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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチのメイドの日ネタ。今さらだけど思い付いたので書きました。メイドルチにおもてなしされるTF主くんの話です。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    メイドの日 玄関を開けると、そこには奇妙な光景が広がっていた。
    「おかえりなさいませ、ご主人さま」
     僕を出迎えたのは、聞き慣れた少年の声だ。普段は耳を刺すように甲高いのだけれど、今日は少し落ち着いている。言葉のトーンも、いつもより少し大人しいようだ。それもそのはず、今日のルチアーノは、メイドの衣装に身を包んでいるのだから。
    「どうしたの、それ?」
     僕はまじまじと彼を見つめた。視線を合わせると、頭の上のヘッドドレスが視界に入ってくる。身を包んでいるワンピースは、黒一色の膝上丈だ。下にフリルが入っているのか、シルエットはふんわりと広がっている。その上に重ねられたエプロンも、フリルたっぷりのひらひらだ。足元を彩るハイソックスにも、フリルとリボンが取り付けられていた。
    「お食事の用意ができています。片付けを済ませたら、リビングにいらしてください」
     僕の質問を無視して、ルチアーノは言葉を続ける。くるりと僕に背を向けると、リビングの方へと歩いて行った。呆然と後ろ姿を見送ってから、手を洗うために洗面所に向かう。こういう時のルチアーノは、尋ねたところで教えてはくれないのだ。大人しく従っていれば、目的も分かるだろう。
     リビングに向かうと、机の上に料理が並べられていた。お高そうな雰囲気のステーキと、おしゃれな盛り付けのサラダである。ルチアーノに運ばれているのは、湯気を立てているスープだった。美味しそうな料理の数々に、僕は呆然と口を開ける。
    「すごい……」
     机の上に料理を運ぶと、ルチアーノは僕の方を振り返った。スカートの裾を揺らしながら、手のひらで僕の定位置を指し示す。
    「こちらへどうぞ」
     彼に導かれるままに、僕は椅子に腰を下ろす。改めて眺めてみても、豪華な料理だった。これも、全部ルチアーノが作ったのだろうか。彼のことだから、自分で作っていてもおかしくない。
    「どうぞ。お召し上がりください」
     澄ました態度のまま、ルチアーノは僕に語りかける。僕が箸を手にとっても、斜め前に佇んだまま動く気配はなかった。食事の内容も相まって、近くで見られていると食べづらい。ちらりと視線を向けると、僕はルチアーノに言った。
    「あの、見られてると食べづらいんだけど……」
    「失礼しました」
     小さく頭を下げると、彼は大人しくその場から離れる。そのままの足でキッチンへ向かい、洗い物の片付けを始めたようだ。水が流れる音を聞きながら、僕はステーキに手を伸ばす。予想通り、お肉は溶けるように柔らかかった。
     箸とフォークを動かすと、あっという間に食事を平らげる。今日もたくさん動き回ったから、お腹がペコペコだったのだ。食べ終わった食器を重ねていると、ルチアーノが歩み寄ってきた。小さく一礼してから、積み重ねられたお皿に手を伸ばす。
    「片付けは、私が行います。ご主人さまは、身体をお清めください。ご入浴の用意は済んでいます。」
     そう言うと、彼は両手で食器を持ち上げた。器用に流しへと運ぶと、蛇口を捻って水を流す。メイド服で食器を洗う恋人の姿を見ていたら、なんだか申し訳なくなった。
    「あの、僕も手伝おうか?」
    「その必要はありません。ご主人様には、ゆっくり身体を休めていただきたいのです。どうぞ、ごゆっくり湯船を堪能してください」
     僕が提案しても、彼はこちらも見ずに跳ね退けてしまう。仕方がないから、そのままお風呂に向かうことにした。部屋を出ようと足を踏み出すと、ルチアーノが手を動かしながら言う。
    「着替えの用意は、既に済んでいますので」
     どうやら、手ぶらでいいみたいだった。ここまで至れり尽くせりだと、なんだか不安になってしまう。ルチアーノは、いったい何を企んでいるのだろう。悪いことじゃなければいいのだが。
