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    新茶ホム♀が食道楽しながらセッセセもします。

    週末食道楽倶楽部「ネェ、帰り道スーパー寄っていい?」 ジェームズはエコバックを取り出しながら、シャーロックにそう言った。

    寄っていいか、と聞いているが、実際これは寄ると宣言しているようなものだった。
    こういうときジェームズはずるくて、疑問形で聞いてくるけれど実際はもうそうすると決めている。

    「肉の特売日なんだよネ」
    ダメ押しでそう言われると、疲れて早く帰りたいと思っているシャーロックの足もちょっとだけ軽くなる。週末。不定期な仕事がある場合もあるが、余程のイレギュラーでなければ今週末はゆっくり休める。


    今週の疲れは今週のうちに、たっぷり栄養をとって英気を養いたい。そう、お肉。お肉が食べたい気分だった。

    「いいけど…どこのスーパーだ?」
    「この先の。ヘアサロンの横にあるスーパー」
    「ああ…」

    モリアーティがいつも行くスーパーは駅前の、ちょっと良いものが揃っているスーパーだ。でもヘアサロンの隣のスーパーもなかなかいい。
    併設されたベーカリーのクロワッサンはなかなか美味しいし、水曜日に買い物すると土日に使える5%オフのクーポンも出る。



    「なるほど、この間もらったクーポンも使って特売の肉をもっと安く買うつもりなのか?」
    「いや特売品には使えなくて…でも牛乳とかパンとかもうなかっただろ?そういうのに使う」


    歩きながらそういう話をして、商店街の花屋には並ぶ花が季節を感じる花が並んでいるなとか、あの野良猫前も見たなとか、そういうことを考えていたら、目的のスーパーについた。



    入口側に一番近いのは野菜や果物。時期だから、と苺を1パック買う。
    野菜はモリアーティが冷蔵庫にお招きしたいものをいくつかチョイスしてカゴに入れる。
    じゃがいも。きゅうり。にんじん。
    いつもの顔ぶれだ。


    魚のコーナーは今回は通り過ぎる。
    鰆の麹漬け、なんておいしそうだったけれど
    モリアーティは麹漬けとか西京焼きみたいなものは自分で味付けしたがるから今日は買わない。

    そして肉のコーナー。
    ここだけ人口密度が高い。特に牛肉のコーナー。
    本日の特売品!の文字がいくつも踊っている。

    「あ、粗挽き牛100%だって」
    ジェームズは挽肉の並びからやや小さめのパックを手に取った。
    「粗挽き?」
    「いつもの挽肉より粗いヤツ。硬めだけど牛肉感強い。」


    ふうん、何に使うんだろう。
    シャーロックがそう思いながらパックを見つめていると、ジェームズが「ボロネーゼにしてもいいし…ああ、明日の昼ハンバーガーにしてもいいな…」と言うので、すぐに頭の中でまろやかなトマトソースのボロネーゼと、肉汁たっぷりのパティとバターをつけて焼いたバンズのハンバーガーが想像できた。


    想像できてしまった…


    「買っていいよナ?」
    「聞くまでもない」
    シャーロックが頷くと同時にジェームズは挽肉をカゴに入れていた。これは特売品ではなかったので割高だったが、それはそれ。


