嘘つき「あー…まじかぁ…」
ぼんやりと曇る視界の中、足の下に感じるざらざらと破片がぶつかるのを感じながら肩を落とした。
しゃがみ込んでピントが合う距離まで来ると、そこにはやはり無惨にもガラクタと化した眼鏡の姿。
はぁ、とため息を一つ吐いて、机の引き出しを漁る。
予備の眼鏡を探すつもりだったが、すぐに不穏な音が聞こえて、その必要がなくなったことを悟った。
「う、うそでしょ…」
2つ目の眼鏡の犠牲に流石にショックを受けて椅子に座って天を仰ぐ。
うーん、と唸りながらなおざりに引き出しの中を弄ると、あ、と覚えのある感触に当たった。
目のぎりぎりまで持ち上げると、いつからあるのか遠い昔に買った使い捨てのコンタクトレンズが映る。
あまり気乗りはしないが、変身して出歩くわけにもいかないし、とりあえずはこれで今日をしのごう、とその青い蓋を剥がした。
目の中をごろごろと泳ぐガラスがゆっくり収まって、世界がクリアになっていく。
ふぅ、と息をついて、散らかった眼鏡の残骸を箒でかき集めた。
ちりとりですくった瞬間、ぎぃ、と窓が音を立てる。
びくっ、と肩を上げて振り返ると、ピッコロさんが腕を組んでいた。
「ピッコロさん!どうしたんですか?」
「あぁ。ヘドから、頼まれた2号からこの資料の添削をお前に…お前、眼鏡は…」
割ったのか。
ピッコロさんは僕の手元のちりとりの中を覗くと、呆れたように肩をすくめる。
はは、と笑って誤魔化した僕をスルーして、部屋まで入ったピッコロさんは、慣れた様子でソファに座ると手招きして横に座るように指示した。
「来い。読んでやる」
「え、あ、はい」
ピッコロさんが難しい単語の入り混じる資料を読み上げていく。
別に見えるけど、それを言うのも今更で、静かに耳を傾けた。
時折、2号から聞いたという補足を足すのを聞きながら、最近あまり近くで見ることのなくなった横顔をじっと見つめる。
反応のない僕に、不服そうにピッコロさんの口元が歪み、ちっと舌打ちを放った。
「……聞いてるのか」
「へ??!あ、はい!」
「…見えてないんじゃないのか」
ぐっと訝しむように眉を寄せて、ぐっと覗き込むように顔も寄る。
いつもより解像度が高くて、思わずぐっとのけぞった。
「あ、は、はい」
「………」
目の前で訝しんでいたピッコロさんは、不意に、に、っと笑って顔を離すと、指を立ててぴっと眼鏡を生成する。
急にぐらっと揺れた視界にぐっと眉を寄せると、不意打ちのように唇が触れた。
「ん!?」
「はは。嘘つきめ」
生成した眼鏡をとりあげられて、顔を上げると、満足そうに笑うピッコロさんが映る。
胸に資料を押し付けられた僕は、じゃあな、と窓に手をかけるピッコロさんを見ながら、熱くなっていく頬に手を当てることしかできなかった。