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    むしむし

    @mushimusii

    夢垢

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    むしむし

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    途中ですが尻叩きのためにアップします。Webオンリー中も書けたら更新していきます。
    男夢主のためご注意ください。

    mykと入れ替わる話(男夢主)ピピピピピ

    「……うーん」

    目覚まし時計のアラーム音が室内に響き渡る。けたたましいアラーム音によって深淵にある意識が浮上してきた。まだ起きたくない億劫な気持ちを抱えながら音を止めようと布団の中から必死で手を伸ばす。
    時計をカチリと押しようやく止まったことに安堵しながら時刻を確認しようと薄らと目を開けた。

    「………ん?」

    長針は家を出る10分前を指し示していた。やばい!と急いで布団から起き上がりその場でパジャマを脱ぎ捨てる。朝ご飯を食べてる余裕はないが準備しながらロールパンでも摘もうとカッターシャツを羽織りながらダイニングテーブルへと向かった。
    テーブルには昨日の晩御飯が箸をつけられた様子もなくラップにかけられたまま置かれていた。

    「せっかく用意したのにな。帰ってもこなかったのかよ」

    この分だとこれにも来ないだろうなとテーブルの上に置いてある三者面談のお知らせの用紙をちらりと見る。ちなみに料理はちゃんと冷蔵庫に仕舞った。捨てるなんて勿体無い、今日の俺の晩ごはんになる予定だ。
    そうこうしているうちに家を出るタイムリミットが迫っている。制服ヨシ、鞄ヨシ、顔はまあ洗ってないけどそんな気にする人もいないしヨシ!靴を履き玄関を開けるとどんよりとした空模様が見えしとしとと雨が降り続いている。そういえば昨日ニュースで梅雨前線が停滞してるって言ってたな、梅雨の到来か。傘が必要なため傘立てから透明のビニール傘を抜き取る。

    「………行ってきます」

    誰もいない廊下に向かって挨拶をする。行ってらっしゃいはもう何年も聞いていなかった。




    家から学校まで一走りしギリギリ遅刻することなく学校に辿り着く。鞄や服についた水滴を払い除け教室に入ると何やら賑やかな声がした。

    「イエーイ野郎ども!今年もこの季節がやって来たぜ!チキチキ!廊下滑り大会〜!!」
    「今年もやんのかよ…」
    「おはよう名字君」
    「はよ」

    去年も一昨年もやった最早恒例と言えるこの行事。毎年梅雨の時期に開催され、結露を利用しどれだけ早くタイムを叩き出せるか競い合うのである。見所はタイムよりも実はゴールまで滑りきらずに転ぶ者たちの不格好な姿であるのだが…。あれ、去年委員長骨折してなかったっけ?
    声高に話している委員長に目を向け、隣の女子に挨拶をし鞄を横にかけ席へと着席する。
    今年の被害者は誰かなと結露で濡れている廊下を見ていると始業開始のチャイムが鳴った。蜘蛛の子散らすように解散しクラスメイト達は席に着き一限目の担当教師が入室する。
    今日は英語か。ワークの指定ページを開くと何も書き込んでいないまっさらな状態だった。しまった、宿題してないやらかした。そういう日に限って教師に当てられ運がない。これは今年の廊下滑り大会の被害者は俺かもしれないと嫌な予感がした。




    「次は名字の番だ!」
    「あぁ〜…」

    時は放課後、他の生徒に迷惑がかからないように少し時間を待ったあと廊下滑り大会は開催された。コースは直線、突き当たりの廊下までである。好記録を出す者、ゴールまで届かず転ぶ者、笑いに走り盛り上げようとする者と様々である。部活がある人を除く男子全員が滑り切った後に俺の番がやってきた。去年は最下位ということもあり正直言うと今年は気乗りしない。そんなことを言ってクラスの雰囲気を壊すほど馬鹿でもないため渋々スタートラインについた。

    「位置について……よーい、ドン!!」
    「ッし!」

    助走をつけ廊下を一気に駆け抜ける。空気抵抗を減らすため前傾になり若干屈んだ姿勢をとった。結露により十分に濡れた廊下は俺をスピードに乗せる。あとは転ばずにたどり着けば前回のドベより高記録が期待できそうだ。

    予想より遥かに上回るスピードに高記録を確信する。見えないゴールラインを超え転倒しなかったことに安堵するがどうも勢いが殺せなかった。焦っていると俺より小さめのタッパに金髪の学ランが横切り視界の目の前に入った。

    「やっっべ!!!!」
    「あ?」

    ドンッ!