    「ていうか本丸の攻略がまだだった」
    「本丸…?」
    「ほらあれ。」
    ジェームズが指差した先。

    数が少なくなった特売品を、ショーケースに補充する店員。それを品定めしながら見守る、客、客、客。

    本日の特売品。

    国産鶏肉。もも、むね。


    「3パック買ったらなおさらお得」
    「3パックも…?」
    「3パックなんてすぐなくなるヨ?!冷凍するし」



    1パックに2枚、つやつやの鶏肉がミチミチに詰められている。それを3パック。もしくは倍数で6パック。

    「おひとりさま3パックまでだから6パック買う」
    「そんなに?」
    「よく見たらほら、ももとむね以外の部位もまとめ買い対象内なんだヨ」

    手羽先や手羽元も、ささみも。あまり食べないが内蔵系もまとめ買いに入るらしい。

    「うーん、手羽元買ってスープに使いたい」
    「なんでもいいが」
    「何でもってお前ェ」
    「だって、ジェームズが作るものは何でも美味しいし」


    のろけたつもりはなかったけど、ジェームズはのろけられた、と捉えたらしく目をちょっと伏せてゴニョゴニョと何かを言っていた。

    「…ま、いいや。鶏肉料理、何食べたい?棒々鶏とかどう?今日暑いしあっさりしたものとか。もしくはスパイシーにタンドリーチキンとか」
    「からあげ」
    「ん?」
    「ジェームズの唐揚げが食べたい」
    「からあげ…」

    ジェームズはあっさりしたものを、と言っていたが鶏肉をみていたら無性に食べたくなった。

    「ジェームズの唐揚げが一番好き」
    「よし今日は唐揚げだ」
    ダメ押しにそう言うと、ジェームズは食い気味にそう答えた。余程褒められたのが嬉しかったようだ。


    「唐揚げ、もも肉かむね肉かどっちでやる?」
    「うーん…どっちも」
    「困ったらどっちもって言うよなお前」
    ジェームズはそう言って笑った。

    「じゃあ味付けも2種類にして4種の唐揚げ盛り合わせにしよう。余ったら冷凍したらいい」

    この間やったカレー風味もおいしかったけど、テレビでやっていたウスターソースで味付けする唐揚げも美味しかった。思い切って唐揚げにタルタルソースをかけたりチリソースで和えたりしてもきっと美味しい

    でもどんな味付けにするかはジェームズに任せることにする。リクエストばっかりするのも悪いな、と、たまにはそう思う。



    豚のバラ肉もブロックで安かったし、スペアリブは骨にたくさん肉がついている質の良いものが売っていたのでそれも買う。
    かごの中は肉だらけになった。

    「エコバックに入るか?」
    「エコバックに入る分しか買わないヨ。あとは牛肉とパンだけ買う」




    しかし果たして、そうはならなかったのだ。

    特売の牛乳を1本カゴにいれたところで向かい側のグローサリーには美味しそうな焼きたてのチョコクロワッサンが並び始めたのだ。

    その甘く香ばしい香りの誘惑に勝てるものなどいない。

    「パン・オ・ショコラ」
    「…クロワッサン買うんだろ?クロワッサンサンド食べたいんだろ?」
    「パン・オ・ショコラとエスプレッソで朝を迎えたい」
    「甘いものだけで朝終わらせたくない…」
    「じゃあジェームズはクロワッサンサンドを作ればいい」
    「二人で同じものたべたいヨ…」


    ウジウジウダウダとパンの前で話し合っている間に次々とパンが売れていく。
    痺れを切らしてパンを二つ、パン専用の紙袋に入れた。もう、なるようになれだ。




    「あー…結局エコバックからちょっとはみ出たナ」
    「紙袋は私が大切に運ぶから心配するな」
    「心配…」
    「おい」


    結局クロワッサンを1つ、パン・オ・ショコラを1つ買った。朝ごはんには二人でそれぞれをはんぶんこしたらいい。


    夕暮れの街を歩く。

    パンの紙袋を持ったシャーロックの影と、重たいエコバックを持ったジェームズの影が、長く細く伸びているのが見えた。


    もうすぐ家につく。家についたらすぐ夕ごはんの支度をしよう。






    「ポテトサラダは私が作りたい」

    シャーロックはエプロンをつけながらジェームズにそう言った。

    「作り方わかる?」
    ジェームズは鶏肉を一口大に切りながらシャーロックにそう尋ねた。

    「馬鹿にするなよ。この間一緒に作った」
    「ウン…半分私が作ってたようなもんだケド。分かんないことあったら聞いて?」


    ふん、なにを聞くことがあるものか。
    きゅうりを塩もみし、人参とじゃがいもは柔らかくなるまで塩茹で。そのあと水分を軽く飛ばして粉吹き芋状にしてからマヨネーズと酢で味付けするんだ。わかっているとも。



