月鯉 久方振りの続けての休暇に鯉登中佐の足取りは軽い。軍司令部の目と鼻の先にある街で買った目新しい、所謂ハイカラな食べ物を紙袋いっぱいに両手に抱えて街から少し離れた私邸へと戻ってくる。
広々とした庭園で花の剪定をしていた月島はバタンと聞こえる車の扉の音にゆっくりと腰を上げる、軍人の頃に比べたらその動きは隙だらけだ。出迎えようと首から下げた老眼鏡を外して立派な踏み石に足をかけ縁側に上がる、無意識によいしょ。なんて言葉が出て否が応でも月島は自らの老いを感じていた。
「基ー、!帰ったど」
「お帰りなさい音さ……またあなたは、無駄買いはするなとあれほど…」
「無駄じゃなか、珍しい菓子やら飲ん物やらあったで買うてきたっじゃ」
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