言葉だけじゃ足りない「おい、気をつけろよ」
堤防の上に腰掛けた九門が落ちぬよう、十座は正面から弟の腰に両腕を回した。十座の腰までの高さがある堤防の上に座っている九門を、立っている十座の方がやや見上げる形になる。
「兄ちゃん、大好き」
いつもとは反対に兄の顔を見下ろしながら、九門は両手で十座の頬を包み込む。
十座を覗き込んでくるその瞳に、海のゆらめきが反射している。ただでさえいつも眩しくて目を細めたくなるような九門の瞳の輝きが、今は夜の匂いもまとっている。その妖しさを含んだ光に、十座は目が離せなくなった。
地方公演から帰ってきた九門が「兄ちゃんと一緒に海が見たい!」というので、今日は十座のバイクでタンデムし海沿いまでやってきた。公演先の地で夏組の皆と海を見てから、この感覚を十座とも共有したいと、ずっと二人で海に行くのだと決めていたらしい。
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