    「あっ…キュウリ厚すぎない?もっと塩多く入れたほうがいいヨ?ち、ちが、入れすぎ入れすぎ!」
    「じ、じゃがいも、剥くの無理すんなヨ?!指、指危な…アーッ!」
    「…芋固くない?爪楊枝で指して…うん、固いネ?レンチン追加しよ?」
    「ところでハム入れる?え?入れようと思ってた?あ、そう…ゴメンゴメン」
    「あ、あのさ…熱いうちに酢とか調味料入れたほうがいい、ヨ?マッシャー?あ、ここにあるヨ。ウワー!!人参もいっしょにマッシュすんの?!」


    煩い。横で色々言わないでほしい。食べられればそれでいいじゃないか。



    具材と調味料を混ぜ合わせた。粗熱がとれてきたところで、スプーンで一掬いポテトサラダを取る。
    「はい」
    「エ?」
    鶏肉に調味料を入れて揉み合わせているジェームズが鳩に豆鉄砲食らったような顔をしている。

    「味見」
    シャーロックがそう言うと、ジェームズがようやく、ああ…と言って、躊躇しながらシャーロックが持ったままのスプーンに噛み付くようにしてポテトサラダを口に入れた。


    ちょっと咀嚼して
    「うん、美味しい」
    と、笑顔を作ったので、シャーロックもはにかむように笑った。




    夏なら作ったポテトサラダは粗熱がとれたら冷蔵庫に入れる。今の季節なら放っておいても大丈夫。むしろ冷たすぎるポテトサラダより、自然に冷えたポテトサラダのほうが美味しい。冷蔵庫にいれるとでんぷん質が変質してしまう。

    ラップをつけたポテトサラダはリビングの机の上においておく。

    キッチンから軽快な音がしたので、エプロンをつけたままジェームズのところに駆け寄る。




    「ン…危ないヨ」
    油の入った鍋の前に立つジェームズの隣にくっつくように立つシャーロックに、ジェームズは視線だけ寄越してそう言った。

    「…今揚げてるのは?もも肉?」
    「そう。」
    「…何味にした?」
    「生姜効かせたオーソドックスなヤツ」
    「ふうん…」
    「…ほら、油跳ねるから。もう少し後ろ下がって。」

    シャーロックを半歩下がらたのを確認せてから、ジェームズは独り言のように話しだした。

    「…唐揚げにつける粉はさ、小麦粉と片栗粉。2種類使うときもあるケド今回は片栗粉使った。…でも本当は片栗粉使ったら竜田揚げ、になるんだ」
    「小麦粉は揚げたてサクサクだけど時間が経つとしんなりしちゃう…その代わり旨味を閉じ込めやすい。片栗粉は冷めてもサクサクだケド…冷めたとき脂っこく感じがちだ。衣が油を吸いやすいからネ。」
    「唐揚げをあげるときは180℃が基本。揚げ物機能で180度に保てるから。180度になる前から油に肉をいれるなヨ。…ホントは2度揚げって方法もあるんだけど」


    唐揚げの揚げ方、作り方をそれとなく教えながら、ジェームズは唐揚げの肉を油に入れたり、肉を取り出してキッチンペーパーの上に載せたりを繰り返す。
    そうやって唐揚げが山になっていくのをシャーロックはじっと見ていた。

    ひとつだけ指で摘む。

    「おいしい」
    「あ、コラ。つまみ食いすんナ!」

    指に残った脂もおいしい。

    「唐揚げは予熱で火を通すから揚げたては食べるなヨ?」

    そうなんだ。じゃあ冷めたのならいいのか?

