俺のものじゃないアラームの音で眠りから覚めた。薄く目を開けて手を伸ばし枕元を探ったがそこにスマホは見つからない。
「んん……うき、うき……んっ、浮奇、おまえスマホどこだ?」
体を起こし顔にかかる髪を適当にかき上げた。俺の横で猫のように丸まって眠っている浮奇の肩をぐらぐらと揺らすとうざったそうに手を払われる。
朝の浮奇はたいてい不機嫌で、寝起きが悪い。分かっているけれどこのアラームを止めなければ結局彼の睡眠を妨げてしまう。
「浮奇、スマホ、アラーム鳴ってる。……ていうかおまえ今日三限からだろ? なんでアラーム鳴らしてんだ?」
「んぅ……すまほ……じゅうでんき……」
「充電器……あった」
ベッドの下、すぐそこのコンセントに充電器が刺さってそれがスマホに繋がっていた。浮奇に覆い被さるようにしてスマホを拾い上げ、アラームを止める。ようやく静かになった部屋の中に安心してふぅと息を吐いた。
「……ふーふー、ちゃん」
「ん? ……起きるのか? まだ寝とく?」
「おきる……ぎゅうして……?」
俺の腕の中に押し潰されているのに、まだ起きたばかりなのに、ふわりと笑って浮奇は身を捩った。逃げ出したいのではなく布団の中で動かすことのできない腕を出したいんだろうと察して、俺はそっと体を持ち上げた。思った通り布団から手を出した浮奇は俺の首に腕を回して引き寄せる。
「おはようのちゅー」
「ん、おはよう」
ちゅっと唇を触れさせ、眠たそうな浮奇の頬を撫でた。髪を梳いて生え際にもくちづける。小さく笑い声をこぼす浮奇は仕返しのように俺の耳元や首筋にキスをした。
「よし、そろそろ起きないと」
「もうちょっといちゃいちゃしようよ」
「俺は今日一限から」
「必修でもない授業を一限に入れるなんて意味わかんない」
「興味のある内容だったんだよ。実際、めちゃくちゃ面白い」
「ふーん……俺といちゃいちゃするより、おもしろいんだ?」
「……」
ベッドから抜け出て服を着替えていた俺は、浮奇にそう煽られて動きを止め、シャツのボタンを留め切っていないままでもう一度ベッドに近寄った。嬉しそうな顔をする浮奇の頬にキスをして、その手に捕まる前に一歩遠ざかる。むっとムクれる彼に笑顔を返した。
「浮奇といちゃいちゃするのは面白いんじゃなくて幸せなんだよ。授業なんかと比べられるか」
「……う〜……べいびぃ、起きるから、手貸して」
「もちろん」
抱き起こしてやろうと浮奇の体を抱き抱えた俺は、浮奇がふっと耳に息を吹きかけてきて力が抜けた隙にあっという間にベッドに転がされていた。俺の上に跨ってニヤリと笑う浮奇に顔を歪める。
「人の優しさを……」
「優しいキミが大好きだよ」
「ありがとう。浮奇もとっても優しいよな」
「えへへ」
「……浮奇、本当に時間がない」
「わかってる。あと一回だけちゅーさせて」
返事をする前に唇を塞がれ、朝から濃厚に舌が絡まる。面倒な課題を出す厄介な教授の顔を思い出してなんとか性欲を抑え、ちゅっと可愛らしい音を立てて離れた浮奇の笑みに思わず舌打ちをする。なんだって今日は朝からそんなに可愛いんだ。
「朝ごはん食べよ。俺も一緒に食べたくて早起きしたんだよ」
「……今日は俺も三限からだ」
「え?」
「まだ起きなくても間に合う」
ベッドから下りようとした浮奇の足を引っ掴んで上下逆さまにベッドに押し付ける。目をぱちぱちと瞬かせる浮奇に覆い被さった。
「朝ごはんは後でゆっくり一緒に食べよう」
頭の片隅で同じ授業を取っている友人に内容を教えてもらおうと考えながら、俺は数個しか留まっていなかったボタンを外して着たばかりのシャツを床に落とした。