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    アズ監♀ずっと書いてたけどイマイチになったやつの供養。捏造だらけなので注意してください。

    花は別に好きではなかった。特に生花は値段の割には長持ちさせるのが難しく、その上美しさを保つ為になにかと世話を焼かねばならない。一方的に鑑賞するだけなら悪くはないが……
    第一、どこぞの美意識の高い寮の様に花を愛でるような趣味をもつ輩はこの寮にはあまり居ないし、僕もその例外では無かったはずなのにどうしたものだろう。あれだけの賛辞と良い商談を送られたあとだと無下にするのは珍しく気が引けてしまったのだ。

    「支配人、今よろしいでしょうか確認して頂きたい所が……って、わぁ立派な花束ですね」

    監督生の声に振り向いたアズールの両手には、その腕に辛うじて収まるほど大きな花束が抱かれていた。顔を見上げれば頬を上気させて嬉しそうにも見えるが、困った様に顰められた眉によって悩ましげにも映る。若干の照れという年相応の初な反応に、ミスマッチな色気が相まって妖艶にも映るこの光景。色とりどりの美しい花。絵画のような一瞬に思わず息を止めて見入ってしまった。

    「……どうかなさいましたか」

    「い、いえ支配人はお花が良くお似合いだなって思って。綺麗で思わず見とれてしまいました」

    「……ッあなた本当に恥ずかしげもなくよくそんなことが言えますね。ま、まぁ悪い気はしませんけれど。花は先程懇意にして頂いているお客様から頂いてしまいまして……そうだ、花瓶を持ってきて頂けますか場所はジェイドが知っている筈なので案内をさせましょう。いや、これだけの量だとあの花瓶には入り切らないな。購買にもっと大きな花瓶は置いてあったか」

    直す必要性のない眼鏡を頻りに直しながら矢継ぎ早に喋りだしたかと思えば、あっという間に飛行術の授業前の如く、困惑を全面に押し出した表情に変わる。アズールという男は凡そ冷静に見えるが情緒が非常に豊かであった。心情の変化に合わせてくるくると変わっていく表情を隠しもしていないのは本人が気がついていないせいなのか、単に気にしていないだけなのか。要するに目で語るどころか顔から思っていることが筒抜けなのだ。彼の商談時以外での忙しい表情筋を意中の監督生が"かわいらしい"と好ましく思っていることは少なくとも気がついていない様子であるのは確かである。

    「そういう事ならお任せ下さいフラワーアレンジメントは私の数少ない特技の一つなんです。取り敢えずその花瓶に生けて、余った分は何とかしますんで」

    「ほう、何とかするとは……無計画でも上手くいく自信があるようですねぇ。いつもぴったりと閉じた二枚貝の如く何事にも消極的なあなたがそこまで意欲的なのも珍しい……いいですよ、お手並み拝見と行きましょうか」

    続けて期待していると念を押すと、余程嬉しかったのか得意げだった顔にさっと朱が差し込む。少々煽ったつもりだったが、そんな顔をされるとアズールはまた調子が狂ってしまいそうだった。

    誤魔化すように咳払いをして、彼女から目を背けるように顔を下げて少し屈み、こちらへと差し出された細腕の上に潰さないようにゆっくりと花束を下ろしていく。

    「おっと、支配人ちょっと待って下さいね」

    急に慌てた声でさほど遠くなかった距離がガサガサとラッピングの擦れ合う音に合わせて更にぐっと詰められる。いつの間にか花束と彼女の髪の香りが混ざり合う、僅かな隙間の馥郁の中に顔が意図せず浸ってしまい、ふわりと香りと共に意識が飛んでいきそうになった。突然のことに頭が追いつかないアズールの事なんてお構い無しに、首に細い指先を添えてもう片方の手で器用に襟元の百合を掴んで引き離し、いつの間にか下に回された手でするりと花束と共に彼女も遠ざかる。

