそも彼は宿で眠っていなかった可能性もある。
    「……おい、ラウル。起きろ」
     無慈悲に掛け布団を剥ぎ取り、軽く肩を揺すりながら声を掛ける。むずがるように枕へ顔を擦り付け、身体を丸める男の背中を、今度はそれなりの力で叩いてみる。
    「ラウル」
     先程よりも語尾を強めてすっかり馴染んだ名を呼べば、漸く夢の世界に縋り付くのを諦めたらしい。ラウルが、のろのろとエドワールの方へ顔を向けた。月色が丸く見開かれる。
    「……なに……」
     今までに見た事がないほど、人相の悪い顔を隠そうともしない男が、殆ど開いていない目で睨め付けるようにエドワールを見上げている。その顔の、なんともまぁ、無防備なこと!
    「……っふは、」
     こぼれ落ちた吐息を隠すように、口元に手を当て、くつくつと喉奥を鳴らして笑う。やわく、こころの奥底をくすぐられるような、今朝の陽射しのように、あたたかなものがじんわりと湧き上がってくるような。
    「あんたが最後だぞ」
     意味もなく笑いが次から次に溢れてしまって、なかなか止まらない。降って湧いた思い付きに背を押されるままベッドの端に腰掛け、まだ整髪料の付いていない、指通りの良い柔らかな茶髪を掻き乱す。次いでそっと手櫛を通せば、男の表情が心地良さそうに緩く溶けていく。エドワールの表情がくしゃりとくずれた。肩が小刻みに揺れ始める。なんというか、もう。お手上げだった。色々と。
     暫く手櫛を続けていれば、流石に頭が働いてきたらしい。徐々に焦点の定まりだした瞳と、常に近くなっていく表情。
     突如はっと目を見開いたラウルが勢いよく身を起こし、エドワールはとうとう声を上げて笑った。赤くなったり青くなったり忙しないラウルが言葉にならない叫びを上げるのを尻目に、エドワールは眦に滲んだものを拭う。
    「全員待ちくたびれてる」
     意地悪く月色を細めてみせる。その視線の温度が、やわくほどけた言葉尻が、どうしようもなくむず痒くて、あたたかくて。
     未だ笑いを引き摺りながら、ひらりと手を振ったエドワールが部屋から出て行く。のこされたラウルは、気の抜けた笑い声を洩らした。両手で顔を覆う。このまま大声で叫び出したい気分だった。代わりにぐしゃりと髪を掻き乱そうとした手が、夢見心地に味わったぬくもりを思い出して、ぴたりと止まる。
    「ッあ゙ー……!」
     堪えきれず、控えめに溢れた呻き声。勢いをつけて立ち上がったラウルは、閉じられたカーテンを開け、そのまま窓をも開け放つ。
     穏やかな初春の陽光、微風に揺れる草木。近付いてくる、春の香り。そろそろ見て見ぬ振りにも限界が近かった。認めてしまえと、笑っているのは果たして何方だろう。きっとお互い様だ。
     お小言も、戯れ付くような威力にまで落ち着いた暴力も、奥底にはやわらかな温度が見え隠れする冷たい目線も、全部甘んじて受け入れるから。
     それでも、当たり前のように、彼らは待っていてくれるから。
     だから、あとほんの少しだけ、と。
     誰に聞かせるでもない我儘を呟いて、ラウルは歪んだ顔を腕の中に隠した。
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