    「いてててて…」
    「痛ェなオイ」
    「マイキー大丈夫か?」

    気づいて叫んだ努力は虚しく身体に強い衝撃が走り2人とも廊下に倒れ込む。ぶつかったところは痛いが幸い他に怪我はしていなかった。待て、ぶつかった相手もしかして東京卍會の総長、佐野万次郎では?うわーやらかした。一気に肝が冷え謝罪しようと急いで起き上がる。相手の顔も見ずに(というか怖くて見られない)ごめんなさいと土下座した。

    「え」
    「オイマイキー何土下座してんだ?」
    「………ん?」

    様子がおかしいと下げていた頭を恐る恐る上げると、目の前には俺と同じ顔が廊下で胡座をかいていた。

    「何で!!」
    「オレが聞きてえ。つーかオマエ誰?」
    「はあ?」

    心底不機嫌そうな顔をした俺(中身は佐野)と土下座をした佐野(中身は俺)、状況が読み込めず眉間に皺を寄せている龍宮寺の非常にカオスな状況となった。

    総長の肩書きのあるものが人目が着く廊下で土下座は不味いと慌てて起き上がり屋上に場所を移動した。
    後に聞いた話であるがクラスメイトは俺が佐野にぶつかった時点で逃げるように解散したらしい。お陰で佐野の土下座姿は見られておらず良かったと安堵したが、こいつら俺を売ったな?と直ぐに察した。全く酷いクラスメイトたちである。


    クラスメイトが俺を売った話はさておき、ここからが本題だ。

    「マイキーの中身がオマエで、オマエの中身がマイキーってことなのか?」
    「「ウン」」
    「〜〜っはぁ〜〜〜〜〜」

    龍宮寺は長い溜息を吐いたあと右手で顔を押さえた。まあそうなるよな。一体これはどうすればいいんだ。

    「オマエ名前は?」
    「名字名前です…」
    「ふーん」

    自分の顔に名前を聞かれるってなんか変な感じだ。名前を聞いたあとグッと顔が近づいてきた。じーっと見たあとニカッと笑いこう続けた。

    「ウン、もう1回ぶつかるか!」
    「え!やだ!」
    「同じ衝撃加えれば戻るかもしんねーじゃん。な!ちょっと痛いだけだって」
    「痛いのは嫌だわ!!」
    「えー?」

    俺に提案を却下され佐野は頬を膨らませブスくれた。な!1回だけ!な!と肩を掴み前後に揺さぶってくる。その台詞ヤリチンの台詞っぽい。
    揺れる視界の中この総長様を何とかしてくれと龍宮寺に視線を送る。向こうも視線に気づいたようで目をパチクリさせると肩を竦め首を横に振った。……なるほど、諦めろと言うことか。

    「龍宮寺く〜ん何とかしてよぉ」
    「その顔でそう呼ぶな」
    「じゃあ………ケンちゃん?」
    「ぶっ殺す」

    龍宮寺が両指の関節を鳴らしながら近づいてくる。どうやら選択肢を間違えたらしい。

    「タンマタンマタンマ!冗談です!」
    「最初からやるなアホ」
    「ねーねーケンチン、どら焼きある?」
    「マイキー少し黙っててくれ……」

    身振り手振りで冗談だと示し握られていた拳が解除された。殴られずに済みそっと安堵する。入れ替わった俺も副総長もこんなに頭抱えているのに総長様は何処吹く風、たい焼きがあるかどうかの心配をしている。そっちはそれでいいかもしれないがこっちはいつ喧嘩売られるかビクビクしながら生活しなきゃいけないんだぞ。ちっとは焦ってくれよ。行き場のない苛立ちと不安を屋上に捨ててあるペットボトルを軽く蹴ることで解消させた。

    「ケンチン、今日集会じゃね?」
    「………………え?」
    「あー……」

    思い出したように手を叩いた佐野はとんでも無いことを言い出した。龍宮寺も言われて思い出したのか何も無い宙を見つめて遠い目をしている。集会?集会って何?今後の展開が読め冷や汗をかく。頼む、言うな。言ってくれるな。耳を塞ごうと両手を上げた。

    「オマエ、総長として集会に出席な」
    「だから言うなって!!!」

    佐野の方が早く言葉を発し聞かなかったことには出来なかった。行き場のない手は下ろされ逃げ場のない状況にガクンと項垂れた。




    午後10時を少し過ぎ雨も少し上がった頃。俺は佐野万次郎の姿で武蔵神社の境内にある階段を登り切った本殿の前に鎮座していた。
    ここまで来るのには紆余曲折あった。放課後そのまま佐野と龍宮寺に拉致られた俺は集会の時間までファミレスで過ごすことになった。丁度腹も減っていたしまあいいかと食事を摂り食べ終わった瞬間に睡魔に襲われた。強烈な眠気に逆らえず気がついたら龍宮寺に背負われ涎を垂らし(龍宮寺の服にべったりついていたので謝り倒した)不良集団に囲まれていたのだ。不良集団に1人で無双する俺の姿を見た時は唖然としたものだ。俺の身体とは思えないしなやかさ、軽やかさ、脚さばき。そして何よりも相手を1発で仕留める強烈な蹴り。身体は入れ替わっても中身は最強の総長様である事を実感し息を呑んだ。気がついたら周りには人が積み重なっており佐野は勝利を手中に収めていた。