    「はい、これで大丈夫です。襟に百合の花粉が付いちゃう所でした。服に付いてしまうと中々取れなくて苦労するんです、お気を付けて下さいね」

    「え、あ、ぁありがとうございます」

    やっとの思いで声を搾り出す。

    「いいえ、支配人には常に格好よくあって欲しいですから」

    かっこよくあって欲しい、か。そう思うということは彼女には少なくとも僕の事を普段から……アズールの頬が更に熱を帯びる。立て続けに心を揺さぶられて茹で蛸状態であろう顔を隠すべく、眼鏡のブリッジを持ち上げ、自身を落ち着けてもう一度彼女に目を向ける。大きな花束は彼女の顔の半分以上を覆うほどで、さながら花の海に溺れているようだった。

    良かった、この様子ならほとんど顔は見えていないはずだ。僕を溺れさせる当の本人は花の波の隙間から満面の笑みで''花束ですが、大船に乗ったつもりで任されて下さい''と言うので引き締めたつもりの表情筋がどんどん緩んでゆく。

    「あなたの大船に対して花束が大きすぎて今にもに沈みそうなのですが本当に大丈夫なんでしょうね」

    「もう、ほんっと意地が悪いんですから。まぁそんなこと言ってられるのも今のうちです。見てて下さいよ、すごいのを作ってギャフンと言わせますからね」

    「ふふ、分かりましたからそう怒らないでください。楽しみにしていますよ」



    --ー彼女がバタバタと急いで立ち去って行ってしまってから、しばらく経った頃だろうか。VIPルームの扉が控えめにノックされる。

    「どうぞ、入って下さい」

    「失礼します。早速ですがちょっとラウンジの入口まで来て頂けますか花瓶をこちらまで持ってくるのは大変そうだったので先に置いて来てしまいました」

    「分かりました、ではそちらまで伺います」

    開店前の静かなラウンジ内を、彼女の跳ねるような軽い足音にやや早足でついて行く。相変わらずたった二本の足でそんなに器用に早く歩けるものだ。

    「花瓶が思ったよりも小さくて驚きました。また花を頂くかもしれませんしもう少し大きいサイズのものを買った方が良いと思いますよ」

    「ラウンジには基本的に花を置かない様にしていますから、買い足すつもりはありません。ですがまぁ、あなたのアレンジメントの出来次第で考えてみてもいいかもしれませんね」

    「うわぁ、そう言われると急に緊張してきちゃった…」

    久々に見たシンプルなガラスの花瓶には元の花束の雰囲気を残しつつ寮のイメージに合わせシックに花が活けられていた。テーブルにも細身のグラスに花が上品に飾られており、控えめながらも目を惹かれてしまう。ラウンジと花がお互いを引き立て合うように計算され尽くした空間作りは文句のつけようが無かった。

    「あなたが本当にこれを…」

    「信じられませんか」

    照れているのか彼女はアズールの目を見ずに説明を続ける。

    「上手いこと収まっているでしょポイントはオンボロ寮から取ってきたグリーンと、オクタヴィネルの紫イメージの花を少し足してみた所ですかね。お気付きの通り余った花はグラスを拝借して各テーブルに置いています。一応ジェイド先輩には許可を頂きましたが支配人が気に入らなければ下げます。……いかがでしょうか」

    「期待していると言いましたが、これほどまでとは…素晴らしいです。あぁ今どれだけ考えてもあなたの技量に月並みな感想しか伝えられないことがもどかしく感じてしまいます。あなたさえ宜しければ是非とも定期的にフラワーアレンジメントをして頂きたいほどには気に入りましたよ」

    仰々しく広げられた腕と次々飛び出してくるおべっかは、ペラペラと叩き売りの如くぎゅうぎゅうに耳に詰め込まれていく。月並みで思いつかないと言ったのは幻聴だったのだろうか。褒められるのは嬉しいけれども……いつかの幽霊の姫様もきっと同じ気持ちだったに違いない。

