質流れの男一.
入ろうか入るまいか。まるで色街の「行こか戻ろか思案橋」のように心の中で口ずさみ、硬い表情で入ってくる者もいれば、もはや貧乏が当然のように堂々と入ってくる者もいる。彼らをあしらう番頭が結界のように張り巡らされた帳場格子の上へにょっきり手を差し出して紙幣を渡し、客たちはそれを掴んで次々と出て行く。
「お次の方、どうぞ」
呼ばれるとすぐに、紫の半纏を着た男が風呂敷包みから着物を取り出し、番頭の前へ置いた。
「紬ですか」
受け取った中身を呟いてから着物を広げ、丹念に襟、裾、そして袖に視線を走らせる。モノは悪くない。だが…… 気になる箇所を見つけて視線を止め、番頭は査定結果を告げる。
「お袖に解れがありますので、このくらいのお値段になります」
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