193話後くらい むくりと音もなく起き上がると、鯉登はかぶっていた上着を手に月島の枕元に立った。
寝台に手をつくと、聞こえるか聞こえないかといった程度に軋む音がして、耳聡く月島が薄く目を開けた。自分の顔を覗き込んでいる鯉登に気がついて、不審そうに眉をひそめる。
鯉登は真顔で見下ろしていた。
「寒くて眠れんだろう」
ぼそりと低い鯉登の呟きに、月島はしょぼ、と瞬くと億劫そうに答えた。
「……さっきまで寝てましたが……」
「一緒に寝てやる」
「いえ結構で」
「狭いな。少し詰めろ」
「話を聞かない……」
上着をばさりと月島がかぶっている毛皮の上にかけると、鯉登は寝台にあがった。鯉登に押しやられ、どう考えても定員を超えている寝台に月島は鯉登と並んで横になった。鯉登と壁に挟まれながら、月島はとにかく心を無にしてこの時間をやり過ごそうと決めた。決めた矢先に、鯉登が月島のほうに身体を向けてきた。吊ったままの腕を広げる。
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