これ見て、と声をかけられてスマホを渡される。何か面白い切り抜きでも見つけたのかと何も考えずにそれを受け取り画面を見て、俺は一瞬思考を停止させた。
動画の再生画面じゃない。表示されたホームページの一番上、目に飛び込んでくる『ポリネシアン・セックスとは』というピンク色の文字。浮奇の手が伸びてきて画面をスクロールし、『ポリネシアン・セックスのやり方』という項目を表示する。
「待て」
「読んで」
「浮奇、何を」
「読んで?」
「……」
有無を言わせぬ様子に仕方なく視線をスマホに戻す。やり方は、わざわざ読まなくても知っているけれど。
無言のまま画面を見つめしばらく経つと、俺が読み終わったと判断したのか浮奇が「どう?」と言った。どう、とは。
「……やりたいのか?」
「うん」
「……やったことは?」
「ないよ。あるの?」
首を振って、もう一度画面に目を落とす。浮奇は、確かにこういうのが好きかもしれないな。俺の性癖と浮奇の性格が合わないだろうということは出会った頃から気がついていた。気持ちいいことはもちろん好きだ、だけど、……俺は痛いくらいのほうが好きなんだけどな。
唇を舐めて無言を誤魔化し、スマホを浮奇に返す。俺のことを見つめる浮奇が不安そうな顔をしているのに気がついてすぐに頭を優しく撫でた。
「いいよ、いつからする?」
「……ふーふーちゃんがやりたくないなら」
「やりたくないなんて言ってないだろ?」
「だってあんまり乗り気じゃないでしょ? こういうの、好きじゃない?」
「……好きじゃないことはない。でも、……浮奇は耐えられるか?」
「うん……? 何に?」
「二人でベッドの上にいて、四日間は何もしちゃいけないんだ。キスで気持ち良くなっても、身体中に触り合っても、挿入はできない。……挿れてと浮奇に強請られたら、俺は耐える自信がない」
親指で浮奇の唇をなぞり、胸から腹へと指先を滑らせて臍の下をそっと押す。それだけで浮奇の瞳が熱に浮かされたようにとろけるのに、四日間、本番はナシだって?
「う……でも、…………おれ、我慢できるかな……?」
「今からそんな調子じゃ我慢できるとは思えない」
「うー、俺もそう思う……。……ふーふーちゃんは我慢できる?」
「できないだろうな」
「……でも我慢したらすごく気持ちいいんだって。もちろんふーふーちゃんとのセックスはどんなのでも大好きだけど、……気持ちいいこと、してみたくない?」
「……まあ、興味がないと言ったら嘘になるけど」
「でしょ?」
「……オーケー、とりあえず試してみるか。ただ、俺は浮奇に煽られたら耐えられる自信がない」
「わかった。じゃあ煽らないように……でも俺そんな何か言ってる?」
まさか今まで煽ってないつもりだったのか? 眉間に皺を寄せる俺を見て浮奇は可愛こぶって小首を傾げた。ペシっと額を叩くとクスクスと笑う。
「いい子にするよ、わざと煽ることはしません。無自覚なのは、ごめんね?」
「どれが計算でどれがそうじゃないのか分かるってことか」
「えへへ、全部本当の俺だから愛して?」
「もちろん。浮奇の言葉ならなんでも愛しているよ」
「言葉だけじゃなくて俺も愛してよ」
「それは言う必要もないんじゃないか?」
「ちゃんと言葉にして」
「……愛してるに決まってる」
「うあ……俺も愛してる」
「言わせたくせに照れるなよ」