「何の用だ、人間」
赤と黒の硬い鱗に覆われた金色の眼が問う。
「特に用はないが、ここに神様がいるらしいと聞いたから顔を拝みにきたんだ。…ドラゴンよ」
不思議な鉱石で出来たドラゴンの巣は青や紫、緑、黄色など色々な輝きかたをしていて幻想的だ。その中に鎮座するドラゴンは確かに神に見えるかもしれない。人間なんてこのドラゴンの爪先に触れただけで死ぬだろうし人間の命を弄ぶことが出来るという点でも神に似ているかもしれない。
所々赤く光る鉱石があるのは人の血を吸ったのだろうか。この鉱石を採る為にどれだけの人が死んだのだろう…文献によると何百年も前からここの希少な鉱石を採るために国家プロジェクトとしてドラゴン討伐が行われているみたいだ。
少しでも成果を上げられた試しがないのだが100年…いや、半世紀も経てば人は忘れてしまうらしくまた繰り返している。それも…この鉱石の一欠片でもあれば一回で戦争を終わらせるくらいの力が手に入るからだ。
「…ああ。奴らは私を神と言ったり厄災だと言ったりしていたな。人間は言うことがコロコロと変わる。それで…変に付け足した、ドラゴンはなんだ?」
ドラゴンの声は深く身体の芯にまで響き人を魅了するようだ。
「ああ、お前が人間というから同じようにしただけだ。」
「ははは!」
ブワッと強い風が吹くので舞った砂埃で目をやらないように腕で覆い保護する。
多分ドラゴンが笑っただけだがそれだけでドラゴンの爪ほどの俺は多大な影響を受ける。
腕を解くと金色の眼がすぐ近くにあった。
「なんだお前は……初めて会う種類の人間だ。面白い。……まあ、私と話をする人間に会ったことがまず無いがな。それでお前の名前は何と言う?」
「ファルガー・オーヴィド」
「ふむ…ファルガーか。私は………………ヴォックス・アクマだ。」
「随分間があったな。しかも、アクマは悪に誘い込む悪霊って意味じゃなかったか?」
「さぁ?知らないが覚えているのはこの名だけだ。自己紹介する機会がないものだから忘れかけていただけだ。お前のお陰で記憶から救い出せた。」
「ふぅん…。良かったな。」
「提案なんだが、少しの間私の話相手になってくれないか?……対価は…そうだな…ここの鉱石は人間には珍しいらしいからこれなんかどうだ?」
「っ⁉︎……いや、要らない。」
「…そうか。じゃあ私の鱗とかどうだろうか?」
「いい。お前に会えた経験だけで報酬は十分だ。」
「おお!なんていい奴なんだお前は!」
「う゛っ、音量落としてくれ頭が割れる」
「あぁっ、すまん…。これからよろしく頼む。」
「ああ。よろしく」
こうして人間とドラゴンの奇妙な生活が始まった。