検索:手加減「ファルガー」
「……」
「ファンガス」
「……」
「……ふーふーちゃん。」
「その呼び方はやめろ。」
麗らかな朝、
着古したスウェットと寝起きの髪の毛のまま、自分の背中に纏わりついているのが最強の鬼なんて誰が思うだろうか。
自分専用のコップと歯ブラシを取りながら、正面にある洗面台の鏡を見れば、生肌に見慣れた赤いシャツを羽織っただけの自分がいて思わず舌を鳴らす。
全く人のことが言えなかった。
「……なぁ、本当に行かないのか。」
「行かないって言ってるだろ。そもそも誰のせいだと思ってるんだ。あ?」
そう、本来は今日は外出する予定だったのだ。久しぶりの何も無い2人揃っての休み。
しかしそれが仇になった。
『おい、明日出かけるんだろ。』
『別に午後からでもいいだろう。久しぶりに夜更かし出来るんだ。』
安心しろ、手加減はしてやる。
その言葉を真に受けたのが悪かった。
さっきから腰がガンガンと痛い上に、夜遅くまで喘がされたせいで声もガラガラだ。
このまま出かければ風邪でも貰いかねない。
「最後はお前もノリノリだったじゃないか。」
「そういう問題じゃない!昨日は手加減するって言ったくせに!」
「久しぶりで、歯止めが効かなかったんだ。」
「……別にもういい、ただ」
俺も、出かけるの、まぁまぁ楽しみにしてたんだぞ。
そう素直に言ってやるのは憚られて、ぐ、と押し黙る。
「なぁ、本当にすまなかった。」
鏡越しに見るその顔とあまりにも悲しそうな声が、なんだかかわいく感じてきてしまって、つい顔が綻んでしまう。
「今日は何でも言うことを聞こう。」
「本当か?」
「お望みとあらばいっその事、」
もうベッドから出れないくらい、
めちゃくちゃにしてやるとか。
前言撤回。
かわいいと思った俺が馬鹿だった、本当に何も反省してないこいつ!!
しかも何よりムカつくのが、耳元で囁かれたその言葉に一瞬でも腰が疼いてしまったという事実だった。
「っ!……」
そのまま肘鉄を後ろの性欲悪魔に食らわせてさっさと歯を磨き始める。
「ファルガー、冗談だ。」
「うるはい」
「せめてベッドで一緒にゆっくり、」
「ひない!」
ファル〜、とまた子供のように駄々を捏ね始める。
でもまあ、こいつのこんなところが見られるのも自分だけだと思うと少し溜飲が下がってしまうから、惚れた弱みということだ。