立香が手を伸ばすと何頭もの犬達が集まってきた。その隣ではマシュも愛らしさにこらえ切れなかった声をあげている。
もふもふとした毛並みに誘われるまま、二人は犬達の頭や腹をなでたり、体を這いあがってくるのを抱きしめたりと思い思いの方法で可愛がる。
王たるシャルルマーニュも、その平和な光景にふふと笑みを零した程だ。
どれだけ厳しく苦しい戦いのさなかでも、ほんの一時与えられる幸福。思う様それを感じてほしいと願う。
「シャルル!」
やってきていたシャルルに気付いた立香は、手をあげて居場所を教えるように大きく手を振る。
その声に近寄って行けば立香は抱いていた犬ごとシャルルマーニュの方へ体を向けた。
「シャルルも撫でる?」
そう言ってシャルルマーニュの方へ近づいてくる立香に、反射的に手が伸びそうになったがどうにか押しとどめる。
「いいや、俺は」
「撫でていただけると犬士たちも喜ぶと思います」
シャルルマーニュの遠慮に犬達の飼い主の馬琴が言葉被せる。
立香だけでなく、馬琴にも、当の犬にもキラキラと期待に満ちた目が向けられ、シャルルマーニュは耐えきれず折れた。
手を伸ばしてそっと頭に手を置くように撫でるとフワフワとした柔らかい手触りに心癒され、嬉しそうに尻尾を振る姿に手が離せなくなる。
「可愛いでしょ!」
楽しそうに嬉しそうに笑う立香にもまた。
「ああ、とても良いな」
シャルルマーニュも笑みを零しながらもう数度犬を撫でて手を離した。
もっと撫でててもいいのにと残念そうに立香は言うが、もう十分堪能させてもらった。犬を撫でていた手をそのまま立香の頭へ移して、同じように、慰めるように撫でる。
「ありがとう」
シャルルマーニュがそう言うと、立香はぽかんとした表情から急激に顔を赤くして慌て始めた。
何を言いたいのか分からないどころか、日本語なのか分からないような言語で話し出す立香にシャルルマーニュは慌て、その騒動に気付いたマシュは「シャルルマーニュさん!」と責めるような声を上げる。そうして少し離れたところで馬琴は楽し気に帳面に筆を滑らせていた。