    「コラ!もう一つ食べるな!」

    これは味付けが違うな。

    「あーもー!つまみ食い終了!キャベツ盛ってトマトくし切りにして載せといて!」

    ジェームズが冷蔵庫の野菜室を指差す。
    頷いて野菜室を開ける。
    上の段にトマトがあった。


    赤く、ルビーのようなトマトは冷えて、ほんの少し柔らかい。
    塩につけてそのまま食べたらきっとおいしい。




    野菜を先に皿に盛る。
    朝作った味噌汁を温めて、器に入れる。
    箸とコップに入れたお茶をテーブルに載せて、唐揚げの到着を待つ。



    「お行儀よく待ってるネェ」
    「ふん。ジェームズに躾けられたからな」
    「昔はただ座って待ってるだけだったのに、エライネェ〜」
    「子供に言うみたいに言うな」


    唐揚げは大皿に乗ってやってきた。
    大盛りの唐揚げが、もも肉むね肉、味付け2種類の境目なく盛られている。

    「セルフサービスで」
    「じゃあポテトサラダもセルフサービスで」

    二人で席について、いただきます、と手を合わせて。それから二人で好きなだけ唐揚げを貪り食った。


    「これもも肉か」
    「ン…わかんない。合盛りにしたから」
    「美味しい」
    どれも美味しい。噛むと肉汁がでてくる肉はたぶんもも肉だろうし、蛋白で旨味が強い肉はもも肉、なんだろう。

    「ソース味と生姜味?」
    「そう。3分の1だけソース味にした。残りは生姜味。3分の1は多めに作ったから取り分けて今冷凍庫にいれた。」
    冷凍庫にいれた唐揚げは近いうちにタルタルソースとか明太子ソースを纏って再登場するのだろう。いや、スイートチリソースかな。
    これから暑くなるから油淋鶏になって出てくるかも。


    「キャベツにかけるのもウスターソースにしたい。ソース味美味しい。酸っぱいのにスパイスが効いてる。」
    「ウスターソースぅ?自分で取って来てヨ…わたしはこの塩麹のドレッシングで食べたいから」
    「ジェームズのほうが冷蔵庫に近いところに座ってるだろ」
    「自分で使うぶんは自分で取って来なさい!」


    けち。

    とは口に出さなかったが、仕方なく冷蔵庫を開ける。右の調味料の棚にウスターソースが入っている。そして、その横にいいものがあった。



    「おかえり。…アッ!それは!」
    「マヨネーズかけるか?」
    赤いキャップを外してチューブからマヨネーズをキャベツにかける。
    ちょっとだけ、からあげにもつける。

    「ウワやめろヨ罪すぎる」
    「ふん。ジェームズはやめとけ。胃にもたれるからな」
    ちょっと挑発してそう言うと、ジェームズはムッとした顔になる。ほら、すぐムキになるんだ。

    「そんなに胃は年とってませーん!」
    そう言ってマヨネーズを奪い取ると、からあげに遠慮がちにマヨネーズをつける。

    それをみながら口にマヨネーズをつけたからあげを放り込む。

    油がよく切られているからあげは、衣がさっぱりしている。なのに、なのにその上にマヨネーズをかけると、酸味とまろやかさが追加されて罪の味になる。せっかく衣がさっぱりして、カリカリなのに。その上から脂が膜を作ってしまう。


    「うん。おいしい。」
    「…こんなのしなくても唐揚げは美味しいんだ!」
    「っていいながらかけてるじゃないか」
    「今日だけだから!味変味変!」

    ジェームズも言ってることが無茶苦茶だ。

    そのあとはレモンをかけてみたり、スパイスの粉をかけてエスニックに食べてみたりしながら唐揚げの山を消費していった。

    「もうこれだけ唐揚げたべるとご飯いらないネ。」
    「うーん、一杯だけでいい」
    「…ごはん小盛りにしといてよかった」


    大皿は空になり、取り分け皿も適度にソースと脂で汚れた。味噌汁とごはんの器も空になりそうなあたりで、キッチンに向かう。

    野菜室の中。あんまり冷えると甘さがわかりにくくなるから今日。いまこのときが、食べ時。


    「ヘタ取ってヨ」
    ジェームズがキッチンを振り返らずに、味噌汁を飲みながら声を投げかけた。
    「分かった」
    包丁で苺のヘタを取る。あっ、切りすぎたか。まあいいや。

