【卯月】 磨き上げられた窓の外には、見頃を僅かに過ぎた桜が、はらはらと風もないのに舞い散っている。控えめに灯された照明の光りを受けて、白く浮かび上がっては闇にとけていく。値段も敷居も高いこの店で、指折り数えるぐらい花見をしている。五条の驕りで。でなけりゃ、暖簾をくぐりもしないけれど。
「任務が重ならなくてよかったよ」
陶器なんて知らないけれど、唇に当たる感触も、手に馴染む感覚も、いいものなんだろうと想像がつく。喉元をとろりと豊潤な味を醸した日本酒が、するりと通り過ぎていく。同じように日本酒を傾けている夏油は、さらりとした淡麗の銘柄だ。
「任務なんて入れさせないし」
「決定権は悟にないよ」
「元々休日なんだから、休みぐらいくれっつーのっ」
1920