    「行こうケンチン、名字」

    軽く伸びをし振り返った佐野はスタスタと歩き始める。
    不良をなぎ倒したその後ろ姿は確かに俺の姿をしているはずなのに俺にはない何かを感じ、コイツについて行きたくなる気持ちが少し分かった気がする。

    「かっけー……」
    「だろ?」

    俺を背負っている龍宮寺は顔だけ振り返りニッと笑う。龍宮寺も佐野に魅せられた1人なんだな。こんな魅力的なヤツが総長をしている東京卍會はどんなチームなんだろうと少し興味が沸いた。
    しかしこの後不良に喧嘩を売られるのが10回連続して起き、その度にボッコボコにしていくのには流石に引いた。やっぱり不良は怖い。

    佐野が俺の姿で暴れまくったせいで他の暴走族に東京卍會に総長並に強い奴がいると噂されているとは露知らず、俺は武蔵神社に集まったこの圧倒的人数と特攻服にビビっていた。佐野の姿をしているためオロオロする訳にもいかず龍宮寺にもドンとしてろと事前に注意を受けていた。
    集会の時刻になり俺には内容がさっぱり分からないため本日は龍宮寺が仕切る。次は羅愚那っていうチームと抗争らしい。俺には関係ないと話を右から左へと聞き流していた。
    ふと神社境内のテッペンから見下ろしてみる。同じ特攻服の群衆のこの景色は本来なら佐野が見ている景色なのか。ここに、俺がいていいのだろうか。ぶつかって入れ替わった原因は俺だし急に申し訳なくなってきて足に目線を落とす。

    「あー、最後に総長から一言」
    「えっ?」

    龍宮寺の一言に思わず顔を上げる。いやいや待て待て聞いてない。驚いた俺は龍宮寺を見たあとに佐野を見やる。佐野はじっと俺を見つめるだけだった。
    輩たちの目線が一斉に自分に集まる。どうしよう……腹を括るか。ギュッと拳を握り己を奮い立たせ立ち上がる。大きく深呼吸をし腹の底から声を出した。

    「羅愚那潰すゾ!!!」

    声を合図にウオオォオオ!!!と雄叫びが上がる。どうやら士気は高まり総長としての役目を果たしたようだった。

    「やるじゃねーのアイツ」

    その姿に佐野は満足そうに笑った。




    「……で何でこっちの家?」
    「知らねェ家とか嫌だろ?」
    「いや俺ここ知らないんだけど…」
    「ン?」
    「イエ、ナンデモナイデス」

    集会の後に連れてこられたのは一等地に建つ平屋の一軒家。日本家屋と呼べる相応しい建物だった。離れに案内され広い物置部屋に長めのソファ。周りはスチールラックが組まれそこに本や物が置かれていた。中学生にしては大人びた部屋だなと感じたがあまり見るのも失礼だと思いソファに腰を下ろした。
    そもそもここに来たのは入れ替わりを他の人に悟られないためである。互いに不慣れな環境で過ごすよりも慣れるまで泊まりと題して一緒にいた方が都合が良いと龍宮寺が判断したからだ。俺は別にバラバラでも良かったけど副総長様がそうしろって言うから仕方なくこうなったのだ。

    「名字!風呂いこーぜ!」
    「何でそんなウキウキなの」

    少しこの状況を楽しんでいる佐野は鼻歌を歌いながら風呂に向かう。能天気な総長様を尻目にはぁ…と溜息をつく。適当にタオルと着替えを拝借し佐野の後を追って風呂場に向かった。
    別に2人で入らなくても問題ないのではと気づいたのは佐野のパンツを脱ぎ始めた時だった。もう服を脱いでしまったし着直すのも面倒くさい。下ろしたパンツから脚を抜き佐野に先に入ると声をかけてから浴室へと足を踏み入れた。
    水で濡れている床から足先に冷たさが伝わる。早く洗って湯船に浸かろうとボディソープを手に取った。
    ふと鏡に映る佐野の姿を見て本当に入れ替わったんだなと改めて実感する。フワフワのピンクゴールドの髪の毛も、黒曜石の様な瞳も、この傷ひとつ無い逞しい身体も全部、何もかもが違う。

    「……ははっ」

    何もかも、違った。


    全て洗い終え湯船に浸かろうと片足を温かい湯に入れる頃、そういえば佐野が全然入ってこない事に気がついた。まさか脱衣所で寝たかと思ったがドタバタと歩く音が聴こえ思い違いかと肩まで湯船に浸かった。
    バンッ!と扉を勢いよく開ける音がする。ぶっ壊れるんじゃないかと思うくらいの大きな音に驚きうるさいと注意しようと佐野を見やる。

    「佐野うるさ──」
    「…………オマエ…何だよコレ……!」
    「──あぁ…ソレね」

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