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    sleepwell12h

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    💙を寝かしつける💜

    ️⚠️💚💙、🔪💚要素有

    #ikeshu

     頭の中に霞がかかったように朦朧とするのは、鼓膜にまとわりつくラジエーターのかすかな唸りのせいか、あるいは温んだ空気のせいか。
     窓の外では甲高い笛の音そっくりに鳴り響く風と、刃物のような鋭さで肌を切りつける雪とが猛威を振るっていた。
     一人がけのソファに両膝を抱えるようにして座り込んでいたシュウが、ふと読みさしから視線を上げる。書斎と隣りあった寝室では、部屋の主が静かに寝息を立てていた。
     肘掛けから身を乗り出し、テーブルに置かれたカップへ手を伸ばす。お客様にお茶のひとつも出さないなんて失礼だよね、とキッチンへ立ったときから既に彼はひどく憔悴していた。茶葉をはかる指先が細かく震えているのを認めたシュウが半ば強引にベッドへ叩き込まなければ、彼は今でも無理を押して客人をもてなそうとしていたかもしれない。はじめのうちこそ抵抗する素振りを見せたアイクも、肩まで毛布を引き上げると観念したように瞼を伏せた。
     おそらくシュウに助けを求める以前から、ろくに休息もとれない日々が続いていたのだろう。アイクが床に就いてから、ゆうに半日は経とうとしている。文字通り一日がかりで飛んできたにもかかわらず待ちぼうけを喰らっている状況にシュウは不満をこぼすでもなく、ここぞとばかりに書架へおさめられた文献をひたすらに繰っていた。無闇に眠りを妨げないよう天井灯を消し、スタンドライトの放つぼんやりとした光に頼らざるを得ない環境は、お世辞にも読書向きとは呼べない。しかし、脳を解剖するよりも確かに彼の思考を構成する断片が垣間見える書籍の山を前に、多少の不便など気にかけるべくもなかった。
     墨色に塗り込められた嵌め殺しの窓に、卵色の燈に照らし出されたシュウの顔と薄暗い室内がぼんやりと浮かび上がる。時折硝子を叩く雪片が室内の明かりを受けてちらちらと瞬いた。それまで死んだように微動だにせず仰臥していたアイクが、にわかに寝返りを打ちはじめる。苦しげな唸り声を聞きつけたシュウはソファを降り、アイクの枕元へ駆け寄った。
    「シュウ……そこにいる?」
     覚醒したアイクは焦点の曖昧な瞳を瞬かせながら、嗄れた声で呼びかける。ベッドに投げ出された手を握れば寝汗でしっとりと湿り、芯まで冷えきっていた。
    「うん、起きてるよ」
     所在を確認して安堵したのか、アイクは再び目を閉じた。空港へ迎えに来たときから蝋のように青白い顔をしていたが、未だに血色が戻る気配はない。邂逅を果たした彼がいの一番に口にした言葉は、会えて嬉しい、でも元気にしてた、でもなく、こんな時期に呼び出してごめん、だった。謝るくらいなら最初から連絡など寄越さなければいい。そんなことは彼とて重々承知しているはずだ。それでも窮状を訴えずにはいられないほど追い詰められていたのだろう。離人症のように自我が遠のく感覚。加速する無意識とはシュウでさえ未だに折り合いがつけられずにいる。それは会話や思考の切れ間にふと顔を出しては、お前は誰だ、と問いかける。
     ――失礼な。我々は問題なく共存できているでしょう。
     ようやく凪いだ意識の海にまたしても波紋を広げるように声が響く。ああ、そうだな。わかっているから大人しくしていてくれ。頭の中で吐き捨てたシュウが書斎へ戻ろうとしたとき、アイクが唇だけを動かし、音を成さない声でシュウを呼んだ。ベッドの縁に腰を下ろしたシュウは、脂汗の滲んだアイクの額へ指先を差し延べ、貼り付いた髪を掻き上げる。
    「可哀想に、こんなに魘されて……」
     心底から憐れむような声はアイクの耳に届かなかったのか、意識を取り戻す気配はなかった。シュウはアイクの上へ覆い被さるように背を屈め、かたく喰いしばった瞼へ淡い口付けを落とす。
    「ここにいるから、大丈夫。安心しておやすみ」
     そのまま頭を撫で付けるうち、喘ぐような吐息は徐々に落ち着きを取り戻し、苦悶の表情も和らいだ。やわらかな髪を指先に巻き付けて弄びながら、シュウは肩先を震わせて笑う。
    「ほら、僕はでしょう」
     アイクの寝顔を眺めながら恍惚と呟くシュウの声は、冬の嵐に掻き消された。アイクの意識が浮上して来ないのをいいことに、幼子のようにあどけなく澄んだ頬から静脈の透ける白い喉、規則正しく上下する胸郭を順繰りに愛撫する。やがて冷えた肌へ直接触れようと胸元のボタンへ指をかけたとき、骨が軋むような鈍い痛みが走った。いつの間にか覚醒したアイクが、指先が白ばむほどの力強さでシュウの腕を掴み止める。薄闇に浮かび上がる黄金色の瞳を目の当たりにして、シュウは遅まきながら自らを絡め取ろうとしているものの正体を悟った。同時に、凍える風の吹きすさぶこの季節でなければならなかった理由も判明する。目論見通りに事が運んだのが余程嬉しいのか、アイクは喜色を露わにしたままシュウの手首を引き寄せ、唇を押し当てる。
    「やっと捕まえた」
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