その日は親愛なる者に口付けを柔らかくほのかに甘い香水の匂い。ふとそれを感じて顔を向けようとした書文をするりと白い手が捕まえ、流れるように頬に口付けをされた。体温が低いのかどこかヒヤリとしているが鋭い冷たさではない、不思議な感触。
「どうした、藪から棒に。」
改めて顔を横に向けると、以前なら自然と距離を取るような近さにスカディの顔があったが、今ではもう慣れた。近いままの距離で事情を聞く。
「今日はキスの日だと聞いた。朝から皆に散々口付けをされたのだ。書文、お前にもしてやろうと思ってな。」
「…」
だからわざわざ自分の部屋まで遊びに来たらしい。スカディは山の女神と聞く。先日打ち合ったときから感じていたことだが彼女の在り方は自然そのものにも近く、気配が無いというより気配が周囲に溶け込みすぎる。
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