忘羨ワンドロワンライ【隠し味】 魏無羨は赤い飯が好きだ。何をどう間違ったのか、考えられない唐辛子の量を最適だと思い込んでおり、大抵の鍋を真っ赤にする。しかし、けして味音痴というわけではない。むしろ酒の肴の味にはうるさい方だ。絶品と言われた江厭離の汁物は、魏無羨の口に合うように配合を変えていった結果であるし、細やかな隠し味までピタリと当てて見せる。だがなぜか自ら杓子を握ると、鍋が真っ赤になるのである。
ゆえに、藍家の弟子たちは魏無羨が杓子を握ろうものなら、それを急いで取り上げ、何か手伝うことはないかと釜戸のそばをウロウロするのを慇懃に断る。夜狩で野宿ともなれば、なんとか周辺の地酒を見繕ってきて手渡し、『あちらに綺麗な花が咲いていましたよ』とか『あの木は枝振りが良いので、座ると月が見えるんじゃないですか』とか、極め付けは『含光君とお二人で少し広いところで食事の準備が整うまでゆったりとお休みください』とか、とにかくなんとか理由をつけて追い払い、その隙に薪に鍋を掛け、真っ当な色の粥を炊くのだ。
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