深夜、何となく喉が渇いて水を飲もうとキッチンへ向かう途中、立香の部屋から光が漏れているのに気付いた。
レポートに追われているとは言っていたが根を詰め過ぎではないだろうかと様子を見に行くと、パソコンを置いた机の前には一つの山が出来ていた。
椅子に座ったまま机に突っ伏し、すうすう寝息に合わせて背中が動く。
音をさせないように部屋の中に入るとパソコンはまだスリープモードに入っていなかったようで、ディスプレイは明々と表示を続けている。見る限りレポートは最後まで終わっているようだ。見直しなどが終わっているかは分からない。
しばらく考え、優先すべきは立香の体調だと判断した。
肩に手を置いても小さく声を上げるだけで起きる様子はない。ここ数日レポートに集中していたこともあり疲れ切っているのだろう。
できるだけ揺らさないようにゆっくりと椅子を引くと、そっと抱き上げてベッドへと寝かせる。
少しむにゃむにゃとと寝言は聞こえたけれど立香が起きる気配はなかった。
布団を肩までかけてやると、机に向かい椅子を戻す。
念のためデータの保存をして、パソコンはスリープモードにした。
パソコンの横にあったスマホのロックを解除すると、アラームをいつもより早い時間にセットし充電器につなぐ。
そこまでやって一息つく。
思いつく限りの事はやった。
他に何かないだろうかと指折り数えながら確認してみるけれど、多分ない、と思う。
最後にベッドの横に膝をついて「おやすみ」と額にキスを落として立ち上がると、パチンと電気を消して部屋を出る。
そのまま自分の部屋に戻ってベッドに入ってから、水を飲むのを忘れた事を思いだしたが、もう一度ベッドから出るのも面倒になって諦める事にした。
翌朝。
立香に「おはよう」と言いながら赤い顔で頬にキスされて、あの時起きていたことを知らされた。