    ヘタに残った果肉を齧る。
    用意した人だけが食べられる。つまみ食いのごちそう。



    透明で模様のついたガラスボウルに苺を盛り付けて、デザートフォークを2本突き刺して食卓に持っていく。



    「お茶淹れる?」
    食卓にガラスボウルを置く段階になって、ジェームズは皿の中身をすべて空にしていた。
    自分の食器を盆にのせて、いそいそキッチンに持っていく。
    どうせ行くならわたしのも持っていってくれ。


    「自分のぶんは自分で!お盆個別にしてるんだから!」
    はいはい。


    「冷たいお茶でいい」
    シャーロックがそう言うと、ジェームズがシンクの中に食器を入れるガチャガチャという音がした。
    続いて戸棚からグラスを2つ出す音が聞こえた。
    冷蔵庫を開ける音がして、水出しにしておいたジャスミンティーが注がれる。


    「氷なしでいい?」
    ジェームズがそう言いながらキッチンの隣のリビングの机にグラスを置く。
    また質問形式。でもこれは「氷なしにしたからほしかったら自分で入れてこい」ということだ。

    面倒だから氷はなしでいい。



    食後のデザートを食べるときはリビングのテーブルで、と決まっている。甘いものはゆったりした姿勢でたべたい。
    苺のはいったボウルをリビングの机の上において、ソファの上にははお気に入りのクッションをセッティングして、ジェームズを待つ。待っている間暇なのでテレビもつけてしまおう。


    ジェームズが席についたのを見て、二人でいちごに手を伸ばした。


    いちごは旬なだけあって美味しかった。瑞々しい甘さ。春の香り。


    「牛乳入れて潰してたべたい」
    「へぇ、お前の家みたいないい家でもそういう食べ方してたんだ」
    「兄がよくやってた。父は怒ってた。」
    「旨いけど見た目グチャグチャになるもんなァ…うちは生クリームかけてたべてたケド…練乳かける家もあるよナ」
    「練乳…食べたことない」
    「じゃあ次練乳も買う?」
    「いらない」
    「…練乳美味しいのに。お菓子にも使えるヨ。例えば…」
    「じゃあ練乳買う」
    「お菓子狙いかヨ…」


    会話が進むたびボウルの中身が一つ減っていく。ああ、食べ終わっちゃう。


    最後のひと粒がボウルの中にころんと残る。
    そのひと粒になかなか手をつけられずに、時間が過ぎていく。
    テレビの中では映画が始まろうとしている。

    「この映画知らない」
    「あー…お前が小学生くらいのときの映画だもんネ」
    「ジェームズは?映画館で見たのか」
    「…ウン」

    歯切れの悪い返事を聞いて、なんとなく察した。
    じろりと睨みつけながら
    「さては仕事で女といっしょに行ったな」
    「い、いや、女じゃなかったヨ?!子供といっしょに行った!いっしょに留守番することになって、どうしても映画館行きたいっていうからついて行って」
    「ふぅん…本当か?」
    「本当だヨ!」

    慌てる様子のジェームズはまだまだ言い訳をしたい様子だった。だがもう聞きたくはない。

    いちごを指で摘んで、口に咥える。
    咥えたままで慌てて喋ったままのジェームズの口に押し付ける。
    「ゥ」
    ジェームズはいちごを押し当てられて呻きながら黙った。
    一瞬動きは止まったが、そのままいちごを齧りだす。
    そしてシャーロックとジェームズの唇と口が触れ合って、いちごの味のキスをした。



