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    Saha

    こんな辺鄙な所にようこそ(誰も来てないかも)
    らくがき置き場です。あと文字の練習。とってもお試し。

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    Saha

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    ソ生存IF世界⇔映画軸のリョ三⑤
    ソ生存世界に飛ばされたグレ三の話。ゆるゆる続き。
    めちゃくちゃ自己満足。前の話とちゃんと繋がってるかな〜

    ソ生存IF世界と映画軸の三が入れ替わったリョ三⑤◆◆◆




    頭に思い浮かべたように身体が動く。
    いや、違う。
    実際に動いてみると、自分が想像していた以上の結果をもたらす。
    激しく動いても身体は簡単に悲鳴をあげず、むしろもっともっと刺激が欲しいと訴えてくる。

    これは、夢だ。
    残酷な夢。
    でも、楽しくて仕方がなくて
    今だけは全てを忘れていたい。


    「三井サン、ナイッシュー!」


    ボールがリングを潜り抜ける音。
    それが聞こえる度にオレの身体に命が吹き込まれていく。

    ずっと寒くて空っぽで、どこに行っても何をしても温まらなかった。
    そうか…今までオレは死んでたのか。
    心臓が、動いている。
    当たり前の事なのに全身が打ち震えて止まらなかった。
    感情を受け止めきれず立ち尽くすオレの頭を、長身の男が笑いながらかき混ぜる。

    「寿、やるじゃねーか。グレてたなんて冗談だろ」

    宮城リョータの兄。
    男に頭を撫でられるなんて不快でしかないのに、この身体は嫌悪感を催さない。
    普段から撫でられなれてるのかもしれない。
    ぞっとしないが。

    「それはオレも思う。でもやっぱ三井サンオレらのプレー知らないんだよね。
    ぜんぶ初めて見たって反応なんだよな。
    それでついてこれてんのはすげーけど」
    「そうだな。まあバスケ部でやるには問題無さそうじゃねえ?」



    宮城リョータ。

    何が期待の新人。

    赤木が認めただと?

    ただデカいだけの下手くそに認められたからなんだってんだ。

    こんな奴らとやってたって面白くないから辞めたんだ。

    「……クソ……」

    兄貴の方は、わかる。
    恵まれた体躯とセンス。
    バスケが好きなこと、そして努力できること。
    自分だってそれなりに持ち合わせていたから、そういう奴の事は。

    でも、宮城は。
    バスケという競技を続けるには最大のハンデとなる身長の低さ。
    それを物ともしない不敵さとテクニック。

    「三井サン?」

    …悔しかった。
    自分のバカさ加減を突きつけられて、どこに気持ちをぶつけたらいいのかわからない。
    オレは何をやっている?
    赤木の身体的素質に、自分より目立つことにムキになったた挙げ句怪我をして。
    宮城は、恵まれない身体で目を見張る技術を身につけていた。
    現実の宮城が同じかはわからない。
    だがきっとそう変わりはしないような気がしていた。
    オレは他人に当たるだけで何もしなかったのに。

    「もう帰ろうか。ちょっと今日は色々あったもんね」

    嫌だ。
    まだ全然足りない。
    今日が終わってしまったら…そうすればオレはまた。

    「大丈夫だ。
    明日もできる」

    オレの心を見透かしたかのような宮城の兄の言葉に驚く。

    「楽しかったな、寿」

    返事は出来なかった。



    ◆◆◆


    帰る途中で飯を食い、家に着いてからも心が落ち着かず、
    宮城兄弟が明日のことを話し合っていてもオレはずっとうわの空だった。
    先にすすめられた風呂からあがると、入れ替わりに宮城が浴室に向かう。

    冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、喉を潤す。
    宮城の兄はソファに座ってテレビを観ていた。
    2人きりにされても話すことなどなく部屋に引き篭ろうとしたが、
    男はオレの気持ちなどかまわず穏やかな声で話しかけてくる。

    「寿、オレの名前は覚えたか?」
    「宮城……ソータ」
    「良かった。お前に忘れられてると寂しいからなー」

    言う割に、少しも寂しく無さそうな顔で男が笑う。

    「オレのことは名前で呼んでくれたらいい」
    「…こっちでは先輩じゃねーのか」
    「そうだけど、お前は弟みたいなもんだからな」

    弟は兄のことを名前で呼ばねえだろ。
    そう思ったが、宮城がそうではないことに気づく。
    だが別にそんなことはどうでもいい。
    宮城の兄は返事がないオレを気にするでもなく、ゆったりとこちらを伺っている。
    会話を続ける気はないが、無言の空間には居心地の悪さを感じる。
    用がねえならもういいよな。
    もう寝てしまおうと思ったその時、宮城の兄がゆっくりとオレに近づいてきた。
    自分より長身の男に見下ろされ少しだけたじろぐが、表には出さずに睨み返してやった。
    目の前の男は凪いだ瞳でじっとこちらを見つめた後、にやりと笑った。
    突然くしゃりと頭を撫でられて驚く。
    またか。こいつスキンシップ多すぎだろ…!

