○○をしたい話 その日、雷に撃たれたかのように身体が動かなくなって、ついでに鼓動も早くなって、自分がどれだけ相手を好きだったのかを自覚した。
「摂津、今夜はてめぇを抱きたい」
たった一言の暴力は、摂津万里の思考を停止させるには十分だった。
「抱かれるのが嫌になったのかよ?」
「そういうわけじゃねぇ、けど……、たまには、俺も」
言い淀む十座の頬はほんのりと染まる。ムラッとくるのは必然だが万里はグッとそれを飲み込んだ。
正直な話、抱かれるか抱きたいかと言われれば、抱きたい一択なんだが。
それを軸に駄々を捏ねて、最悪別れるなんて言う事になるくらいなら。
そう考えてぐっと、万里は喉を鳴らした。
「わかった、でも準備は自分でさせろっ!」
「? 準備、ってなんだ……?」
「ぁ? テメェいつもヤられてんのに何言って」
「……? 何訳わからねぇこと言ってんだ、ベッド行くぞ」
「いやだからっ! って、テメ! この馬鹿力!!」
「うるせぇ」
手首をガッチリと掴まれてしまえば、悲しいかな力ではかなわない。万里は抵抗を試みながらも、十座のベッドへと上げられてしまった。
「おい! せめて心の準備くらい!」
「??? 寝るのに心の準備がいるのか?」
「寝るからだろ!?!?」
眉根を寄せて疑問符をとばす十座にカッと目を見開いて、万里は覆い被さる十座の両肩を掴んで押した。
「そんなに、俺に抱かれたくねぇのか」
む、として唇を尖らせ、仕舞いには瞳も濁る十座に万里は慌てる。間違いなく変な方向に話が進みそうになる感覚は経験則だ。
腹を、括るしかないのか、何とか誤魔化せねぇかな、そうぐるぐる考えていれば、十座はどこか諦めたように眉を下げて「わかった」と呟いた。
それが十座に似合わず消極的でぞわりと万里の背を逆撫でる。
「ぁ~~! わーったよ! ……好きにしろ」
どうとでもなれと、両手を広げて抵抗を無くした万里に「いいのか?」と控えめに聞く十座は少しだけ嬉しそうに瞳を細めた。
別れるより何百倍もいいわ、と言葉にせず頷くだけで答える万里に、十座の唇が降る。
「ん、……せっつ」
「ひょ、ぉど?」
ちゅ、ちゅ、と小さく唇を合わせるだけの口付けにくすぐったく感じなから、万里はそっと目を閉じた。次にどうくる? と考えると隣に重量が増す。
「ぁ?」
「? なんだ?」
「……シねぇの?」
「?? 何をだ」
「セックス」
「せっ!?」
このあたりで、万里は自分が何か勘違いしているのだと、そう結論づけた。
真っ赤に染まった十座の反応はいつもの慣れない感じで狼狽えているからだ。
どこかで逆転でも出来ねぇかと往生際が悪いが考えていた思考を、十座の真意を探る方向に転換させる。
「シ、てぇのか?」
「は? テメェがシてぇんじゃねぇの?」
「俺、は寝るっつっただろ」
「…………」
はい、だいたい理解した。
たぶん間違いなくこの寝るは睡眠だ。
それならどこから抱きたいが出てきたんだ、訳わからねぇ。
そこまでのつっこみを、コンマ五秒でこなし、それなら、と万里は横になったまま、赤く染まる十座に向き直った。
目があっていたたまれなくなったのか金の瞳がそっと伏せられる。
「寝んなら、寝るか」
掘られる心配がなくなったなら、その抱きたい、を見せてもらおうじゃないかと、万里は十座の腰に手を回す。閉じた黒の世界でピクリと十座の身体が反応を示した。
「ん」
す、と十座は腕を回し、万里の頭を抱き抱えるようにして一度抱きしめてから、満足そうな表情で腕に万里の頭を乗せた。
「…………これ?」
すり、と甘えるように十座の腕に頬を擦りつけ、ちらりと間近で少し上目を使う。
「いつも摂津にされてっから、たまにはこうしてぇ、って」
思ってた、と鼻を万里の髪に埋めて、十座はほ、と息を吐いた。
「なーる、焦らすんじゃねぇよ……」
ぼそりと呟いて、それならば、と万里は口の端を上げた。
「次からは腕枕してぇ、とか、抱っこして寝てぇとかに変えろ、肝が冷えっから」
「? ああ、わかった」
素直に頷く十座に、万里は深い息を吐いて、十座の胸に寄りかかって瞼を閉じた。