    ぬる…、と口の中にジェームズの舌が侵入する。その舌を拒まず、たまに宥めるように押し返したり絡め返したりすると、そのたびにいちごの香りがした。


    いつのまにかシャーロックはソファの上に押し倒されて、シャーロックのブラはジェームズの手がかかっている。
    前ホックを外そうとする動きを感じて、キスを続けながら、ジェームズの首に腕を回した。


    「最初からこうするつもりだった?」
    「ン…嫌ならやめる…」
    「…唐揚げ、にんにく入れてなかった」
    「ウン」
    「最初からこうしたかった、だろ?」

    シャーロックがジェームズを抱き寄せながら尋ねる。
    ブラのホックはいつのまにか外されていた。シャツはめくりあげられて、乳房は丸出しになっている。

    「お前もこうしたかった。だろ?」
    ジェームズがシャーロックのパンツの中に手を入れる。その手の動きを感じ取って、シャーロックはびくりと震えた。何度経験しても慣れない。それどころか、ジェームズの手によって敏感に感じ取るようになってきている。気がする。

    ジェームズの指が、シャーロックの割れ目をなぞる様に動く。ぬちゅりと滑った何かが股を伝っていくのを感じた。
    「…っ!」
    「そりゃあ、週末はゆっくり、妻と愛を確かめたいヨ」
    ジェームズはシャーロックの乱れた様子を見て笑った。


    ああ、敵わない。
    私がいつも振り回してやってるつもりでも、
    結局こうやって転がされてしまうんだ。


    「挿れていい?」
    ジェームズがシャーロックに囁く。

    まただ。
    「聞く…な…!どうせ挿れるんだろ」
    聞いてる体だが、挿れるぞと宣言しているようなものだ。

    「ン…そう言われると…やめよっかナァ」
    ジェームズは口の端を釣り上げて、意地悪な顔になった。
    人差し指と中指の二本をシャーロックの中で出し入れして、既にグチャグチャになったそこが悲鳴を上げる。

    「…っ!や…!」
    「挿れてほしい〜?」
    「っ…!!ばか…!」
    「どうなの〜?」

    ぐちゅ、ぐちゅ、と音が鳴るたびに、腰が甘く疼いてしまう。お腹の中がきゅんきゅんして、もっと、大きな、熱い質量が欲しくなる。

    「どうする〜?」
    「…っ!!いれ、て…!」
    「何を〜?」
    「…っ〜!!ジェームズ、の、おちん、ち…!」

    言い終わる前にぐずぐずのそこに、熱いものがひたりと当たる。
    体が強張って反射的に逃げ腰になる前に、ジェームズが一気に中に入ってきた。

    「っ…ああ…!!!」
    「ん…!キツ…」

    ジェームズは呻いたが、額の汗を軽く拭って、シャーロックの脚を持つ。

    「あ…!」
    まだ、そんな激しくしてほしくない。
    そう言う前に、ジェームズが腰を振り始めて、シャーロックは風に舞う木の葉のように翻弄されるしかなかった。





    「…汗かいちゃったネ」
    「…風呂は?掃除してあるのか」
    「そりゃもう。昨日の夜ピカピカにしといた」
    「…やっぱり最初からこうするつもりだったんじゃないか」
    「フン。お前もそうしたかったんだろ?だからいつもなら言う、ご飯の前に風呂、って言わなかったんだ」

    ジェームズが汗で濡れた前髪をかきあげる。
    その姿をソファに横たわりながら
    「どうだろうな」
    と強がってみせて、シャーロックは笑った。



    「お風呂一緒に入るだろ?立てるか?」
    「…むり。脚立たない」
    シャーロックがそう答えて、両手を広げる。
    ジェームズが笑ってシャーロックを抱きかかえた。


    「腰痛めるなよ」
    「抱っこしてもらっといて出てくる言葉がソレ?!」


    そのあとは、レモンのかおりの入浴剤のお風呂にはいって、ふかふかのベッドで、まるで子供みたいにふたりで手を繋ぎながら寝た。


    その夜はスペアリブの夢を見た。
    バーベキューソースのかかった、骨付き肉の夢。
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