    「ッ触んな」
    「ん〜?」

    普段のオレならすぐに跳ね除けていた。
    だけど今は普通じゃない状況で、どうにでもなれという気持ちと心の弱さを感じていた。

    頭を撫でられるなんていつぶりだろうか。
    小さい頃から身体が大きく、リーダーシップもあったから高校生になる頃には自分の事を大人と変わらないと思っていた。
    みんな、明るくて前向きで期待に応えるオレを慕っていた。
    怪我で感じた弱みを、誰にも話せなかった。

    「………」
    「寿、」
    「オレはあんたの弟を殴った」
    「ん?」

    …何を考えているんだ、オレは。
    自分勝手な衝動に任せて傷つけた男の家族に?
    何が弟みたいなもんだ。
    オレが宮城に何をしたか実感すれば、こんな優しさを向けることも馬鹿らしくなるだろう。

    「ああ、さっき言ってたな…。なんか想像つかねえなあ〜」
    「あいつは何もやってねえのに因縁つけて大勢で囲んだ」
    「ふは」

    軽蔑を浮かべるはずの男の表情が何だか楽しそうで、その反応に拍子抜けする。

    「そっちの事はわからねえけど…リョータは大丈夫だと思う。最後は自分で何とかする奴だ」
    「……大丈夫とか、そういうことじゃねえ」
    「だけど、お前は大丈夫じゃなさそうだな」

    言いながら頭を撫でていた手が背中に周って、身体が密着する。

    「…ッ?!何しやがる!」
    「いや〜だって、こんなツンツンした寿はほっとけねえだろ」
    「何が…!」
    「今のお前はなんていうか…心が冷えてるな。こうやってっと、ポカポカしてきて不思議と落ち着くもんよ」
    「…………」

    自分が思っていたような事を言い当てられて閉口する。
    ぽんぽんと背中を叩かれ、男に抱きしめられているのに全く嫌な気分がしない。
    いや、それどころか安心する。
    ありえない心の反応に呆然とした。

    「リョータにやってもらったらもっとあったかいかもな?」
    「……ッ誰があんなヤローに……!!」

    がっしりとした身体を乱暴に押し退ける。
    気づいたらリビングの入り口に風呂上がりの宮城が立っていた。

    「おっ、早いなリョータ」
    「…いつもと変わんねえよ」
    「そうか?じゃあ、オレも風呂もらうかな」

    すれ違いざまに宮城の頭をポンと撫でて宮城ソータが廊下に消える。
    先程よりはるかに気まずい空気に、今度こそ立ち去ろうとした手を宮城にとられる。
    何なんだ、お前ら兄弟は。

    「…離せ」
    「……ソーちゃん、カッコいいでしょ。優しいし」
    「あ?」
    「誰でも好きになる。…初めて会った人でも、すぐに」

    バスケをしていた時の、自信満々で不敵な姿とは真逆の宮城がそこにいた。

    「…記憶がないアンタなら、もしかしたらオレの方を見てくれるかもなんて。
    はは。そんなわけないのにね」
    「……何言ってんだテメェ」

    それはまるで宮城がオレ…いや、こっちの三井寿が好きなように聞こえる。
    一度消したその考えが再び頭をもたげる。
    ありえないが、そうでもないと理解ができないのも確かだった。
    オレに対する態度、優しさ。階段から庇って落ちるなんてあまりにも異常だ。

    「ま、そんな事は別にいいんだけどさ。
    …あのさあ、オレを殴ったこととか気にしなくていいから。こっちでは殴られてねーし」
    「…てめーじゃねえけど、オレは別とは思えねえ」
    「ね、ねえ!それってさ…オレのこと嫌い…ってこと?」

    すがるような目で見つめてくる宮城。
    オレはコイツのことが嫌いだろうか。
    そもそも宮城自身が嫌いだとか、そんな事はどうでも良かった。
    バスケを楽しんでいる奴が憎かった。バスケに愛されてるかのように振る舞う奴が憎かった。
    ただ憎くてたまらなくて、とにかく鬱憤が晴らせればそれでよかった。
    言葉にならず黙り込むオレに、思い詰めたような声が届く。

    「…好きじゃなくていいから、嫌いにならねえでほしい…」

    オレの手を握る力は強いのに、俯いた姿は実際より小さく見えるくらいだった。
    オレに嫌われたからって、何なんだよ。
    っていうか、オレはお前が好きなオレじゃねえぞ。

    「別に嫌ってねえから、離せ…」
    「ホント?!」

    パッとあげた顔は明るくて目がキラキラしていて、離せと訴えたのにいつの間にかしっかり両手で掴まれていた。
    なんだコイツ、犬みてえだな。

    「………良かった〜……」

    今まで全く意識していなかったが、オレは好意を向けられると無碍にできないタイプのようだった。
    生意気で、チビのくせにバスケが上手くて、
    オレに嫌われると分かりやすく落ち込んで。
    そうじゃないとわかったら見えない尻尾を振って喜ぶ宮城。
    風呂上がりでセットをしていない宮城の髪は天然パーマらしく、フワフワとしている。
    その姿だと宮城がどう生意気だったのかも忘れてしまう気がした。

    「え」
    「…っ」

    気がついたら、先程自分がされていたように宮城の頭に手を置いていた。
    くそ、何やってんだオレは。

    「三井さ…」
    「寝る」

    今度こそ手を振り切り、逃げるように自室へと向かった。



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