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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんが裏切り者になったら始末することになるのはルチなのだろうか……という話です。映画の中のシーンとして残酷な描写が出てきます。

    ##TF主ルチ

    裏切り お風呂から上がると、賑やかな音声が聞こえてきた。緊迫したBGMを背景にした、何かがぶつかるような固い音だ。聞こえてくる人の声は、僕には聞き取れない言語であるらしい。廊下を覗き込むと、リビングから光が漏れていた。
     手早く身体の水滴を拭うと、用意していた寝間着に身を包む。新しいタオルを手に取り、頭を拭きながら廊下へと出た。リビングの扉は閉じているが、聞こえてくる音はそれなりに大きい。扉を開けると、テレビには洋画が映し出されていた。
     ソファに腰を下ろしたルチアーノが、真剣な表情で画面を見つめている。僕の存在に気がつくと、ちらりとこちらに視線を向けた。
    「ああ、上がったのか」
     隣に腰を下ろすと、僕も画面に視線を向ける。ちょうど戦闘シーンらしく、男たちが銃を撃ち合っていた。片方の男の脇腹から、鮮血が溢れて宙を舞う。その描写の生々しさは、確かにルチアーノ向きだった。
    「何を見てるの?」
     尋ねると、彼は上機嫌な様子で答えた。
    「海外のスパイ映画だよ。特殊部隊のメンバーが、秘密結社の構成員と戦うのさ。今は主人公たちの潜入がバレて、命を狙われてるシーンなんだ」
     楽しそうに語る姿を見て、僕はようやく納得した。彼は、この映画の秘密結社に自分を重ねているのだろう。彼は人間と取引をしているが、敵対関係になることもある。権力者のスパイと戦うことだって、日常茶飯事なのだろう。
     テレビの中の秘密結社も、冷酷で無慈悲な存在らしかった。武装した男たちを動員して、主人公たちを捕らえようと迫ってくる。逃げ遅れた仲間の一人が捕まり、男たちに引きずられて行った。なんとか残りの仲間たちが逃げきったところで、画面は秘密結社のアジトらしきものに変わっていく。
     捕まった男は、秘密結社から拷問を受けていた。電気椅子らしきものに縛り付けられ、男たちから囲まれる。リーダー格らしいスーツの男が、正面からスパイの男と向き合った。
    「お前は、どこの組織の者だ」
     淡々とした声色で、秘密結社の男がに問いかける。スパイの男は、表情ひとつ変えずに答えた。
    「お前たちに教える必要はない」
     そこからは、地獄絵図だった。秘密結社の男たちが、スパイの男に拷問を始める。創作物でしか見たことのない拷問道具が、男の皮膚に突き立てられた。テレビのスピーカー越しに、男の低くて太い悲鳴が響いてくる。引き裂かれた皮膚からは、真っ赤な鮮血が溢れ出した。
     生々しい描写の連続に、僕は思わず視線を逸らす。このまま直視していたら、胃の中のものを戻してしまいそうだったのだ。人間が解体される光景なんて、好き好んで見たくはない。
     画面の中からは、相変わらず男の叫び声が聞こえている。血を流しながら苦しむ男を、秘密結社の構成員が囲んでいた。リーダーらしきスーツの男が、低い声で宣言する。
    「裏切り者には懲罰を」
     それは、地の底を這うような声だった。身体が震え、背中から冷や汗が吹き出す。早くなる鼓動を押さえつけるように、ルチアーノの身体に顔を埋めた。
    「何を怯えてるんだよ。疚しいことでもあったのか」
     抱きつかれたルチアーノが、呆れたように声を漏らす。妙に楽しそうな彼とは対称的に、僕の声は震えていた。
    「疚しいことは無いけど、拷問が怖いんだよ」
     弱々しい返事を聞いて、ルチアーノはケラケラと笑う。僕の頭に手を乗せると、なんでもないことのように言った。
    「そんなの、いつものことだろ」
     その言葉が恐ろしくて、僕は余計に震えてしまった。いくら幼い子供の姿をしていても、ルチアーノは秘密結社のメンバーなのだ。映画の登場人物のように、人間を始末することもある。共に戦った人間を始末したことだって、彼の経験ではあるのかもしれない。
     そう考えたら、なんだか怖くなってきた。恐れが大きくなると共に、胸の中にひとつの質問が沸き上がる。聞かない方がいいと思いながらも、ついつい口に出してしまった。
    「あのさ、イリアステルも、組織の裏切り者を始末したりするの?」
     突然の問いかけに、ルチアーノは呆れたように息をついた。僕の髪を掻き分けると、無理矢理顔を上げさせる。
    「当たり前だろ。反乱分子を逃がしたら、弱みを握られて攻め込まれるかもしれないからな。こういうのは早めに消しておくのがセオリーなんだよ」
     にやりと笑う表情は、妙に大人びていた。いつも僕の前で見せているあどけなさは、今の彼にはどこにも無い。秘密結社のメンバーとしてのルチアーノが、冷めた瞳で僕を見ていた。
     彼の所属する組織にとって、僕は人間の協力者と同じなのだ。利害の一致を理由に共闘しているだけで、仲間だとは微塵にも思ってはいない。不穏な行動があれば切り捨てるし、裏切りを認めたら始末するのだろう。それくらい、僕の命は軽いのだ。
    「君は、裏切ったりするなよ」
     黙り込む僕の瞳を、ルチアーノの緑の瞳が見つめる。笑みを浮かべた表情とは裏腹に、その声は甲高く震えていた。僕が裏切ることを考えて、恐怖を感じているのかもしれない。
     僕を始末するとなったら、手を下すのはルチアーノになるのだろう。いくら大人びているとは言っても、彼は精神の脆い男の子だ。関係を持った相手を殺すことに、耐えきれるとは思わない。精神に異常をきたしてしまうことは、考えなくても分かった。
    「大丈夫。僕は、ルチアーノを裏切ったりなんてしないよ」
     言葉に決意を込めながら、僕はルチアーノに向かって答える。彼の強ばった表情が、僅かに緩んだ気配がした。僕の口から言葉を聞いて安心したのだろう。ルチアーノにも恐れがあることを知って、僕も少し安心する。
     いつの間にか、映画の拷問シーンは終わっていた。主人公とその仲間たちが、秘密結社との最終決戦に備えている。これは特殊部隊が主人公の映画だから、秘密結社のアジトは滅びるのだろう。続きを見たところで、僕たちに楽しいことはなさそうだった。
     テレビの電源を落とすと、ルチアーノと一緒に僕の部屋へと向かう。隣を歩く男の子は、あどけない小学生そのものだった。こんなに幼い男の子に、親しい人間の始末なんてさせられない。僕だけはずっと側にいようと、心の中で決意した。
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