「ここ、いい?」
すっと伸びてきた指先がカウンターを叩けば重厚な音が響いて勇利はそちらに視線を向けた。
断られるなんて微塵も思っていないような態度。態度だけではなく断り難い魅力を持っていると自覚しての振る舞いだとその容姿で理解する。
「いいけど。僕の彼氏が来たらお仕置きされちゃうよ?」
小さな笑い声を零して見上げれば、男らしい喉仏が動くのがわかった。
お前の瞳はどんな酒より俺を酔わせてくれると囁いた男の声が耳に吹き込まれた気がした。
昨夜も、ハネムーンだと言って散々この身体を愛された。
もうダメだと何度も厚い身体を押し返して拒んだのに、そんな抵抗では燃えるだけだと最奥に注がれ、掻き出しきれなかった名残が今も後膣を濡らしている。
甘く、強く弄られた胸の尖りは彼があつらえたスーツの下で熟れた色で勃ちあがって痛いくらいだ。
勇利は痛いのも好きだよね。俺にいじめられるのが好きなんだ。
そう囁いて、お尻を叩かれて内壁をきゅうきゅうと男根に吸い付かせれば言葉でいくら否定してみても説得力なんてない。
愛された名残を思い出した勇利の燻りを感じたのか、隣に座った男が獣のような欲を滲ませた。
勇利をなんとしても部屋に連れ帰ってやろうという顔だ。
「お仕置きってどうされるの?」
「そうだね、⋯きっと威圧されて彼がどれだけ僕を愛しているか、そして僕に愛されているか見せつけられる」
「随分と優しいね。俺なら、触れただけで相手を燃やしたくなるかな」
物騒だね、笑いながら勇利は青いカクテルの入ったグラスを揺らす。
瞳と同じ色だ。
ぐいっと一気に煽り、唇の端を親指で拭う。
彼の瞳を飲み干したような優越感。
彼の一部を飲み下すことなんて多々あるけれど、鼻や喉を抜ける感覚も味もだいぶ違う。
「あとは僕がお仕置きされちゃう」
「君が?ひどい相手だね。そんなことをされるの?」
どんなことをされてしまうのだろうか。
基本的に彼は勇利を大切に抱く。
体力がある分、激しいし数も多い。
勇利の快楽を開くのにも熱心ではあるけれど、それだけだ。
殺しきれない欲で身体を火照らせている時は勇利から誘えば、その欲の激しさをほんの少しだけ見せてくれる。
最近は新婚だからとたまにタガが外れるし、この新婚旅行中はベッドから出られないことも多くはなっているけれど、勇利はいつだって彼がほしいまま求められたいのに。
「気持ち良すぎておかしくなるようなお仕置きかな。僕がもう入らないって言っても、いっぱい注いでマーキングされちゃうかも」
精の匂いを思い出して恍惚とため息を吐けば、男の指先が勇利を絡め取った。
「君はお仕置きがされたくて、恋人を置いて出てきたんだ?」
「うん、そう」
身体を寄せれば、つぅっと指先でくすぐられる感覚に淫蕩な笑みが浮かぶ。
「ワルイコだ。お仕置きしてあげる」
男は、ヴィクトルは勇利の腰を抱き寄せると欲望を隠しもせずに舌なめずりをして応えた。