既知との遭遇「やあ」
深みのある低音が頭上から振ってきて、皆守は顔を上げた。
声の主は小さな円卓を挟んだ向こうで、インスタント珈琲の紙カップを片手にそびえ立っていた。そう、まさに「そびえ立つ」という形容が似合う長身の男で、そのうえひどく物々しい顔をしていた。目を中心にして左顔面を縦に割る物騒な刃傷の上に黒い眼帯を当て、さらにその上に細い金縁の丸眼鏡を掛けている。
しかし当人は傷の存在をまるで気にかけていない様子で口端におだやかな笑みを兆し、小さく首を傾げてみせた。「ここに座っても構わないかな」
ここ、と男が手で触れて示したのは椅子の背もたれで、皆守の向かいの空席だった。
思わず周囲を見回す。日本支部の地階に設えられた職員向けのカフェスペースはがらりとしていて、というよりも皆守と男のほかにはそもそも余人が見当たらない。当然、席は他にいくらでも空いている。
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