煙草俺は人の愛を受け取るのが苦手だ。どうしてこんな俺に?どうせ捨てられちゃうならって思って素直に受け取れないし返すことが出来ない。でも、こんな俺でも愛してると言ってくれる奴がいる。
「おはよう、My boy」
「愛しい私の坊や」
「ミスタ、愛してるよ」
ただでさえ愛されるのが苦手ってだってのに毎日こんな甘い言葉を囁かれる。こんな俺でも愛して貰えるのはもちろん嬉しい。だけどこんな日々が続くのはいつまで?いつ愛想つかされてしまうか、甘い言葉どころか、声さえ聞けなくなってしまったら?毎日愛の言葉を聞いてればそりゃ俺だって愛されてるのはわかる。でも終わりが来てしまうことを考えずにはいられないんだ。どうせ来る終わりならいっそ全部忘れてしまおう。それから俺はヴォックスに嘘をつくようになった。しかも最低な嘘を。
「ヴォックス、あのさ」
「なんだい?ミスタ」
「お、俺、好きな人出来たんだ、よね」
「……そうか。それは私のことではないな?」
何も言えなかった。ヴォックスを、俺を愛してくれる人を傷つけてしまった罪悪感で今にも泣きそうで、声も出ない。俺が黙ってるとヴォックスはわかったよ、と俺の頭をグシャっと撫でて行ってしまった。あぁ、俺はなんて最低なんだ。なんてことをしてしまったんだ。その日は罪悪感に駆られ、泣いて夜を過ごした。
「おはようミスタ」
次の日ヴォックスは普通に声を掛けてきた。と言うか、掛けてくれた。嬉しかったし安心した反面、また罪悪感に駆られる。俺が混乱して黙っていると、それに気づいたかのように
「ミスタ、昨日のことを気にしているのかい?私なら大丈夫だ。今まで通り接してくれたらそれでいい」
あぁヴォックス、そんな事言わないでくれ。今まで散々甘えてきた挙句最低なことをした俺を突き放してくれよ。じゃないと…じゃないと俺は…
「あ、ありがとう。じゃあ…そうさせてもらう」
声を裏返しながら何とか絞り出した言葉。声に出してみたら自分でも驚く程に声が小さくて情けない。
「あぁ、ありがとう」
なんで感謝するんだ?それは俺の台詞なのに。
こうして愛を囁かれる日々が終わることは無かった。ただただ罪悪感と自分への嫌悪が積もっていくばかりで、この気持ちをどうにかしたかった。それから少し煙草を吸い始めた。苦い。まずい。だけどそれが最低な俺への戒めのようで、落ち着いた。こっそり吸っていたけどすぐヴォックスにバレた。
「ミスタ!なんでタバコなんか吸ってるんだ?!」
お前への罪悪感を消すためだよ、なんて言えるわけが無い。そこで咄嗟に思い付いた。
「…好きな人が吸ってるんだ」
馬鹿か俺は。嘘に嘘を重ねて、自分を誤魔化してヴォックスを傷つけて。あぁ、消えてしまいたい。
「悪いがミスタ、それは許すことが出来ない」
「…え、?」
「どんな理由があろうと煙草は身体に毒だ。百害あって一利なしと言うだろう」
は?こんな時でも俺の心配してくれてるのか、?
「…頼むミスタ、もっと自分を大切にしてくれ。ミスタは自分が思ってるような人間じゃない」
見透かされてる。…でもなんで?なんで自分を大切になんて…
「なんッで、?なんでこんな最低なことしてる俺に、まだ優しく、してくれるの?心配してッ、くれるの?」
なんだ?視界がぼやけて見にくい。声もつっかえて上手く喋れない。
「私は優しくなんかない。好きな人が出来たと聞いて尚応援してやることが、お前を諦めてやることが出来ないんだ」
「……好きな人とか、全部嘘」
言ってしまった。ヴォックスはどんな目で俺を見るかな。きっと今度こそ嫌われる。怖くてヴォックスの顔が見られない。
「…正直気づいてはいたぞ」
「え、?なんで、」
「好きな人が出来たと言った時目が泳いでいたし少しキョドっていたからな。ミスタは優しいからこそ嘘が下手なんだよ」
「俺、優しくなんかない。最低な嘘でヴォックスを傷つけた。お前に愛されなくなる日が来るのが怖くて…そ、それで」
ふと何かに包まれたような感覚になった。
「あぁミスタ、すまなかった。ミスタが愛を上手く受け取ることが出来ないのは知っていた。だが毎日愛を囁けば大丈夫だと思ったんだ。信じてくれると。それがお前を苦しめていたとは…」
ヴォックスが抱きしめてくれたんだと気づいた。違う、謝るのはヴォックスじゃない。悪いのは全部俺だ。俺の心が強ければ普通に愛を受け取って、愛を送ることも出来たのに。
「ヴォックス、こッ、こんな俺でもまだ、愛してくれるッ、?」
「あぁもちろんだ。永遠の愛を誓おうじゃないか。」
「ヴォックス、ヴォックスごめんなさい。俺、俺本当はヴォックスのことがす、好きなんだッ、」
「その言葉を待っていたんだ。あぁ私の可愛い坊や、もう永遠に離さないよ」