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    葉 山

    @hayamayama82

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    葉 山

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    遅ればせながらキスの日ネタ。兄ちゃんの勘違いから始まるじゅうくも。

    #じゅうくも
    layersOfClouds

     十座の正面に立った九門がためらいがちに、だがどこか覚悟を決めた顔で言う。
    「兄ちゃん、今日ってキスの日なんだって。だから……兄ちゃんとちゅーしたい!」
     突然の九門の要望に、十座は面食らってとまどう。
    「いや、それは……さすがに兄弟じゃしねぇだろ……」
    「え? 海外の映画とかではよく見るでしょ?」
    「……そうか?」
    「うん、普通にしてると思うけど……?」
     とまどう十座とは反対に、九門は心底不思議そうな顔で兄を見上げた。今までみた映画にそんなシーンがあっただろうかと、なぜか焦りながら十座は必死に記憶をたどる。 
     一方で物心ついた頃から弟を知っているので、今の表情から九門が嘘を付いているとは全く思えなかった。
     混乱する十座の様子を否定と受け取ったのか、九門は明らかにしょんぼりとし始める。
    「ごめんね、やっぱ嫌だよね……」
    「そんなわけあるか、相手はお前だぞ」
     九門の勘違いを感じ取って、十座は強めに返す。九門の事が嫌なわけでは決してない。ただ自分の中の常識が世間とズレているのか、すり合わせに時間がかかっていただけだった。
     十座にとってはそんな思いを乗せたつもりだったが、さっきまでの様子とはうらはらな急な兄の言葉に驚きつつも九門は嬉しげに、だが照れつつ微笑む。
    「じゃ、じゃあ……いい? 出来れば先に兄ちゃんからして欲しいんだけど……そのあと俺が返すから!」
     十座の態度に一喜一憂しつつも、九門は元々考えていたらしいプランを告げる。
    「……わかった。ちょっと目……閉じとけ」
    「う、うん?」
     妙に真剣な十座の様子に今度は九門の方がとまどうが、兄の気が変わらないうちにと素直に目を閉じる。
     そんな弟の顔を見つつ、十座は覚悟を決めて九門の頬を両手でそっと包む。九門が「え?」と思った直後、唇に柔らかい感触が触れた。
     驚いて思わず目を開けた九門の目の前には、十座の顔のアップが迫っていた。すぐには焦点が合わないほど顔が近い。近いどころではない。一日中眺めていても飽きないうえに至福すら感じるほど好きな兄の顔が、すでに息が絡み合う距離にある。つまり俺、いま兄ちゃんとキスしてる……こんなに近くて……唇が……柔らかくて……
     しばらくして顔を離した十座だが、目を開いて驚いたまま呆然としている九門を見てハッとする。
    「悪ぃ、やっぱ……嫌だったか……」
     やはり兄である自分が止めるべきだった。九門の願いだからとなんでもかんでも叶えてやってしまうのは本人の為によくない。即座に様々な反省が頭に飛来した十座が頬から手を離そうとすると、九門が慌てて兄の両手を掴んで引き止める。
    「ち、違うよ!!! 兄ちゃんだもん、嫌なはずないよ!」
     兄の目を見つめて強く真っ直ぐに告げる九門の言葉に、十座も思わずホッとする。だがそう言いつつも両手の中の九門の変化に十座は不安になる。九門の頬は徐々に赤くなり、耳まで朱色に染まり始めていた。
    「おい、ほんとに無理すんな、嫌だったんなら……」
    「ほんとに違くて! ただ俺、……ほっぺに、ちゅーだと……思ってた……から……」
     とぎれとぎれで俯きがちの九門の言葉に、十座もようやく己の勘違いに気がつく。あまりの恥ずかしさに思考が全て停止する。
     だが、もう済んでしまったことは後戻りできない。
     戻れず、だが進めない。
     お互いがとまどいと気まずさで身動きが取れなくなる中で、十座は手の中の九門の頬の熱さを自分の熱のように感じ、兄の手首を掴む九門の手にはより力が入った。先程まで交じる距離だった吐息も、もう触れたら爆発するのではないかと思われるように、二人とも息を潜め続ける。
     だがふと、顔を上げた九門が動き出した。兄の両手首から首元に手を移動させ、そっと十座に顔を近づける。
    「おい……!」
    「兄ちゃんのあとに……俺が返すって……言ったでしょ」
     確かにそう言っていた。だがその時とはもう違う道を進んでいるはずだ。それなのに、これは何だ?
     ゆっくりと九門の顔が近づいてくる。だが、もう十座はそれを止めようとは思わなくなっていた。
     お互い自然と目を閉じて、今度ははっきりとした意思で唇をかさねる。
    「兄ちゃん……大好き」
     いつもの九門の言葉が、今は違う意味を持って聞こえるのは自分の勘違いだろうか?
     十座はもう何も考えられなくなって、両手の中の愛しい存在をより深く引き寄せてキスをした。
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