これは夢ではないようにとバシャバシャと不快な音を立てて降り注ぐ粘液のような水の塊は、固の形を保てなくなり、どろりと地面に溶け込んだ。
ひゅうっと鳴り響いた甲高い口笛に振り返れば、そこにいた室戸さんが雫の乗った刀を振るって清め、カチンと鞘に納めるところだった。
にやりと口の端を上げて茶化す準備をする彼に先手を打って、ふざけている場合ではありませんよ、と声をかける。私の言葉に一瞬だけ面食らい、困ったように頭をかいた彼は、それでもまた陽気に私の肩を抱いた。
『何でもお見通しってか?』
『…何年一緒に居るとお思いですか?』
呆れたように返したつもりだが、余計に彼を喜ばせただけらしい。だらしない笑みを浮かべて、そうかいそうかいと笑う。緊張感の無いそんなやりとりも、適度に肩の力を抜くのにはちょうど良いが、いつまでもそうはしていられない。沖に目をやるとまだ高い波がざばざばと岩をかき分けるようにこちらに向かっている。
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