    「大袈裟ですよ。はぁ…うちの支配人は本当に褒め上手で困ってしまいますね。私も厨房で料理をしたりオーダーを取るよりもこの方がお役に立てる気がするので、喜んで引き受けますよ。いつでもお申し付け下さいね」

    余談だが、支配人、もといアズール先輩は商談で取引が成功すると相手と必ず握手をする。パフォーマンスとも取れる行為を遠目で見ることしか無かったが。しかし今、手袋が外された白百合のような手がこちらへと伸ばされている。

    「そんな、とんでもない口約束というかちょっとしたサービスですからそこまでしなくても」

    「僕はあなたの腕を見込んでいるんです。それにサービスで行って頂くよりもきちんと対価が発生した方が経験上、質の向上にも繋がりましたからねぇ。あなたの給料も腕も上がりますし、どうでしょう悪くないお話だと思いますが」

    ダメ押しの口説き文句には''ここまで言わせたのだ。さあはやく、逃れることはできないぞ"という本音が明け透けに見て取れた。差し出された手が誘い、商売熱を帯びた青い瞳にせっつかれている。こんな事でそんなに求められるとは思いもしなかったが、稀代の努力家に自分の才を認められるのは嬉しくないと言えば嘘になってしまう。

    「分かりました、引き受けます」

    「ええ、そう仰って頂けると思いました。よろしくお願いします」

    了承と共に右手を差し出すと思ったよりも強い力で握られた。長い指は私の掌では有り余ってしまうらしい。カサつきのない滑らかでひんやりとした肌に、ややごつごつと骨ばった感触。不思議な感覚だ。

    「そんなに僕の手が珍しいですか」

    「はっ、すいません。……そうだ、支配人…いえアズール先輩。もしよろしければこれを貰って頂けませんか」

    ラベンダー色の小さな紙袋を、小さな両手でぎゅっと持たされる。覗くとドーム型のガラスケースに包まれた花が見えた。

    「こちらも今作られたんですか…」

    「いっいや、これはっその、趣味というか、なんというか……えっとその……要らなかったらごめんなさいそれでは、明日」

    お礼を告げる前にまた彼女の背中を見送った。

    自室に戻り、袋から取り出して眺めてみる。使われている花は、恐らくだがラナンキュラス、リナリア…花に詳しい彼女のことだ。何か意味があるのかもしれない。真っ赤に頬を染めて僕の手にこれを持たせてきた彼女。もしかしたら僕と同じ気持ちを持ってくれているのかもしれない……あついものが胸に込み上げて堪らなくなって、服にシワが寄るのも気にせずベットに飛び込んだ。しばらく枕に顔を埋めたり、めいいっぱい抱きしめたりしてじたばたと悶える。

    いや喜ぶのはまだ早い、僕の早とちりかもしれない。でも、彼女は……あぁ思い出したらまた昂ってきそうだ。落ち着いて、抱きしめた枕に埋めていた顔をあげて、淡い期待を抱きながら、震える手でスマホを持ち、検索をかける。

    『あなたは魅力に満ちている』
    『この恋に気付いて』

    「ふふ、ははは…やった…」

    顔がにやけるのが止められない。勢いのままにベットの上に立ち上がってガッツポーズをしてしまった。流石に行儀が悪いので直ぐに降りる。頭の中が花畑というのは、まさにこのこと。今ならどんな願いを言われても無償で叶えてしまいそうだ。

    「にしても、先に伝えられてしまいましたね。僕もあなたのことが……好き……です。付き合っていただけますか」

    本人が居る訳じゃないのに口にした瞬間ドクドクと心臓が暴れて五月蝿い。告白の言葉は何度も考えた。最初は契約やら彼女に都合のいい条件を出したりして付き合おうと思った。だが、もう彼女の気持ちを知ってしまった以上余計なことは言わなくてもいいだろう。きっと、多分。今、花に告げたそれを、明日寮まで迎えに行ってまっさきに告げよう。
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