     洗面所へ向かうと、彼の言う通りに用意がされていた。蓋の閉じられた洗濯機の上に、タオルと折り畳まれた着替えが置かれているのだ。寝間着の上には、ご丁寧に下着まで乗せられている。少し恥ずかしくなりながらも、服を脱いで浴室に入った。
     シャワーで身体を流してから、湯船の中へ身体を沈める。お風呂の温度も、いつもと同じ適度なぬるさだった。全身をお湯の中に浸すと、優しい温もりに身体を委ねる。そのまましばらく横たわっていると、どこからか足音が聞こえてきた。それは浴室の前で足を止めると、僕に向かって問いかける。
    「お背中、流しましょうか?」
    「結構です!」
    「かしこまりました」
     僕が答えると、彼は洗面所から去っていく、相変わらず、何を考えているのか分からない態度だった。急に背中を流すと言い出すなんて、いつもの彼からは信じられない。メイド衣装を着ていることもあって、妙にドキドキしてしまう。
     お風呂から上がると、ルチアーノは僕の部屋にいた。僕が入ってきたことに気がつくと、くるりとこちらを振り返る。表情の乏しい顔で僕を見ると、淡々とした口調で言った。
    「ベッドメイキングは済んでいます。いつでもお休みください」
     確かに、僕の部屋のベッドは、綺麗に形が整えられている。シーツは丁寧に伸ばされていて、布団も被せ直しているようだった。枕元に置かれていた雑多なものたちは、一ヶ所にまとめて固められている。今すぐにでも眠れそうな感じだった。
    「ありがとう」
     お礼を言うと、ベッドの隅に腰を掛ける。あまりにも綺麗に整えられていたから、崩すのが申し訳なかったのだ。僕の様子を見ると、ルチアーノは改めて僕には向き直る。深々とお辞儀をすると、淡々とした声で言った。
    「それでは、私はお暇をいただきます」
     相変わらず一方的に告げると、僕の返事も待たずに部屋から出ていく。誰もいなくなった部屋の中で、僕は小さく息をついた。結局、ルチアーノの目的はなんだったのだろうか。何も分からないままだった。
     それから一時間ほど経った頃に、ルチアーノが僕の部屋に戻ってきた。いつもの寝間着に身を包んで、濡れた髪をタオルで乾かしている。僕の隣に腰を下ろすと、からかうような口調で尋ねた。
    「なあ、どうだったかい? 僕の演技は」
     急に尋ねられても、僕にはあまりピンと来なかった。演技と言うのは、さっきまでのルチアーノの仕草のことだろう。しかし、目的を知らない僕には、どこまでが演技か分からなかった。
    「どうって? 何が?」
    「僕の、メイドの演技だよ。今日は、メイドの日だったんだろ」
     その言葉で、僕はようやく彼の行動を理解した。今日、五月十日は、メイドの日だったのだ。日々が忙しくて、意識の底から忘れ去られていた。
    「そういえば、そうだったね。忘れてたよ」
    「なんだよ。忘れてるなんてさ。去年はあんなに張り切ってたのに」
     僕の返事を聞いて、ルチアーノは不満そうに唇を尖らせる。おぼろげな記憶を掘り起こしながら、僕はその話を聞いていた。確かに、去年のメイドの日は、僕がコスプレを要求していた気がする。頼んだはいいものの、あっさり断られてしまったのだ。
    「今年は、自分から着てくれたんだね。嬉しいよ。おもてなしの内容は、メイドと言うよりも執事みたいだったけど」
    「なんだよ。どこからどう見てもメイドだったろ。君の目は節穴なのか?」
     軽口を叩きながらも、僕は喜びを噛み締めていた。一緒に過ごすうちに、彼は自らコスプレをするようになったのだ。それも、僕をからかうためという理由で。これは、大きな進展だと思った。
    「メイドっぽいことって言ったら、やっぱりあれでしょ。萌え萌えキュンとか」
    「そんな恥さらしできるかよ」
     軽口を重ねると、ルチアーノは恥ずかしそうに頬を染めながら視線を逸らす。あのおもてなしは、彼の精一杯のメイドごっこだったのだ。そう思うと、愛おしさで胸が満たされた。
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